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神ノ社  作者: 空橋 駆
1章 空に近き神社
4/36

4話 外から来た人

あの日から、あまり鳥居の外を意識する事は無くなった。

今日も相変わらずの、平和な場所がそこにある。


食卓もまた、いつもと変わらない風景。

あ、献立は毎回それなりに変わっているのでご心配なく。

文句つけると巫女さんに怒られかねない……


一度もその件を口に出した事はないのだが、

一応作って貰っている身なのだから文句を言うのは失礼にあたるだろう。


「ごちそうさま」

「ごちそうさまです」

「ごちそうさま~」


僕達は三人揃って朝食を食べ終えた。

今日もまた、食事としては軽い物ではあったが……

不思議と、雰囲気については慣れてしまうとそこまで悪いとは感じなかった。


(すっかりと、溶け込んでしまったな……)


人の適応能力の高さというものを思い知らされた気がする。

まあ、最初からしっかりと馴染んでいたのは、

曲りなりとも旅人をやっていたからなのかもしれない。

郷に入れば郷に従えと言うではないか。


ただ、食事に関してはやはり男である僕には少し物足りない時がある。

一応その辺は伝えてあるが、材料の都合等もあるのだろう。

この辺は、本当に巫女さんの判断に任せている。


仕方ないだろう、料理の経験があるのかも思い出せない以上、

無闇に調理器具に触れるわけにも行かない。

手順などを間違って怪我をしたら洒落にならないだろう。


「それでは、片付けましょう」

「たびびとのおにーさんも、いっしょに~」


里遠ちゃんの元気な返事を聞くと、こちらまで元気になるね。

いやいや、そんな事を思っている場合じゃなかった。


「すみません、皆さんに少しお話があります。

 片付けの方は少しだけ待っていただけませんか?」

「あ、はい」

「みにゅぅ~」


手に持った皿などを机に置きなおして、

僕は少しばかり、話をする体勢に切り替えた。


「ここ最近色々と考えていたことがあります。

 僕一人の意見で押し通すわけにはいかない事なので、

 あえて相談の場を設けました」


その言葉に驚き、二人は同時に顔を向けてきた。

本人達は全く気付いていないと思うが、本当によく似ている。



だが、今はそんな事を考えている場合ではない。

大切な本題が、残っている。


「少し前から疑問に思っていた。

 僕の呼び名、ずっと"旅人さん"だよね?」

「はい、私はいつもそう呼んでますね」

「たびびとのおにーさんだよ」


まあ、この際微妙に追加されている部分は省こう。


「おにーさん、たびびとだもんね」

「見てくれだけは旅人だね。

 だから個人的にもどかしく思ってもいるんだ」

「もどかしい?」

「もどかしいのですか?」


里遠ちゃんも巫女さんも一緒に首を傾げる。

いやはや、結構考えて言っているはずなんだけど、上手く伝わっていないみたいだ。


「今後、それなりに長い期間ご厄介になるのならば、

 "旅人さん"と呼ばれ続けるのもどうかなと思う……」

「私もそれは気になっていたのです。

 ただ、旅人さんにその気が無ければ言うべきではないと考えておりました」

「名無しでは格好悪いから旅人と名乗っているが、

 ここに篭っている状態で旅人を称するのは気が引ける」


現に、風貌だけの旅人でしかなく、旅をしていた記憶すらない。

張りぼてではやはり何処と無く締まらない。


「元旅人さんで宜しいですか?」

「流石にそれは勘弁してください。

 安直も甚だしいですし、完全に冗談の領域でしょう」

「当然です、真面目に提案して出る答えだと思いましたか?」

「いいとおもうの~」

「里遠ちゃんまでその冗談を推してくるのか……

 勘弁してください、本当に」


いやいや、毒気大増量の笑顔を引っ提げて決めようとしている時点で、

既に冗談にはあまり感じませんが……

少し見方を変えたほうがいいのかな、この二人の事。


「と、ともかく……」

「おにーさんはおにーさん。かわらないよ?」

「まあ、その通りだね」

「それでも、確かに旅人さんと呼ぶのは少し気になりますね。

 旅人さんは、何か案があるのですか?」


そうそう、ここまで引っ張ってくれてありがとう。

ようやく言いたい事を言える状態になった。


「随分と話が逸れたけど、今日はその件で話したかったんだ」


正直ここまで脱線するとは思わなかった。

覚悟はしていたのだが、ここまで変な方向に話が逸れるとは。

だからこそ、真剣な目で僕は問いかけねばなるまい。



「名前が欲しい。

 仮の名前でいいから、ここに居る間の呼び名が欲しい」

「名前……ですか」

「なまえ……」


二人とも、驚いた表情だった。

だが、その真意は汲み取ってもらっているみたいだ。


「巫女さんの本名は桃子さんですよね。

 僕は愛称として巫女さんといつも呼んでいます」

「はい、最初にお願いした通りですね」

「僕を"旅人さん"と呼ぶのは愛称でしかない……

 そう思いませんか?」

「そうですね、私やこの娘の"旅人さん"は、

 単なる通称でしかありません」

「うん、なまえはないの」


記憶が無いから、名前が無い。

本当の名前を思い出せない限りは名前が無いまま。

このままでいいのか、良くはないだろう。


「僕はこのまま、記憶が戻るまでずっと名無しなのか?」

「旅人さんが望むのならば、それで良いと思いました。

 しかし、旅人さんは……」

「おにーさんは、おにーさんだもん……」


里遠ちゃんの言う通りでもある。

名前の有無に関係なく、僕は僕だ。

旅人ではない。旅人なんかではないんだ。


「名も無き旅人のままでは、居辛いのですね」


そんな気持ちを、巫女さんは汲み取ってくれたらしい。

軽くだが、頷いていてくれた。


「旅人ではないのに旅人の格好をしているだけで、

 それを名として呼ばれている事に不安を感じただけです」


ここだけの話だが、まるで本当の旅人になってしまいかねない。

そんな予感があったのだ。


「歌人でも、詩人でも、流浪の人でもない。

 僕は本来、旅人でもないはずだった。

 ここに参りに来ただけの、記憶喪失の男だった」

「思い出したのですか?」

「思い出していなくとも、確証が持てた気がしたから、

 旅人と呼んで欲しくなった。

 これは、僕のわがままかな?」


旅の知識、旅の記録や記憶が何も無いのに。

これから旅を始めるわけでもないのに。

そんな人間が、どうして旅人なんて呼ばれなければならない?


「ようやく、認めていただきましたか」

「はい?」

「だから、この場所に留まっていただきたかったのです」


巫女さんは、それがいずれ来ると知っていたらしい。


「最初から旅人ではないと知っていたから?」

「姿形だけを模していた別物としか思えませんでした。

 もしくは、この場所に訪れる為だけに旅をした方でしかない人なのでしょう。

 世の中を巡った方にしては、あまりにも雰囲気が違いすぎたのです」


僕が僕自身で気付くまで彼女達は待っていたのだろうか。

それならば、最初から……


「だからこそ問います。

 あなたは、何者ですか?」

「おにーさんは、だれ?」


二人が改めて僕に問いかける。

答えなど既に決まっている。


「名無しだ。名無しの誰かだ」

「ここに居る限りだけでもいいので、名前は必要ですか?」

「是非とも。自分の正体に近付くまでは、

 その名前を自分の名前として使って生きてみたい」

「はい、それで良いのです」

「うんっ」


笑顔の二人を見て、ようやく自分は始まりの地に立ったと思った。



改めて、僕の名前について考えようじゃないか。


「名前の候補はありますか?」

「特に無いんですよ。

 いい案ありませんかね?」

「唐突に申されても……」

「なにもでてこないよぉ~」


前途多難だ。簡単に済む問題じゃないと思うが、

変な名前だけは避けたいところだ。


二人が言葉を発する前に、

何か思い当たる言葉は無いか……


「僕の境遇から考えた方がいいのかもしれない」

「例えば、どんな物ですか?」

「鳥居の外からやって来た名無しの旅人……とか」

「ながいよ~」


言ってから思った、このままでは使えないと。

そこから一部分を切り出してみれば使えそうだ。


「ならば、外から来た人ですか……」

「それだ、そこから考えてみようか」


今度は、絞られた言葉から色々な組み合わせを考えてみよう。


外来人。何か違うな。このまま名前にするのもどうかと思う。

外人、そとひと、これもしっくりと来ない。

逆はもっとありえない、人外なんて失礼極まりないだろう。

外来、人の名前にするには少々問題がある気がする。


そうなると残った組み合わせから出てくるのは……


「未来の来に、人。この二文字なら……」

「くるひと、もしくは……

 らいと、あたりが良いのでしょうか?」

「らいと?」

「読みは前者よりも後者の方が気に入った。

 何だろうな、自然と馴染む気がする」


そうだ。この名前。

何かとても、僕らしさを感じるのは……


「私としても、呼びやすいですね」

「おにーさんのなまえ、らいとさん?」

「うん、それにしようかと思うんだけど」

「らいと、いいなまえだよっ!」


里遠ちゃんが僕の手を握り、上下に振りまわしてくる。

止めてくれ、痛いから……


「それにしよう、それにしようよおにーさん」

「私も気に入りました。是非ともそう呼ばせてください」


参ったな……

反論を立てて議論する必要も無いくらいに完璧だ。


「解った。それならこれから僕は……

 来人と名乗る事にしよう。

 皆も、そう呼んでくれるかな?」

「はい、承りました」

「うんっ、おにーさん!」


思ったよりも簡単に決まってしまった。

これで、名無しと呼ばれることも無ければ、旅人と呼ばれることも無いだろう。

しかし、里遠ちゃんの呼び名はおにーさんのままなんだろうな……

この辺は今まで通りでいいのかもしれない。

巫女さんの事を呼ぶ時みたいに呼び捨てにされても困る。


「私のように、苗字は必要ですか?」

「苗字まで作るのは止めておくよ。

 本来の名前を取り戻していない事を表す意味でね」


そう、仮の名だけあれば十分だ。

何も僕は、そこまで望んでなどいないし、望んではならないと思う。

この場所に留まる以上、そこまでの物が必要になるとは思わなかった。


「名前を決めて、戻ってきた物はありますか?」

「無いね。だけど気付いた事は色々とあるよ」

「例えば……」

「食事の作法とか、礼儀作法とか、日常的な事は大体覚えているんだ」

「そうですか、記録の部分の方に問題があるのですね」

「そうなるのかな」


肝心な記録の部分に関しては……

ここに来る前の事が何も無い程度と言えば深刻さが伝わるだろうか、

頭を打ったり病気などで起きたりする記憶喪失とは次元が違う物なのだろう。


「来人という名前は、多分僕が本質的に知っていたものかもしれません」

「"外から来た人"という言葉も、厳密には私が言った物ではありません。

 そんな物が、手掛かりになるのでしょうか?」

「僕にとっては、唯一の手掛かりなのかもしれないね」


手掛かりならばいい。

こんな思い付きの何かが引っ掛かって、幕が開けるのならばそれでいい。


「さて、お話も終わりましたのでそろそろ片付けますね」


巫女さんの一言で、この談義は終わりを告げた。


「解りました、お願いします」

「それでは、その娘を部屋まで送ってあげてくれませんか?」

「あ、解りました」


里遠ちゃんの方に目を落とす。

朝食を食べてあまり時間が経っているわけではないが、

どうも少し眠そうな顔をしている。


「疲れた?」

「うん、おはなし、ながかったから」

「今度からは善処するよ」


まあ、子供には退屈な話にも近かっただろうね。

結構真剣になって一緒に悩んでくれていたから、

そのお礼も兼ねて……


「ほら、背負ってあげよう。

 もしかして、男の人に背負ってもらうのは初めてかな?」

「ん……はじめてだよ」

「そうか、巫女さんには背負っても貰った事は?」

「とってもまえに……あったかも……」

「そうか」


背中に、少しばかりの重量が掛かるのが判る。


「しっかり捕まって」

「うん」

「よいしょっと」


首にしっかりと手が掛かっているのを確認して、

両足をちゃんと持って、立ち上がる。


「ふえっ……えへへっ」

「どうかな?」

「うん、せなか、ひろいの。

 たかくって、いつもとちがうの」

「気に入ってもらえたかな?」

「うんっ」


子供を相手した記憶は無いのだが、何故だろう。

この感覚は嫌じゃない。


「このまま部屋までゆっくり行く方がいいかな?」

「ゆっくりがいいよ~」

「わかった、お望み通りゆっくりと歩いていこう」


思ったとおり、結構軽いのであまり疲れることは無い。

あと、結構この状態は照れる。

誰かが見ているわけではないのだが……


「とっても、いいきもち」

「そうか」


背負われた記憶も無ければ、背負った記憶も無い。

だから、こんな時に何を言い返せばいいのかも知らない。

短い距離を背負いながら歩く、ただそれだけの事なのに。


(何故、こんなにも優しい気持ちになれるのだろう)


しかし、僕の疑問はあっけない現実によって掻き消された。


「さて、残念だけど……」

「おへや、ついたの?」

「着いたよ」


あっという間に終わってしまうほど、その距離は短かった。


「もっとぉ……」

「ん?」


里遠ちゃんは、不満だったのだろう。

懇願する声を聞いて、僕は戸惑った。


僕から何かを頼む事はあれど、里遠ちゃんから何かを頼まれる事は少ない。

ならば、これもいい機会だ……


「もう少しこのままがいいのかな?」

「うん、もうすこし、このまま」


しかし立ち止まったままというのも面白くは無いだろう。


「少し外を歩きに出るかな」

「うん、いこうよ」


履物を変えて、外に出よう。



里遠ちゃんには一度降りてもらい、改めて履物を履かせてもう一度里遠ちゃんを背負う。

途中で僕が力尽きると大変なので、念のために履いて貰った。


外に出てみると、少しだけ風が吹いていた。


(心地よい風だ……)


思わず静止して、目を閉じる。


「おにーさん、どうしたの?」

「風が吹いている。心地よいなと思ってね」

「いいきもちなの~」


部屋の中を歩くのとは少し違う。

体力が余計に必要になると言った方が良いのかもしれない。

その反面で、里遠ちゃんは滅多にできない体験をしている事になる。

嬉しいだろうし、楽しいだろう、僕としては満足している。


「まあ、巫女さんだと体力があまりなさそうだから……」

「ひろくてたかいから、おにーさんのせなかのほうがいい」

「そうか、そう言ってくれると嬉しいね」


まあ、性別の違いもそうだろうけど……

やはり、背の高さって結構大きな印象を与えるのだと思った。


「たまには、こういうのも良いね」

「うにゅぅ……」

「おっと……まだ寝てくれるなよ」

「すぅ……」


言った直後に寝息らしき物が聞こえた気がする。


「寝てるのかい?」

「んにゃ?」

「寝ないでくれよ……」

「だって、きもちいいもん……」


明らかに寝ぼけ始めているじゃないか。

食後の時間から考えても確かに眠くなる時間帯だろうけど、

今のところはまだ朝なんだ、こんな時から寝ないで欲しい。


「おにーさん……」

「ん?」

「うみゅぅ……」

「いや、そのまま寝入らないでくれ……」

「みゅぅ、おきてる……よ?」


寝る寸前だとは思うけどね。

ゆさゆさと揺さぶってみれば目を覚ましてくれるかな?

いや待て、反対に余計に眠気を誘いかねないか……


「と、とりあえず戻るかな。

 僕の腕も疲れてきたし、寝られると色々困るからね」

「いいよぉ……」


少しだけ寝ぼけていた里遠ちゃんが何とか返事をしてくれた。

返事が無かったら、文句を言われるのを覚悟で戻るつもりだったが、

これで安心して戻れそうだ。


それでも履かせている靴を脱がせるまでは寝て貰わない方が良い。

そう思って、駆け足で戻った。

その振動の方が眠気を誘うであろう事を考慮せずに。


結局、靴を履きかえる前に寝てしまったので、

何とかして起こして、靴を履き替えさせる事になった。


「ほら、とりあえず目を覚まして靴を脱いで……」

「にゅぅ……」


こくり、こくりと寝ぼけながらゆっくりと靴を脱ぐ里遠ちゃん。

僕はそれを手伝って、再び背負ってあげた。

とりあえず難関になるであろう部分は突破したので、

ここからならば寝られてしまっても多少は何とかなりそうだ。


「すぅ……」

「乗って直ぐにか……」


はい、予想通りの状態になった。

夢見心地で靴を履き替えていたから仕方ない。

部屋でゆっくりと休ませてあげた方が良いだろう。


静かに、ゆっくりと部屋にまで送り届ける。

そっと降ろして、とりあえず寝かせた。

まだ昼食にもならない時間だから布団を敷く必要はない。

そのまま畳の上で寝てもらえば良いだろう。


あとは……

汗を掻いて寝冷えされては困るので、薄い布団を掛けてあげた。


そして、僕は……

里遠ちゃんの頭を、軽く撫でてあげる。


「えへへ……」


寝ながら、少しだけ笑っていた。

何となく、僕も笑顔になった。

想像以上に心地よかったのだ、こののんびりとした時間が……


僕は静かに、里遠ちゃんの部屋を立ち去った。

彼女が目を覚まさないように、最大限に配慮して。

周囲の音は静か、きっと足音すら際立つ。

いつもよりも静かに廊下を歩く事を心掛けて。



廊下で巫女さんとすれ違う。


「あの娘は、どうしていますか?」

「里遠ちゃんなら、寝ていますよ」

「話し相手になっていただいたのですね。

 ありがとうございます」

「気晴らしも必要だと思って、少し外に出ていました。

 里遠ちゃんはあまり外に出ていないのですか?」

「そうですね、私の知る範囲では、

 あまり積極的に外に出る事は無いと思っています」


私の知る範囲では……

僕はその言葉に少し、引っ掛かる所があった。


ずっとこの神社の中に居る割には、肌が真っ白ではない。

ほんの少しだが、日焼けしている気がするのだ。

もちろん、室内でもそれなりに陽が当たる場所が無いとは言えないのだが、

それでもある程度は外に出ていても不思議ではなかろう。


「外が嫌いというわけではなさそうですね」

「はい、あの娘は暇を見て建屋の外に出ているのでしょう。

 私が知らないだけなのかもしれませんが……」


つまり、巫女さんはあまり里遠ちゃんと一緒に居た事は無いのだろう。

不自然とまでは行かないが、この二人の関係……

少しだけ、複雑な物があるのではと思った。


「里遠ちゃんの様子を見に行くつもりですか?」

「そのつもりでしたが、

 状況を教えていただきましたので……」

「そうですか」


遠巻きに状況を確認するつもりだったのだろうか。

何にせよ、僕としてはこれ以上関わらない方が良さそうだ。


「僕はこのまま部屋に戻ります。

 何か要件等はありましたか?」

「特にありません。

 私も自室に戻らせていただきます」


そう言うと、巫女さんは踵を返して行ってしまった。

僕は僕で、そのまま自室へと戻った。


残念な事に、今日決めたはずの僕の名前は

今日の間で一度も呼ばれなどしなかった。

名前を手に入れた事はとても嬉しいのだが、

これはこれで少しだけ複雑な気持ちになったのは言うまでもない。



こうしてまた、神社での一日は過ぎていく。

果たして、僕の記憶は本当に戻っていくのだろうか。

※2013/10/01 表記等加筆修正

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