表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神ノ社  作者: 空橋 駆
3章 巫女の瞳に映るのは
12/36

12話 互いの壁が崩れた日

僕はただその場所で……

どうすれば良いのか、悩んでいた。


後ろから近付いてきていた里遠ちゃんに気付かないまま。


「ねえ……

 ももこ、どうしたの?」

「僕の所に来る前に、様子を見てきたのかな?」

「ちがうよ」


違うのか……

それなら、良かった。


あんな状態の巫女さんには、会わせたくない。

埋まりかけている溝が再び広がってしまっては、

何の意味も持たなくなってしまう。


「おにいちゃんは、どうしてここにいるの?」

「僕は……」


ただ、少し気持ちを整理したかっただけだ。

里遠ちゃんにそう言いたかったのに、喉から言葉が出てこなかった。


「なにか、あったの?」

「ああ……」


里遠ちゃんに悟らせたくなんか無いと思っていたのに、

僕の様子から、多分何かがあった事を悟っていたのだろう。


「ももこと、けんかしたの?」

「僕が、不用意な事を言ってしまっただけだ。

 巫女さんは悪くない」


しかもそれは、里遠ちゃんにも関係している。

尚の事、心配になるような事を言うわけには……


「それで、あさごはんは……」

「無理かもしれないな、僕が作ってもいいかもしれないけど、

 簡単な物でも作れるか怪しいかもしれない」

「それでも、おなかすいたよぉ……」


これは確かに、少々問題かもしれない。


「台所に勝手に入って大丈夫だろうか……」

「うん……」


とりあえず、何とかならないか……


「食堂に行ってみるか」


僕と里遠ちゃんは中に戻る事に決めた。

この場でずっと待っていたとしても、何も食べられないままだ。


だが、このまま食堂に行って……

もし、巫女さんが居たら顔を合わせ辛いかもしれない。

そう思った時、僕の足が止まった。


(これが……

 こんな些細な事でも、一線を置きたくなる理由になるのか)


辿り着くまでは僅かの間だったのだが、

思わぬ形で降り掛かった災難を受けて、改めて巫女さんの立場を理解した。


「いかないの?」

「あ、ああ……

 少し、考え事をしていたんだ。大丈夫だから行こう」


食堂に着いた。

人の気配など無い。


「ももこ、いないね」

「朝食も準備されていないな……」


何も作られていない机の上を見た。

この分だと巫女さんはまだ部屋にいるのだろう。


「残念ながら、僕では何も作れそうに無い」


僕は台所を見て、里遠ちゃんに告げた。


「ごはん……んにゅぅ……」


仕方ないから、もう一眠りでもして我慢してもらうか。

そのまますんなりと寝て貰えるとは思わないが、

僕と巫女さんの間で起きた問題で困らせるわけにもいかない。


「里遠ちゃん、とりあえず自分の部屋に戻っていてくれないかな。

 巫女さんが部屋に閉じこもっている原因は僕にあるから……」

「それなら、ももこのところにいくの?」

「今は……」


本音を言えば、あの部屋に立ち入りたくない。

もう一度部屋に入り泣いている姿を見る事になると思うと、躊躇したくもなる。

更に不用意な一言を浴びせてしまうかもしれない。

それが、怖い。


「いっしょに、いっちゃだめ?」

「今は止めておいた方がいいと思う。

 互いに、少しだけ考える時間があった方が良いさ」

「おにいちゃんも?」

「ああ」


巫女さんの急変を、僕は予想していなかった。

だから、現実を直視できなくなりそうになった。


あの場所から逃げてしまったのは、僕の方だったから。

もう一度向き合わなければならない。

時間は欲しいが、悠長な事も言っていられない。

それに腹を空かせたままで一日を過ごすなんて事は、考えたくない。


「少しの間、部屋に戻ってゆっくり寝転がっていると良いさ」

「それなら、おにいちゃんとおはなししたいな」

「ああ……

 それも、良いかもしれないな」


これが気晴らしになるのならば……

そう思い、僕は里遠ちゃんの部屋へと向かう事になった。



里遠ちゃんは退屈そうだった。

部屋の中で寝転がって、ただのんびりと天井を見上げていた。

僕はその姿をぼんやりと見つめながら、先程の事を考えていた。


(表向きだけを見れば、仲が良く見える)


最初に、巫女さんと里遠ちゃんを見た時の印象。


(しかし気持ちの面では大きな溝を抱えている)


何故そんな不思議で面倒な状態になっているのか。

要するに、里遠ちゃんと巫女さんはその微妙な関係を維持し、

互いが互いを傷付けず、安定した毎日を送る事を重視していたわけだ。


(僕はそれを壊してみろと提案していたのかもしれない……)


一線を引いて接せねばならない理由なんて知らない。

ただ、それは今の巫女さんにはとても大切な物なのだろう。


だが……

それでも、だ。

一言だけ、気になった所がある。


「私からでは無理……か。

 どういう意味なんだろう」

「みゅぅ?」


頭の中で考えていたはずなのに、思わず呟いてしまっていたらしい。

里遠ちゃんはそれに反応して、こっちに這ってやってきた。


「なにがむりなの、おにいちゃん?」

「聞いても解らないだろう……

 先程の巫女さんとの話で出てきた事だから」

「なら、わからないかも」


事情を話しても愚痴にしかならないかもしれないから話す気にならない。

ただ、気にしてくれる事は嬉しい。

そう、こうして兄として慕ってくれるのは特に心地いいのだが……


故に、確かめてみたい事が浮かんできた。


「一つ、聞いてみたい事があるけど、いいかな?」

「うん、きいてきいて~」

「ただ、少し不機嫌になる質問……

 いや、何か色々と不都合な質問になるかもしれないから、

 その時は正直に言ってほしい」

「そうなの?」

「ああ……」


巫女さんと里遠ちゃんの気持ちが何処まで離れているのか。

人を試す最悪な質問でしかないが、知らねば進めそうに無い。

罵られるのを覚悟して、僕は聞いてみた。


「里遠ちゃんは、巫女さんの事を呼び捨てにしているけど、

 それはどうしてかな?

「おにいちゃん……

 ももこにも、おなじこときいたの?」


里遠ちゃんは呆れた顔をしていた。

その一方で、理由を語ってくれそうにも無い。


「話としては近い流れになっていたかな……」

「そうなんだ」


確かに、そんな流れの話になっていた。

詳細を語るつもりは無いので、これくらいで良いだろう。

それで、本当の所はどうなのだろうか。


「出逢った頃から呼び捨てなのかな?」

「うーん……

 おぼえていないよ」


大体そんな返事が来ると思っていたが、本当にその通りだった。

二人揃って、過去の事はあまり詳しく覚えていないのだろう。


これは、どう捉えるべきか。

もう一つ、聞いてみるしかなかろう。


「里遠ちゃんは時々巫女さんを避けているような事をしているけど、どうしてかな?」


あえて、少しずれた事を聞いてみる。

本当はそんな素振りなんて見えない事が多いのだが……

もし、巫女さんに対して何か一線を引くような事を、

本人が自覚を持ってやっている事なのかを確認したい。


「そんなことないよ?」

「ふむ……」


その、目を逸らす行動が怪しすぎる。

何というか……判り易い。


多分、里遠ちゃんは意図的に巫女さんの事を呼び捨てにしていて、

それがいつの間にか定着してしまったのだろう。

僕が来る前の話だから確証は無いのだが、そんな気がする。

そこから類推してみると、すれ違いの原因もある程度見えてくる。


(発端は巫女さんの方にあるのかもしれない)


巫女さんに対して僕が言いたかった事も含めて、全てが答えなのだろう。


決定的にしたのは里遠ちゃんだったと思う。

そして、それを曲げていないからこそ……

確かにこれでは、巫女さんの側から歩み寄るのは難しい事になりそうだ。


そして里遠ちゃんの考えも、なんとなく思い当たる節はある。

解らない事も無いし仕方なかろう。

ならばここは外から揺り動かして上手く噛み合わせてやるしかない。



一呼吸置いて。

里遠ちゃんから説得してみた方が良いのか……

それとも巫女さんに直接話してみるか、迷った。


(迷っていても仕方ない)


どちらにせよ、現状を打破できれば良い。


「単刀直入に言うけど、

 巫女さんの事を他の呼び方で呼ぶつもりは無いのかな?」

「んにゅぅ……」


里遠ちゃんは首を横に振っている。

本当に、この二人は似ているというか何というか……


「せめて、理由を教えてくれないかな?」

「なんで?」

「もう一度巫女さんと話をするために」

「うん、だけど……」


僕から目を逸らす里遠ちゃん。

要するに、こちらもこちらで抉られたくない部分を抉られている形になるのだろう。


「何も言わないなら、それでも良い。

 その時は僕が勝手に自分で納得した理由をつけて話をつける。

 結構適当に組み上げた物だからあらぬ誤解を受けるかもしれないが……」

「それは、やめて」


まあ、冗談が半分程度入った言葉だったのだが許してはくれなかった。

その代わり、理由をちゃんと教えてくれる気にはなったのだろう。


「なまえ……よんでくれないの」

「やっぱり、それが理由だと思った」


そう、あの時巫女さんに提言したかったのは里遠ちゃんの事だけではない。

僕に対しての呼び方も少し考えて欲しかったのだ。


解りやすく言わせて貰うと、



今日に至るまで僕も名前を呼ばれた記憶が無い。

それどころか、君とかあなたとかそういう呼ばれ方もしていない。


「しってたの?」

「薄々感付いていたのだけど……

 ある種の抗議を含めて呼び捨てにしていたわけだ」

「そうだよ」


これで大体、確証が持てた。

それにしてもこの場合、巫女さんは鋭いのか鈍いのかよく解らなくなるのだが、

里遠ちゃんに時折抜けているとまで言われてしまうのは、

このような意外な所での失敗をしているからなのかもしれない。

結果として僕が振り回されたのだが、気にしないでおこう。


「とりあえず言わせて欲しい。

 その抗議の呼び捨ての件、巫女さんは深刻に悩んでいる」

「えっ、そうなの?」


驚きたくもなるだろう。

先程、かなり深刻そうな雰囲気で語ってくれたのでよく覚えているのだが、

それがあるからこそ歩み寄れないと考えれば納得できる。


「というわけで、もう一度名前で呼んで貰えるか説得してみよう。

 ただ、今回の場合は里遠ちゃんが直接行っても取り合って貰えないだろうから……」

「おにいちゃんに、おまかせするね」

「その代わり、一つ約束して欲しい事がある」


仲を取り持つのだから、里遠ちゃんにも歩み寄ってもらおう。


「名前で呼んでもらえるようになったら、

 巫女さんの名前を呼び捨てにしないと約束してくれるかな?」

「う~ん……」


ほんの少し、里遠ちゃんは考えて……


「わかった」


承諾、してくれた。


「ありがとう」


思わず僕は、里遠ちゃんの手を取り握手をしていた。


「行ってくるよ」

「うんっ!」


そして僕は、里遠ちゃんの部屋を出て巫女さんの部屋へと向かった。



泣き声は聞こえてこない。

中に居るのだろうかも判らないが……


「すみません……

 頭を冷やしてきたので、もう一度話をさせてくれませんか?」

「はい、どうぞ」


巫女さんは僕を再び部屋の中に招き入れてくれた。

目元を見ると、確かに泣いていたのが判る。

だが、気分としてはもう落ち着いているのだろう。


「巫女さん、まずはもう一度謝らせてください。

 不用意な発言で傷つけてしまった……」

「謝らないでください」


何故か、直ぐに謝罪を拒否された。


「その上、泣かせてしまうような事を……」

「誤解をさせてしまい申し訳ありませんでした」


反対に謝られてしまった。

一体、どうなっているのだろうか。


「最初に誤解を解かせてください。

 私が泣いていたのは、あのまま何も言わず立ち去られてしまったからです」


何だろうか、僕の予想とは違う状況が繰り広げられている。

僕が立ち去ったのが泣いた理由なら、里遠ちゃんの事は……


「あの娘に離れられかねないという忠告を理解できていませんでしたが、

 目の前で実際に態度に出されてしまうと実感できる物なのですね」

「ん……いや、それは……」


つまり……

僕があの場を立ち去って、一人きりの寂しさを感じてしまった。

それで泣いていたのか?


「あの娘に呼び捨てにされた時よりも堪えました。

 強がりを言ってみたとしても、駄目な時もあるのですね……」


この場合、心配した僕は何だったのだろうか。

まあ、これならばもう心配は要らないと思うので、それはそれで良いのだろう。


「巫女さんって、意外と泣き虫ですか?」

「そ、そんな事はありません……」

「目を逸らしながら言われても説得力が全く無いですよ?」


この反応、本当に里遠ちゃんとよく似ている気がする。

これで仲良くなれば……

いや待て、流されかけていたが本題は別にある。


「とりあえず、それは置いておいて……」

「先程の件の、続きですね」

「そうです」



まずは、巫女さんに里遠ちゃんの事を伝えよう。


「巫女さんから歩み寄るのは難しいと聞いて、

 里遠ちゃんと話をしてきました」

「はい、あの娘は何か言っていましたか?」

「その件ですが……

 そもそも、根本の原因は巫女さんにあるんですよ」


先に里遠ちゃんの呼び捨ての原因を言っても仕方ないので、

率直に理由を言ってみた。


「どうして、そんな結論になるのですか?」

「この問題、僕と里遠ちゃん両方に対して同じ事をしているので、

 僕は僕で不満に思っていた事になります」

「あの娘に対してだけの問題ではないのですね」


ここまで言っても気付かないか。


「僕に対しても、里遠ちゃんに対しても、巫女さんは絶対に名前で呼ばない。

 それどころか、君とか、あなたとか、相手を表現する言葉を用いていない。

 自分で会話していて、気付きませんか?」


それを聞いた巫女さんは……


「私、そんな状態になっているのですか?」

「はい」


僕が頷くと、巫女さんは冷や汗を掻いていた。


「まさか、身振り手振りで……やってました?」

「そのまさかです」


これまで当たり前のようにやっていたので僕も気付かなかったのだが、

身振り手振り、目線などを上手く使い、語りかける相手を限定させて話す。

これを巫女さんはかなり自然にこなしていた。


「名前を呼ばないから、距離が生まれたと思ったのでしょう。

 里遠ちゃんは、それを受けて自分からも距離を置く事にした」

「そうだったのですね。

 私もそれを受けて、一線を置いてしまった結果が……」

「お互い様というわけです」


本当に、こんな所まで似た者同士だと思っていると……


「このままではいけません。

 里遠ちゃんって、意識して呼んであげましょう」


突然、巫女さんが行動に移してしまった。


何というか、その……

呼んだ瞬間の表情が、緩くて優しい表情で目を奪われた。


「気付かせていただいて、ありがとうございます。

 本当に、来人さんは不思議な人ですね」

「あれ?」


今、僕の事を名前で……


「気付きましたか?

 声に出してみると、想いが籠もって良い気持ちになれますね」

「そうですか、それはよかった」


優しい笑顔を見て、もう大丈夫だと思った。

あと、初めて名前で呼んでもらったので、もの凄く照れた。


「これで、私達は仲間らしくなれましたか?」

「十分だと思いますよ」


これで、一件落着だ。


「照れてますね、来人さん。

 名前で呼ぶと、私も照れてしまいます」

「慣れていくしかありませんね」

「一緒に居る限りは、慣れていく物だと思います。

 それよりも、喜びすぎて隙あらば名前を呼ぶなんて事はしないでくださいね」

「それは良い案かもしれません……」

「冗談の範疇で止めてくれませんか、お願いだから」


慌てて止めようとするが、やってこない。

本気でやってきた時は逃げるしかなかろう。


「来人さんの反応が面白いからつい……」

「参りました、参ったからとりあえず勘弁してください」

「いいですよ、見ていてとても楽しかったです」


楽しそうに笑っていただけて何よりです。

これならば、本当に大丈夫ではないかと安堵した。


「僕はですね、こんな会話を是非とも巫女さんと里遠ちゃんの間でして欲しい。

 そうすれば、もっと互いが信頼できるはずだ」

「そう思いますか?」


不安げな顔で、巫女さんは聞いてくる。


「異性である僕と打ち解けるよりは簡単でしょう」

「つまり、私と来人さんはこれから打ち解けていくのですね」

「その認識で行きましょう」


お互い、信頼関係を結んでより仲間として深い形を目指す。

そんな経験があるわけないのだから、こんな反応なのも仕方ない。


「里遠ちゃんに逢うのは不安ですか?」

「不安で仕方ありません」

「今のところ、僕とは上手く話せてるので、

 その感覚を忘れないようにしてください」

「はい」


僕と巫女さんは互いに微笑みかけて、

ここにいない、里遠ちゃんの事を考える。


(とりあえず、上手く行きそうだ……)


そう思った時。

朝食を食べていなかった事を思い出した。


「巫女さん、お腹空きませんか?」

「朝ご飯、まだでしたよね……」


巫女さんの顔から笑顔が消えた。

いや、まあ確かに焦りたくなる気持ちも解らない事は無いが……


「里遠ちゃんが間違いなくお腹を空かせて困り果てているはずです。

 私、急いで作ってきますので少し待っていてください!」


そして、僕にそう告げると大慌てで部屋を出て行った。

足音は歩いているみたいなので、その辺は流石完璧である。


仕方ないので僕は、里遠ちゃんの部屋に行く。


「里遠ちゃん……

 とりあえず、巫女さんの説得の方は上手く行った」

「よかった~」

「朝食も暫く待てば出来上がるそうだ」

「たすかったの……」


ほっとしている里遠ちゃんを見て、僕もようやく落ち着けそうだ。


そして、少し待ってから……

僕達は食堂へと向かった。


入ると、巫女さんが既に待っていた。


「ももこ……だいじょうぶ?」

「ええ、もう大丈夫ですよ」


笑顔で答える巫女さん。

先程までの慌てっぷりとは正反対だった。


「おにいちゃんも、ももことなかなおり?」

「ああ、心配してくれてありがとう」


色々と心配してくれていたからこそ、

僕の側にも来てくれたのだろう。


「里遠ちゃん、私の事も心配してくれてありがとう」

「ふえっ……?」


それは突然の事だった。

だから、里遠ちゃんはとても驚いていた。

久々に呼ばれたのか、目が点になっている……


「名前を呼んであげるのは、久しぶりだったかもしれませんね」

「ももこ……おねえちゃん……」

「えっ……」


今度は、巫女さんの顔が驚きに変わっていた。


「よんでも、いいよね?」

「はい、良いですよ」

「ふぁぁ~」


そこには、穏やかな笑顔を浮かべる巫女さんの姿と、

嬉しさで顔を綻ばせていた里遠ちゃんの姿があった。


「来人さん、私もまた、少しだけ大切な事を思い出しました……

 確かに私の方から姉と慕う事を拒絶した事がありました。

 それ以来、ずっと呼び捨てにされていました」

「余所余所しさの真相は、そこにあったのですね」

「はい、それでも……」


巫女さんは浮かない顔をしていた。


「どうして、こんな事を忘れていたのでしょうか……」

「それは、僕にも解らない」


ただ、今は……


「おにいちゃんと……おねえちゃんだぁ……」

「嬉しそうだね」

「里遠ちゃん、嬉しいですか?」

「うんっ!

 ふたりも、なかよしだよね……」

「えっ……」

「あら……」


思わぬことを言われて、僕と巫女さんは顔を見合わせた。


「それにしても、美味しそうに食べますね……

 そう思いませんか、巫女さん」

「私達も食べませんか?」

「ああ……」


ということで、何とか上手く収まった。


こうしてまた、僕達の関係が少しだけ変わっていく。

これからほんの少しだけ、笑顔が増えていくだろう。

そして、更に変わっていくのだろうか……


今の僕にはその先を想像する事はできないが、

それが良い方向に変わっていく事を、願っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ