Duet
「ああ、恐ろしい。夜は出歩かないようにしましょう」
「そうねえ、あなたお子さん気を付けてね」
店を出る女2人の会話が耳にはいる。
夜は出歩かないようにといいながら、今はもう既に夜だ。
レストランの隅にあるテレビに目を向ける。
昨日のニュースについて報道されていた。
<…殺害された篠田裕子さんは、検視の結果、殺害後に性的暴行を受けていたという事が分かりました。財布等の金銭は盗まれておらず、犯人の動機は金目当てでは無いと思われます。…>
篠田は黙々と肉を食べている。
とてもおいしそうとは思えない食べ方だ。
<…殺害された裕子さんの兄、篠田健斗さんのインタビュー映像です。
「…自覚ですか、そりゃあありますよ。死体見ましたから。…ええ、そうです。…特に無いですが…、まあ、嫌いでしたので死んでくれて嬉しいですね。」
以上です。…>
篠田は肉を食べ終わったようだった。
俺の顔をじっと見て、俺が話し始めるのを待っている。
仕方なく口を開く。
「…お前さ、もっと気の利いた事言え無いの。」
「…例えば」
「優しい妹だったので、とても悲しいです。…とか。」
「俺は頭が良く無いから、そんなにすらすら嘘を付けない。」
「これは…常識だろう。」
「君、俺を常識人だと思っていたの。」
両手を顔の前で組み合わせ、首を横に傾ける。
これはこいつの癖で、人を馬鹿にしているときの仕草だ。
最も、自分では気がついていないのだろうが。
俺も篠田も牛の死骸を食べ終わったが、帰る雰囲気にはならなかった。
また俺が口を開く。
篠田といると、喋り始めるのはいつも俺からだった。
特に喋りたい事は無いが、俺は沈黙が嫌いだ。
「…あのさ、俺レポートやるから帰るわ。」
「なんで俺が家に帰らないか知ってる?」
「マスコミがいるからだろ…」
「知っててソレ?」
こいつ、俺に何を求めてるんだ。
「…まあ、いいけど。俺ももうすぐ死ぬだろうし。」
「それは、悲しい、な。」
「はは、偽善者だねぇ。」
篠田の話は先が読めない。
水を飲み干し、篠田が席を立つ。
帰るのだろうか。