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愛をしている

コンビニロマン

作者: 久住なつき

コンビニなんていくらでもある。

最寄りの駅周り、家までの道のりを合わせると実に多すぎる選択肢。

しかしどういう訳かいつも使うコンビニはだいたい決まっていたりする。

それには人間の消費行動の心理もあるけれど

もっと明確な理由で私の使うコンビニは決まっていて

私のような経験をしたことある人、している人、結構多いんじゃないかと思う。

誰もが一度は憧れるシチュエーション。


高校生の頃、コンビニのお兄さんが好きだった。

一目惚れほど劇的では無かったけれど、「ちょっとかっこ良いな」が

コンビニに行く度に積もり、いるかなって期待するようになって

レジに並ぶときにドキドキするようになって、簡単に片想いは完成した。

「毎日同じもの買って覚えてもらえば?」という友達の言葉を真面目に実践し、

大学受験の夏休みなんてお昼ごはんは毎日コンビニのご飯と1本95円の豆乳という生活だった。

並ぶだけでドキドキなもんだから顔なんて見れなくて、目のやり場に迷いネームプレートを見つめる。

名前もちゃっかり確認。

(宗谷さん。宗谷さん。かっこいいー!)

しかし思いを告げることも、むしろ話しかけることすら出来ずに夏は終わった。

校則の厳しい高校のせいにする訳では無いけれどいまいちな黒髪ヘアに眼鏡、自分の見た目に自信なんて無い。

そして夏休み明けの模試の結果に、熱に浮かされていた頭の方も冷めてきたのか、

学校と塾の往復に精を出し始めた。それからは驚くほどあっという間に時間は流れ、私は大学生になっていた。

新しい生活に追われそれを満喫し、コンビニも第一線はとっくに駅に一番近い場所に変わり

あんなに通っていた某コンビニはたまにふらっと寄る場所になった。

そして宗谷さんは脳の奥の奥の、“普段は全く思い出しもしないもの”の場所へ。

顔ももうおぼろげだけど、名前だけは脳に残っている。そんな程度。

だから油断していたんだ。

大学生になって初めての夏休みにふらっとそのコンビニに入って

ろくに顔も見ずにレジへ。目に入ったネームプレートに“宗谷”の文字。

ちらっと顔を盗み見る。あくまでさり気なく。いやらしくない程度に。

(やっぱりかっこいいな)

それは雰囲気だと言われてしまうかもしれないけれど。高校生の自分が憧れていた人。やっぱりかっこいい。

黒髪で色白でかっこいい。それに対して。それに対してだ。

明るい茶髪でパーマもかけたけど、今日に限ってすっぴんでだらしないジャージで頭のぼさぼさの自分。

(まあまあおしゃれになったけど、今日のこの格好じゃね。まあ昔の思い出の人だしもう良いけどさ)

ちなみに豆乳は買っていない。飲みすぎて嫌いになっていた。


思い出という程何も無かった思い出のため、コンビニのバイトに憧れていたのだけれど

時給や時間の都合で選んだバイトは居酒屋。

力も頭も人並みな私の取り柄は若さと女の子であることと笑顔。まあそれも人並みなんだけど。


「ご注文お伺いしまーす」


何も面白くなくても、男女の集団客にも、笑顔で接客。

そうすると楽しい気分になってくるから不思議。

そしてまた不思議なことに仕事の時って変に大胆になれるもので

ついかっこ良い人をニコニコしながらガン見してしまう。

男女混合グループだけど、黒いTシャツに綺麗な鼻の横顔の男性が妙にツボった。

注文を受けながらその人をニコニコ見ていたら

何だか思い込みでなく普通のお客さんよりよく目が合うし、ちょっとだけ浮かれてしまう。


「かしこまりました失礼致しまーす」


そう行って座敷の団体席を離れ、所定の位置へ戻る。

空いている日だったので待機という名の立ち尽くし。

しばらくするとラッキーなことに、さっきの黒いTシャツの男性がトイレに行こうとこっちに向かってきた。

会釈でもしちゃおっかななんて一人うきうき考えていたら

黒いTシャツの男性からぎこちなくぺこりと頭を下げられた。

店内は暗い。だから顔はおぼろげだけれど。


翌日、私は軽く化粧とちょうど良い気合具合の服装をして、コンビニへ。

レジを見た瞬間に心拍数が上がって、別のことに意識を持っていかれながらお菓子を選んで目的のレジへ。

呼吸の仕方を度忘れしそうになりながらレジに商を置く。

私の期待と裏腹に、目を合わせられることもなく商品にバーコードのマシーンが。


(あ、違ったんだ)


胸がしぼんだ。そう頭が思う寸前で


「昨日はご馳走様でした」


ニコって音が聞こえそうな笑顔と

このシチュエーションで最高にスマートな言葉。


何か始まると期待しても良いですか。豆乳はココア味がおすすめです

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