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三題噺もどき4

仕事の音

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくろくじゅうさん。

 




 バタバタと窓を音を叩く音が部屋を満たしている。

 それに混じって時折聞こえる時計の針の音と、キーボードを叩く音。

 紙をめくる音や、その上を走る鉛筆の削れる音。

「……、」

 少しずれた眼鏡の位置を直しながら、マウスを動かす。

 カチ、とクリックをしては、キーボードを叩く。

 それが終われば、紙を引っ張ってきて、鉛筆を走らせる。

「……、」

 無意識に体が震える。

 部屋の中は冷えた空気が居座っている。

 外は雪でも降っているんだろうかと勘違いしてしまいそうなほどに、冷たい。

 音がしている以上、雨だろうけど。

 雪はもっと、静かに降る。

「……」

 今日は、起きてからずっと雨が降っていた。

 おかげで仕事が捗るのはいいことなのだけど、それに乗じてあれもこれもと仕事をよこされてはたまったものではない。

 それに、どれもこれも期限があまりにも早い。

 もっと余裕をもって動け。

「……」

 溜息も漏れず、ただひたすらに仕事をすることだけを考える。

 息をつく間もなく、パソコンと紙とその他色々とにらめっこをしながら、進めていく。

 雨でいつも以上に冷えた空気に時折体を震わせながら、寒さも気にならないくらいに仕事に集中していた。

「……」

 から、まぁ。

 時計を見る余裕なんてものは。

 なくなっていた。

「……」

 昼食を終えて、どれくらいこうしていたのかも分からない。

 普段は散歩に行っている時間も仕事にあてているから、きっと何時間かは経っている。

 それでも時間が足りないかもしれないと思う程に、今日はやけに仕事が多い。

「……」

 ひとつの仕事がようやく終わり、もう一つに取り掛かろうと。

 一度机の上をすこし片付けながら、新しい仕事を確認する。

「……、」

 これまた少々面倒くさそうな……。

 仕事をくれること自体には不満はないのだけど、何にでも限度というのがある。

「……」

 まぁ、やるしかないので。

 やるのだけど。

「―ご主人」

「……」

 とまぁ、そのタイミングで声がかかった。

 声の方に眼を向ける前に、壁に掛けられた時計に目が行く。

 なんとまぁ、もうそんな時間だったのか……全く気付かなかった。

「……休憩にしましょう」

「……あぁ、」

 部屋の入り口に立っているのは、エプロンを付けた小柄な青年だ。

 いつまでたってもノックを覚えず、こうしていきなり戸を開けては、声を掛ける。

 大抵は仕事をしているだけだから何も問題はないのだけど……。

「……」

「……どうした?」

 どこか不満げに見えるのは気のせいだろうか。

 何か上手くいかなかったのか、ただ調子が悪いだけなのか。

 声も少々、不機嫌が滲んでいた。

「……なにもありません」

「……?」

 そう言うのなら、そういう事にしていてもいいのだけど。

 コイツは人の不調は許さないくせに、自分の不調は後回しにするからな。

「……今日はましゅまろです」

「また作ったのか?」

 初めて作ったものを食べたときは、あのふわふわとした食感の菓子を作れること自体が凄いと思ったものだ。

 もしや、不機嫌なのは、それがあまりうまくいかなかったからか?

「……普通に成功しましたよ」

「……じゃぁ、なんでそんな機嫌が悪いんだ」

「……だから、何もありません」

 ……問い詰めたところで、夕食に納豆が出てくる未来しか見えないので。

 これ以上追及するのはやめておこう。

 今は仕事を忘れて、休憩の時間を頂くとしよう。





「……ホントに、よくこれを作れるよな」

「まぁ、慣れれば」

「中にチョコを入れたりは出来ないのか?」

「今度やってみましょうか」










 お題:雨・雪・ましゅまろ


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