あーかい部! 63話 サッカーの化身
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
3度の飯より官能小説!池図女学院1年、赤井ひいろ!
趣味はケータイ小説、特筆事項特になし!
同じく1年、青野あさぎ!
面白そうだからなんとなく加入!同じく1年、黄山きはだ!
独り身万歳!自由を謳歌!養護教諭2年生(?)、白久澄河!
そんなうら若き乙女の干物4人は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
「……♪」
きはだは1人、部室で古本を読み漁っていた。
「……そろそろかな。」
きはだは読んでいた本にしおりを挟み、ドアのすぐ外にある部室棟の軒下へと出て行った。
「〜♪」
目の前にある顔より低い壁みたいな所に腕を組み顎を乗せ、赤みを帯びていく空をぼぉ〜っと眺める。
「あれ?きはだ何してるの?」
「おぉあさぎちゃん。どうしたんだいこんな時間に。」
「水筒を取りに来ただけだよ、お昼に置き忘れたやつ。で、きはだは?」
「夕日を見てたのさ……。」
あさぎはきはだが指差した西の空を見た。
「言われてみればちょっとだけ赤い……?でもまだ早いんじゃない?」
「これからだよぉこれから。あさぎちゃんもどうぞ〜?」
「え〜……。」
「あれぇ?文系少女なのに夕日がお好きでない……。」
「サッカー選手だって、みんながみんなボールと友達以上の関係にならないでしょ?」
「う〜ん、これはとんだ流れ弾ですなぁ。」
「サッカー選手なら捌けるでしょ。」
「スポーツ得意な人はだいたいなんでもできるもんねぇ。」
「……けっ。」
2人が軒下で寛いでいると、少し遠くに一羽のカラスが飛んできた。
「見て見てあさぎちゃん、悪態つくからサッカーの化身がお怒りだよぉ?」
「あ〜、そういえばユニフォームによくくっついてるよねカラス。」
「お〜い。」
きはだがカラスに手を振ると、カラスが首だけ回してこっちを向いた。
「お、こっち見た……!」
「見てんじゃねーー!!」
「うっわ理不尽……。」
カラスはきはだの牽制をものともせず、こちらを見つめ続けていた。
「きはだが失礼な態度とるから、サッカーの化身がお怒りだよ?」
「こりゃアレだね、鎮めるしかないね。」
「鎮める?」
きはだは大きく息を吸い込むと、大きな声でカラスに向かって叫んだ。
「サッカーやろうぜ!」
きはだの声に驚いたカラスは何処かへと飛び去って行った。
「あ、行っちゃった……。」
「鎮まったかサッカーの化身よ……。」
「たぶん違うと思う。」
「……もう少しきはだ様を愉しませてから帰って欲しかったなぁ。」
「カラスの勝手でしょ。」
「お〜、懐かしいね?」
「夕日とカラスって言ったら、ね。」
「替え歌なんだけどねぇ……。」
「なんだっけ?オリジナルのやつ。」
「七つ子。」
「子沢山だなぁ……。」
「違ったっけぇ?」
「『七つの子』だよ、今思い出した。」
「そっかぁ、あと4人足りないねぇ。」
「サッカーはしないから。」
「ああそっか、だからサッカーの化身どもは足をもう一本生やしてるのかぁ。」
「八咫烏って3本足だったね……ってそれでも22本には1本足りなくない?」
「え〜?さんかけるななでぇ……本当だぁ!?」
「哀しいなぁ……。」
「まあ量より質だよ。」
「足の本数に質とかあるの?」
「ほら、3本あったらすんごい必殺技とか撃てそうじゃない?」
「PKされるの嫌ではあるけど。」
2人が談笑していると、さっきまでカラスがいた所にグラウンドの方からサッカーボールが跳ねてきた。
「「あ。」」
すぐに追いかけてきたユニフォームの子がボールを回収してグラウンドへと戻って行く様子を2人が見守っていると、遠くからカラスの鳴き声がこだましてきた。
「ほぉら、サッカーの匂いを嗅ぎつけてきたぞぉ……!?」
「サッカーの匂いってなんなの……。」
「……さてと。そろそろ帰ろっかなぁ?」
「え、もう?まだ夕日もこれから本番って時間じゃない?」
「そうだねぇ。でも、暗くなる前に帰らないと。ちっちゃい頃に言われなかった?」
「過保護だねぇ、きはだの家。」
「そうかなぁ……。でも、暗くなったらおばけの時間なんだよぉ〜?」
きはだは胸の前で両手を垂らし声を振るわせてあさぎを揶揄った。
「お化けなんているわけないでしょ。」
あさぎの襟足がかすかに靡いた。
「……風?」
「もしかして、お〜ば〜け〜か〜もぉ〜?」
またまた声を振るわせてきはだが揶揄ってきた。
「そんなわけないでしょ。ほら、帰るよ?」
「はぁ〜い♪」
この日、あさぎは水筒を回収し損ねた……。
あーかい部!(4)
きはだ:せっかくだから投稿っ!
ひいろ:今日部活なかったのにか?
白ちゃん:何か良いことでもあったのかしら
あさぎ:サッカーの化身を鎮めてました
白ちゃん:え
ひいろ:とりあえずみてくるか
白ちゃん:え、待って部室棟にお化け出るの……!?
あさぎ:脚色ですよ、ただ風が吹いただけです
ひいろ:ポルターガイストなんかも案外そんなものだったりするよな
きはだ:わからないよぉ……?
白ちゃん:脅かさないでよ
ひいろ:夕日綺麗だったか?
あさぎ:ギリギリ日中
きはだ:カラスが鳴いたら帰るんだよぉ
白ちゃん:こんど私も見てみようかしら
あさぎ:あんまり見てると引き込まれるんで気をつけてください
白ちゃん:何それ怖っ
きはだ:ボールと友達以上の関係になっちゃう……
ひいろ:ユニフォームの八咫烏っていつもボール持ってるもんな
白ちゃん:アレはああいうデザインじゃないの?
きはだ:サッカーしようぜ、お前ボールな!
あさぎ:という暗示……
ひいろ:なんか首とか取ってそうだなそのカラス
白ちゃん:ないない、八咫烏ってもともと神聖なものなんだから
ひいろ:カラスの不吉とかネガティブなニュアンスって、どっちかというと西洋のものだしな
きはだ:よく見ると可愛いお顔してるんだぜ?アイツら
白ちゃん:カラスの顔なんてマジマジと見たことなかったわね……
ひいろ:あさぎ来ないな
きはだ:ヤツめ、引き込まれたか……サッカーの化身に
白ちゃん:寝かせてあげなさい
あさぎ:ごめん、水筒回収し損ねて凹んでた
白ちゃん:そっちかーーい!