第十話【精鋭突撃】
周囲の部隊に同行し、一時的にノアールの本部に戻るフィンとキャリー。
「いやぁ、生きてて良かったぁ!初めての戦場、死ぬかと思ったよ!」
「キャリー、なんでそんなに元気なのさ……」
そんな他愛もない会話をしている内に、やがて本部が見えてくる。
「おい、あそこにいるのベルじゃね?」
「あいつも生きてたか!まぁ、死ぬような奴じゃねえよな〜」
そう言う2人の視界には、確かにベルがいた。
……彼は何やら正座していたが。
その原因は、すぐ隣にあった。
「早く戻って……って、ぎゃぁぁぁぁっ!!」
突然絶叫するキャリー。
「おい急にどうし……って、うわぁぁぁっ!!」
ベルのすぐ隣。
2人を睨みつけてるレナがいた。
◆
「バカッ!アンタたち、命令聞けないの!?」
帰還後すぐ、レナの怒声が本部中に響き渡った。
フィン、キャリー、そしてベルの3人は、全員並ばされ、頭を下げていた。
その傍らでは、チャラついた男──神蔵が「ま、ま、抑えて抑えて~」と苦笑している。
……そもそも、彼らの向上心を煽った犯人も彼だったが。
「違うんです……あのビークルが本部に……」
フィンは必死に弁解する。
「命令違反に理由はいらないッ!!」
レナの怒りは完全にガチだった。
「フィン、ベル、キャリー。アンタたち、まだ訓練生でしょ!?見学って扱いの!待機命令は絶対!なに勝手に前線出てんのよ!」
「す、すみません……」
「ご、ごめんなさい……」
フィンとキャリーが小さく謝った。
2人がしっかり反省を示す中、ベルは……微動だにしない。
「ベル、あんたも!」
「……。」
「おいっ!!」
神蔵が慌てて口を挟んだ。
「まあまあまあ。確かに命令違反はあれだけどさ、あのビークルの破壊、めちゃくちゃ助かったし?戦果としては一級品だし?ね?レナもそこは認めてやんなって」
「そ、それは……ぐ……!」
レナはしばらく言葉を失い、顔をプルプルさせていたが、やがてふいっと顔を背けて言った。
「……今回だけは、軽い罰で済ましてあげるからね。次やったら、問答無用で降格処分だから。」
(ツ、ツンデレ……)
フィンは反省していたが、思わず心の中で呟かずにはいられなかった。
⸻
ちょっとしたトラブルの後、即席テント内の作戦室にて現状の共有が行われる。
ノアールの部隊は、輸送船12隻を使って敵本部の包囲を完了。
レナたち先鋭部隊による「点」の撃破が進み、戦況は完全優位だった。
敵兵はおよそ300名以下、大型魔獣は全滅。勝ち戦は濃厚。……だが。
残る主戦力は本部の集中バリア内に固まっているため、重火器による遠隔射撃が封じられているのが唯一の懸念点。
「本当はこの場面、戦闘機の軌道爆撃がベストなんだけどね……。」
「アンタ、ノアールのエネルギー事情忘れたの?本部突入は私と神蔵、この中での最精鋭2人がやるから。新兵4人、今度こそは──待機しなさい。」
大斧を担ぎながら放たれたレナの発言に、フィンたちは素直に頷いた。
わずか10分前にブチ切れられた身。
さすがに、今度こそは逆らえない。
「じゃ、いっちょ派手にいってきますかー!」
神蔵がナイフを両手に回しながら笑った。
「派手にしすぎないでよ、バカ……」
レナが呟き、2人は静かに姿を消した。
⸻
──ここからは、レナ視点でお楽しみください。
———
足元の岩肌が、次々と砕けていく。
「新しく買った反重力ブーツ、やっぱり走り心地いいわね!給料日に奮発して正解だったわ!」
風を切るような速さで、レナは駆けていた。
隣では、神蔵が笑いながらナイフを軽く回している。
「おいおい、飛ばしすぎじゃない?」
「アンタが遅いのよ。」
「いやいや、俺も最高速なんだけど……。てか、そっちは大斧持ってるよね!?これですらその速さってどーいう……」
そのとき、前方に三人の敵兵──黒装束のシン兵が姿を現した。
「敵数3人、排除するっ!。」
レナは斧の戦闘システムを展開し、神蔵は片方のナイフを逆手に持ち替えた。
「いっくよー、レナ!」
「言われなくても!」
次の瞬間、風が裂けた。
ーーゴッ!
レナの斧が、一撃で巡回兵の一人を吹き飛ばす。
斧に当たったというより、“空気ごと”持っていかれたような感覚だった。
「……こっちもだ!」
神蔵は舞うように走り、残る二人の喉元にナイフを滑らせた。血が飛び散る前に倒れ込む。
「……なんとか、片付いたな。」
「ふん。何が『何とか』よ、いつものことじゃない。くれぐれも油断しないでよ、ここからが本番なんだから。」
レナは斧を再び肩に担ぎ、少しだけ頬を染めて神蔵から目を逸らした。
神蔵はそれに気づいているのかいないのか、まるで空気のような笑顔を浮かべていた。
「このまま一気に突っ込もうぜ。集中バリアの縁、もう見えてきてるし」
「うん。あそこを突破したら、私たちの勝ち。」
戦況は極めて良好。
だが、シン勢力があっさり全滅するわけがない。
レナも神蔵も、そう簡単には油断しない。
戦場の風が、二人の足元を撫でた。
「……行くよ、神蔵。」
「おうよ。ツンデレお嬢の後ろは、俺が守るぜ?」
「は、はあ!? 誰がツンデレお嬢よ!!」
ツンとした声が、戦火の中で溶けていった。
次回は、23時を目処に更新します。
お楽しみに!