7話 スカーレットお嬢様の気持ち
「はむ♡ んん! 甘くて美味しいのじゃ!」
「お嬢様たら……お口にクリームべっとりと付いてますよ? 拭き拭きしますからね」
「んん……自分で拭けゆ!」
「ぷっ……拭けゆ?」
「笑うな! た、たまたま噛んだだけなのじゃ!」
「はいはい♪ 拭き拭き♪」
「むぅ……妾を子供扱いするでない」
お嬢様はそこに居てくれるだけで癒しを与えて下さります。私はお給料を貰うよりもこうしてお嬢様のお傍にお使い出来る事が幸せです♡
思えば、私が公爵令嬢していた頃……人間社会の腐った見るに堪えない貴族社会よりも、こうしてスカーレットお嬢様のメイドをしていた方が100倍幸せです。本当の幸せと言う物は、お金では決して買えない物だとここに来てから学びましたからね。お金で買える欲望は、満たしても満たしても常に喉が渇くかの様な飢えを感じる物で心から満たされはしません。
「レーゼ……」
「はい、そんなモジモジしてどうしたのですか?」
「んんっ……抱っこ」
「!?」
え、今私の聞き間違いで無ければ……お嬢様抱っこと言いましたよね!? ごほんっ……主の命令とあれば致し方ありません。ぺろぺろ……じゃなかった。優しく抱きしめて差し上げないと♡ 本当にしょうがないお嬢様ですね♡ ディフフ♡ 私の中の欲望と言う名のケダモノが産声を上げて闇の中から産まれそうです。
「でも、今お嬢様……子供扱いするで無いとおっしゃいましたよね?」
「…………」
「わ、分かりました。そんな泣きそうな顔しないで下さいよ。はい、抱っこしますよ〜♪」
「うん……」
素直に私に甘えれば良いのに〜お嬢様はツンツンしてますからね。こちらから強引に行かないと駄目かもしれません。
「ずっと……妾の傍に居るのじゃぞ?」
「はい♪ では、お嬢様をぺろぺろさせて下さい」
「んぎゃあ!? や、やめるのじゃ! お、降ろしてくれ!」
「抱っこしたら、ぺろぺろするのは普通ですよ?」
「絶対普通じゃない!」
「私の故郷では、好きな人に対してぺろぺろするのが朝食を食べるのと同じくらいに普通の事です♪」
レーゼは存外嬉しそうにしてるスカーレットお嬢様を欲望のままにぺろぺろし尽したのである。レーゼのぺろぺろする姿は、公爵令嬢をしていた頃よりも何十倍も輝いているのであった。
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「レーゼの変態!」
「変態は私にとって褒め言葉ですよ?」
「レーゼ何て嫌いなのじゃ! レーゼのアホ! レーゼのバカ!」
あらあら♡ 年相応のお嬢様の反応が楽しくて、もっと意地悪したくなってしまいます♡
「あらあら、私がお嫌いですかぁ……抱っこは無しにしましょうか♪ よいしょっと〜」
「ふぇ?」
「ここからは自分の足で歩きましょうね♪」
大丈夫……私のSAN値はまだ大丈夫。無問題よ。これ以上お嬢様を抱っこしてたら、私の中の何かが目覚めてしまいそうです。あくまで私とお嬢様は主従関係でもありますし……ある程度は線引きしないとやはり駄目では無いでしょうか?
「ぐすっ……ふぅぇぇえええええんんんん!!!!」
「お、お嬢様!?」
「レーゼが意地悪なのじゃ! うわぁぁぁあああああんんんんん!!!」
「わ、分かりました! ごめんなさい、意地悪し過ぎましたね。よしよし〜お嬢様泣き止んで下さいまし」
レーゼは泣いているスカーレットお嬢様を再び抱っこをして背中をトントンと叩いたり、優しくさすりながらあやめようとするが、スカーレットお嬢様はダムが決壊したかのように泣いてしまうのである。
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「レーゼ! あれは何じゃ!? 綺麗な瓶が沢山あるぞ!」
「あれはお薬ですね。マナポーションや解毒薬等の類で御座います。主に冒険者の方が重宝している代物ですね」
ふぅ……幼い子の感情の起伏は激しいものですね。まさかあそこまでお泣きになるとは……お嬢様は普通の子よりも賢く、年齢の割には意外と達観してる部分もあったのであそこまで泣くとは予想外でした。
しかし、お嬢様が泣いている最中に私の事をママと呼んでいました。まさか、私の事をママと内心は思って居るのでしょうか? 今までそこまで……私の事を想って下さって居たのは正直驚いてもおりますが、何より嬉しかったです。ママ……なんと言う甘美な響♡
「冒険者? それは何なのじゃ?」
「魔物を討伐したり、街の依頼をこなしたりと……未知を既知にする心躍る様な職業ですね。人間側の方にも冒険者ギルドはありますが、そちらとはまた別のこの大陸独自のギルドで御座います」
「ふむふむ?」
「危険ですので、お嬢様には向いていないと思いますよ」
今はすっかりと泣き止んで元気一杯と言ったご様子。取り敢えずは一安心ですね。しかし、今日一日お嬢様を抱っこしてるとなると……結構腕がキツイかもしれませんね。お嬢様が軽くても長時間の抱っこは中々に応えます。抱っこ紐を持参すれば良かったですね。
「お嬢様、私と2人の時はママと呼んで良いのですよ?」
「ほんとぉ?」
「それに……その喋り方もご無理なさらずに。お嬢様は年相応に私の事をママだと思ってもっと甘えて下さい」
お嬢様の目がキラキラと輝いていますね。今のお嬢様の喋り方も元々は背伸びした様な話し方ですからね。魔王様の娘、その立場もあるのでしょうが……やはり、幼い子は純粋で素直で、我儘も沢山言うのに尽きると思います。
「ママ♡ 妾は……ううん。私ね、今の鳥籠に閉じ込められた様な生活が嫌なの……ぐすん。魔王の娘と言うだけで、何処か距離を置かれるし……私はいつも孤独」
「お嬢様……全て話してスッキリしちゃいましょう」
「だけど、レーゼだけは違うの。私の事を分け隔て無く接してくれて、ちゃんと私を見てくれるの。私は本当のママを知らないけど、もし……レーゼが私のママだったら良いなぁ〜って」
思わずお嬢様の身体を力強く抱いてしまいました。お嬢様がご無理をなさられていた事は、薄々と感じてはおりました。だけど、私はもう迷いません。私だけは、例え世界中が敵になったとしても、お嬢様の傍にずっと寄り添うのだと。
「じゃあさ! レーゼ……ママ! 2人の時は私の事をスカーレットと呼んで! ママ♡」
「あらあら、スカーレットは相変わらずの甘えん坊さんですね♡」
「うん! 抱っこされると暖かくて心がポカポカとするんだもん!」
「うふふ♪」
何だかお嬢様が我が子の様に思えて来ます。いくら魔王様の娘と言えど、こうして見れば普通の人間の子供と何ら変わりません。今のお嬢様に必要な物は、満たされる程の愛情。ならば、今日は母親と娘……素敵な親子の買い物と言うのをスカーレットお嬢様に母親として教えてあげるのです!