5話 城下町
「レーゼ! 早く行くのじゃ!」
「お嬢様、少々お待ち下さいませ」
ふん……! え、嘘……私もしかして太った? 半年前に購入した白い刺繍の入ったロングスカートが着れない。お嬢様が残した物を食べたり、お嬢様の付き添いの際に夜中に菓子パンを食べたのが原因かしら……
「む? レーゼ、お主太ったのか?」
「…………」
「ヒィッ……!? そ、そんな気にする事は無いぞ……レーゼ。多少ケツが大きくなった所で妾は気にしな……ぎゃああああああああああああぁぁぁ!?」
「うら若き乙女に対して失礼ですよ? お嬢様」
「レーゼがうら若き乙女……? 冗談は顔と乳だけに……まっ、まて! ギブギブ! あはははははははははは!」
「今日はやけに手が滑ってしまいますね。あらあら」
もう朝から思う存分、お嬢様の首や尻尾に脇の下とこちょこちょ攻撃をして教育をしてあげました。成長するに連れて段々と言う様になって来ましたね、お嬢様?
――――――
「ぐすんっ……レーゼのいじわる! もう知らないのじゃ!」
「すみません、次回から脇の下では無く足の裏にしますね」
「そう言う事じゃないのじゃ! 全くもう!」
朝から私の中に眠る魔王が目覚めてしまいそう……お嬢様はからかいがいがありますね♡
「ほれ、早く行くのじゃ! しゅーくりーむ!」
「はい♪ 今日はお嬢様の為にこちらを用意致しました」
レーゼは別室から何と黒色のベビーカーを持って来ていたのだ。スカーレットは興味津々と言った感じにベビーカーを見つめる。
「む? なんじゃこれわ?」
「これはお嬢様の為に用意した、スペシャルな乗り物で御座います」
「ふむふむ?」
「お嬢様、失礼します」
私はお嬢様を抱っこしてベビーカーに乗せました。私がこれを用意した理由は至ってシンプルです。お嬢様はお転婆で勝手に何処かに行ってしまうので、今日はベビーカーに乗せて動けない様にしてしまうのです。このベビーカーは私が改造を施しているので、一度乗せてベルトをしてしまうと、そう簡単には外せない様になっております。私の持ってる鍵が無いと解除出来ない仕組みです。
「ほぉ〜このベルトを締めれば良いのか?」
「はい♪」
「レーゼ! 押すのじゃ!」
私はゆっくりとベビーカーを押しました。するとお嬢様は目をキラキラと輝かせながら、年相応にキャッキャと喜んでいますね♪
「お嬢様、お似合いで御座いますよ♪」
「うむ! 妾はこのベビーカーとやらを気に入ったぞ!」
「では、こちらのおしゃぶりもどうぞ♪」
「おしゃぶり?」
「ここをお口で咥えるのです」
「これをすると何か意味があるのか?」
勿論、私が癒されるだけの話しです。お嬢様は小柄な身体ですので、ベビーカーに乗せても余り違和感は無いでしょう。
「おしゃぶりって……かっこいいですよね〜おしゃぶりしてるお嬢様を見たら、私惚れるかもしれません」
「なぬ!? ほ、ほんとか!?」
「はい♪ ですので、是非こちらを♪」
相変わらずちょろいお嬢様ですね。別におしゃぶりしなくても、お嬢様の愛らしさは変わりません。少しばかり、私が興奮するだけの話です。
「んん!(どうじゃ! レーゼ!)」
「ふふ……うふふ♡」
赤ちゃんみたいだわ♡ お嬢様はいつも私に悦びと癒しを与えてくれます♡ 可愛い子に意地悪したくなるのは自然界の摂理……私の欲望は摂理に反する事は出来ません。
「ほれ、早くいくのじゃ!」
「はい♪ では行って参りますね♡」
「ふぇ!? ま、待て! 妾を置いて行くなああああぁぁぁ!!!!」
魔王様……ごめんなさい。貴方様の娘は可愛い過ぎます!
―――魔王城の城下町にて―――
快晴の青空の下、私はお嬢様と共に城下町のメインストリートを歩いています。
城下町の街並は整備された石畳みの道に煉瓦造りの構造の家が数多く立ち並び、街全体の建物はオレンジ、ブルー、エメラルド等の鮮やかな色をしており多種多様である。馬車が緩やかに走っていたり、通りには沢山のお店や屋台が出店していて、人通りも多く賑やかで何処も活気に満ちている。
「むぅぅ……もう、ベビーカーには乗らぬのじゃ!」
「お嬢様すみません、少しばかり魔が差してしまいました」
「なぬ!? レーゼはいつも魔が差してるのじゃ!」
「うふふ……本当にベビーカーはもうお乗りにならなくて良いのですか?」
「乗らぬわい! また意地悪されたら堪らんのじゃ! 今日と言う今日は妾が主としてレーゼに説教してやるのじゃ!」
はうっ……♡ お嬢様からのお叱り……ご褒美か何かでしょうか? お嬢様がプンプンと怒ってる姿を見るだけで私の寿命が10年くらい伸びた気がします♡
「あ、お嬢様あれをご覧下さい。雑貨や小道具等が売ってる露店がありますよ。向かいは食べ物も色々と売ってますね」
「ふむ……」
「お嬢様、どうかされましたか?」
急に立ち止まったお嬢様の視線の先を追って見ると……そこにはウサ耳族の小さな女の子とお母さんが仲良く手を繋いで買い物をしておりました。
【ママ! 見て! この綺麗なネックレス、ママに似合うと思うの!】
【まあ♪ 素敵なネックレスだこと♡ あ、ミオちゃんはこっちのリボンとか可愛くて似合うと思うわよ♪】
お嬢様は指を咥えながらその親子の事を羨ましそうな表情で見つめていました。そのお嬢様の表情は何処か哀愁漂う悲しそうな表情をしています。
【ママとお買い物嬉しいな♡ むぎゅ♡】
【あらあら、ミオちゃんはお外でも甘えん坊さんなのね〜ママと一緒におてて繋ごうね♪】
【うん!】
お嬢様が物心着いた頃には、お母様はもう既に……お嬢様は本当は寂しいのでしょうね。いつも強気で振舞って居ますが、本当は寂しくて、素直で怖がりな甘えん坊な女の子だ。ならば、今日は私がママとなってお嬢様の寂しさを消し去って見せましょう!
「お嬢様、失礼します」
「ふぇ?」
「おてて繋ぎましょう。迷子になると危険ですので」
「ふ、ふーんだ! しょうがないメイドなのじゃ。レーゼが迷子になると行けないからのぉ〜妾が直々に手を繋いでやるのじゃ! 光栄に思うがよかろう!」
うふふ♡ 思いっきり私の手を握っちゃって♡ そんなに強く握らなくても私は何処にも行きませんよ?
「あ、お嬢様」
「ふむ? 何じゃレーぜよ」
「先程お花をつみにに行ったのですが……右手だけ洗い忘れました。私の〇〇〇〇が付着しているかもしれません」
「げっ!? 汚いのじゃ!」
「くすくす♪」
勿論冗談です♪ お嬢様の顔から影はすっかりと消えましたね♪ さて、それではシュークリームを食べに参りましょう♪