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第4話 ジャンルの切れ目が縁の切れ目

「推しの母親にそれ聞く?」

「開き直らないでよ。どれぐらいの距離感が適切なの? 私みたいな壁打ちしている同人作家に何をしろていうの?」

「普通に。おねーちゃんと蒼真でいたらいいんじゃないかな」

「……ハードル高いこというよね」

「もっとも蒼真がそう思っていないことは知っているから母としては先に釘を刺しておくってこと」

「待って。どういう意味?」

「それぐらい自分で考えてよ。もう我が息子ながら…… はぁ」


 大仰に溜息をつく結。


「今まで連絡取ることを禁止にしていたのよ。ほら熱中して中毒になるといけないから。でももう限界だから私が話したあとでこのメモを渡すことを約束したの」

「私はスマホアプリ扱いか」

「ゲームよりキャラが濃いじゃん。約束は果たしたわ。これだけのためにあの子がどれだけ努力したかは言わないであげる」

「言ってるようなものだよ?」


  紙片が重い。


「親友として。蒼真の母としての板挟みだったの。あんたは超鈍いから」

「浮いた話なんてゼロですー」

「BL趣味理由にして男性と距離を作ってただけよ。遠回しなアプローチはいくらでもあったと思うもの。高校時代もそうだったし」

「……」


 返す言葉もない更紗。


「そんな気配があるのはオタ男ぐらいだし。オタ女だからといってオタ男と付き合いたいわけじゃないもんね」

「そうよねー。無関心でいてくれるだけでいいのに」

「わがままねー」

「言わないで……」

「蒼真はそんなあんたの性格も知り抜いているからね。強敵だよ。攻略されないようにしてね」

「でもさ。絶対に好きになったらいけない相手じゃん。道徳的にも」


 何せ更紗としてはおむつのお世話をして、結の代わりにお風呂に入れていた子供なのだ。


「あんたは親でもなんでもないからいいわよ。道徳も糞もないわ。法的にも手続きを踏めば義理の兄弟姉妹が結婚できるんだよ。更紗は親戚ですらないんだし」

「そうなんだけどさ。母親が相手にいう台詞じゃないよね? しかも最強無敵でレベルカンストしている相手にどうやって対抗しろというの? 同年のアイドルとか声優とかいくらでも食えそうじゃない」

「生々しいことをいわないで。興味ないってさ」

「え? 本当に?」

「蒼真はガントレットストライカーになるという夢でやってきた。不特定多数にちやほやされたい女性とは上手くやれない気がするって」

「私の推しはさすがね」

「元凶はあんたなんだけどね?」

「自覚ないよ……」

「あったら薄い本作ってないよね。責めているわけじゃないから」

「うん。でも結がジャンルを変わってという理由がわかったよ。その代償がこの大いなる力に……」


 震える手で紙片を見詰める結。


「そう。大いなる力の使い所を間違えないで。スキャンダルは厳禁だからね」

「34歳喪女と16歳特撮俳優でスキャンダルに発展したらいっそ褒めて欲しいわい!」

「杞憂だといいんだけどね。何が起きるかわからないからなー。私達夫婦のように」


 時計を見ると16時50分を過ぎていた。


「おっといけない。もうこんな時間。ここからなら品川で乗るでしょ? 送っていくわ」

「なんといえばいいのか。ありがとう? ごめんなさい?」

「うちの子のわがままだから、私がごめんなさい。何か進展あっても報告はいいから。蒼真から聞くわ」

「そうして……」


 空気が抜けたように脱力する更紗を、難しい顔で見詰める結。

 更紗の人生を変えるような出来事は彼女にとって不本意だった。


(もう二人に任せるからさ。あんたは自分が思っていた以上に親代わりを完璧にこなして、いいおねーさんだったってこと。全部あんたの魅力なんだよ。自慢の親友、がんばれ。……やっぱり複雑だなー)


 口に出してやりたい気もするが、これ以上いうと更紗が揺れそうだ。相手は自分の息子ときている。

 母親としてはなんともむず痒い状況だったのだ。


 帰りの新幹線で、魂が抜けたようになる更紗だった。

 

(どうしよう…… 何も考えられない)


『みなさんお疲れ様でした! 今日でジャンル変更します!』


 短文SNSにそう打ち込みそうになり、慌てて消す更紗。


『今日のガントレットストライカー紫雷は』


 呟こうとしては消すを繰り返す。


(ジャンルの切れ目は縁の切れ目。うかつなことは書けないなー。私の本を好きだといってくれる人がいる。私もまだ続けたいのに……)


 環×疾風は間ジャーカップリングではなく、供給は少ない。

 圧倒的に俺様な疾風攻めが主流なのだ。


(そうだ。いっそのこと、今決めないでほのめかして…… だめだ。書き方間違えると構ってちゃんになっちゃう)


 別に同情が欲しくてジャンル移行するわけではない。人様には絶対言えない理由なのだから。


『推しが親友の息子で頭が破裂しそう』


 打ち込んでは投稿前に消す。大騒ぎになること間違いなし、だ。


(迂闊に壁打ちもできないな)


 流れる景色を眺めながらSNSに投稿する内容を考える更紗。


『帰りの新幹線。閃光楽しかったー! ガントレットストライカー紫雷は至高の作品ですね! 推し活はひょっとしたらWEB中心になっていくかもしれない。遠征はきつくなってきた(笑)』


 思ったより反応は早かった。

 たまに絡んでくれるうさうささんが真っ先に返信をつけてくる。彼女のファンといってくれるみずみずさんだ。


『さらさらセンセー! 新刊最高でした! 紫雷を見捨てないでー』


 これを契機にあっという間にツリーが出来上がる。


『新刊を買ってくれたんですね! ありがとうございます! 見捨てたりしませんからご安心を! ガントレットストライカー紫雷の環君は最愛の推しですから!』


 イイ! というハートマークがつきまくる。


(やめるにしても徐々にフェードアウトかなー)


 更紗の脳裏によぎるもの。それはガントレットストライカー紫雷の秋月環ではなく、彼女に懐いていた、幼少の頃の水野蒼真だった。


(蒼真君。頑張ったんだなー。私との約束を本当に果たしてくれたんだ。うんと褒めてあげないとね)


 ふと推しへの扱いではなく、面倒を見ていた子供への感情に気付く。


(やっぱり私は蒼真君のもう一人のおかーさん的な存在だよね。恋愛とかナイナイ)


 相手は押しも押されもせぬ人気を誇る注目の若手俳優だ。

 こんな年上の、いい歳こいて児童向け特撮の同人誌を書いている母親の同年女とスキャンダルはあり得ないだろうと自嘲する。


(結も心配性だなー。何をそんなに危惧してるんだか)


 そう思うと寂しくはなってきた。


(もう私も三十四だよ。現実をみろってイベントが発生しただけよね。推しはお前の親友の子供なんだぞって。子供がいてもおかしくない年齢なんだぞ)


 新幹線の顔には虚ろな笑みを浮かべている自分の姿が目に入った。


(特撮に夢中でいる年齢なのかってさ。あー結婚とかまだ考えてなかったなー!)


 夜の新幹線から見える風景は、淡い光があっという間に流れていく寂しげなもの。

 徐々に気分が凹んでくる更紗だった。


 新大阪で乗り換え、西宮に戻った結はつつがなく帰路についた。

 時計を見ると夜23時を超えている。明日は普通に仕事なのだ。

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