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最終話 これからもついてきて

 現場が慌ただしい。撮影は始まっている。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ガントレットストライカー紅破と対峙するダークウィドウ。

 一触即発のところ、村雲疾風が立ちはだかる。


「疾風。そこをどけ」

「敵と味方の区別はつけたほうがいいんじゃないか? ダークウィドウはまだ何もしていないだろう」

「いずれ、人を襲う」

「その時は俺が止める」

「疾風! どうしてそこまで! ではまずお前に退いてもらおう」


 剣を生身の疾風に向ける紅破。

 熱血漢の青年だが、突っ走るタイプだ。


「ダークウィドウには借りがあってね。――装着」


 疾風もガントレットを装備して変身する。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「はいカット! いいよー! 忙しいところごめんなあケンタ君」


 監督がケンタに詫びを入れる。


「次があるならもっと出番を増やしてと横山さんに御願いしてください」

「はは。嬉しいね。必ず伝えておくよ」


 やる気がある出演者は助かるとは如月遙花も言っていた。監督も同じ立場なのだろう。


 小走りで更紗に近付くケンタ。


「俺の出番はこれで終わりや。次ソウマと会うときは俺もよしてな」

「よしてって。ふふ。わかったよ。ソウマ君の許可が降りたらね」


 関西弁を一切隠そうとしないケンタに思わず笑う更紗。やめてという意味ではなく入れてという意味で、関西弁特有の表現の一つだ。大人になるにつれ、使わなくなる。


「あいつこすいねん。抜け駆けしよって。仕方ないねんけど、一緒におる時間が一気に減ったわ」

「あはは。二人とも人気俳優だもん。明日いっておくね」

「頼んだわサラさん。ほなな!」


 そういってケンタは颯爽とマネージャーの下に走り出す。


「ケンタ君も変わらないな。元気だなー」


 気のいい悪ガキというイメージはそのままだった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆


Vシネの撮影最終日を迎えた。

 ハードなスケジュールだったが、三日で映画一本が完成するという事実に感心する更紗だった。


「おはようございます」

「おはようございます」


 蒼真と二人揃って現地入りする。

 マークシープロダクションから車で撮影所に入ったのだ。


「もう一度ダークウィドウを演じることができるなんてね」


 あっという間の三日間だった。


「ほら。また遠い目をする。女優としての黒沢サラは始まったばかりなんだ。いくよ」

「はい」


 二人の絡みも若干増えている。関係性を考慮した横原の悪ノリともいうべきものだ。

 ダークウィドウとしては実質最後の出番ということも考慮してだろう。


「俺、今日アクション多めなんだ」


 蒼真はそういってストレッチしている。


「え? そんなことしていいの?」

「俺の提案。監督からもオッケーがでた」

「やる気まんまんだね! 私も頑張る」

「そうそう。最後は監督の許可が出てアドリブするから。更紗のやることは変わらないからよろしく」

「え? 私にアドリブ対応なんて無理無理!」


 突如聞かされた事前アドリブに、更紗は首を横に振って全力否定する。


「大丈夫。先輩に任せろ」


 そういって蒼真は更紗の懸念を一蹴した。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 吹き飛ばされる疾風と紅破。


「私は実体がない。お前たちの攻撃は無意味」


 地面を転がった二人を見下ろす魔王サルワ。


「紫雷なき今、お前たちは死ぬのみ」


 魔王サルワが鷹揚に宣言する。


「それはどうかな」


 倒れた二人の向こうから歩み寄る秋月環。


「貴様? ダークウィドウが倒したはずでは!」


 ダークウィドウは「秋月環は私が殺す」と宣言して姿を消した。

 そして死んだという報告とともにガントレットがもたらされたのだ。


「目論み違いだったな」


 環が寂しそうに笑う。

 戦闘すらなかったのだ。環はその時を思い出す。


「ダークウィドウ。お前も蘇ったのか」


 哀しげな視線を送るダークウィドウ。


「お前のガントレットでは魔王サルワには勝てない」

「どういうことだ」

「ヤツの力は世界の秩序を破壊する力。無秩序という特性がゆえに実体はこの次元にはない」

「わかっている。しかしこのまま放っておくわけには!」

「私を信じるか信じないかはお前次第。ガントレットを貸せ」


 環は意を決して、ガントレットをダークウィドウに渡す。

 ダークウィドウは微笑み、その腕に装着する。変身はしない。


「何をする気だ」

「見ていろ」


 蜘蛛の糸が垂れ、繭状になった。やがて灰色になった新しいガントレットが生まれた。


「これは……」

「もっていけ。私の命はこのガントレットに込めた。蜘蛛の糸――深淵より秩序を織りなす糸。世界を破滅させる力でもあるが、その時は永劫の果て。今はお前の力になろう」


 環はガントレットをはめる。


「ぐわぁ!」

「苦痛を乗り越えろ。今までにない力となる。また会おう」


 そういってダークウィドウは消えた。

 

 数日、苦痛の苦しむ環。

 己との戦いだったが、ようやく目を覚ました。

 優しく微笑むダークウィドウがいた。彼女に膝枕をされている格好だ。


「新しい力、手に入れたか」

「これは……」


 新しいガントレットに深紅の宝玉がはまっていた。


「深淵の力。アトラク=ナクア。私の命そのものだ。無秩序には秩序をもって対抗するがいい」

「待て。ダークウィドウ。お前はどうなる!」

「一度死んだ身だ。忘れろ」

「忘れることなどできるものか!」

「ではそうだな。――飽きるまで覚えておけ」

「何を!」


 ダークウィドウは優しく微笑む。


「お前に私を刻んだ。生きて。秋月環」


 そういってダークウィドウは倒れこみ、息を引き取った。

 亡骸は消えなかった。


「蘇ったお前は誰の命も奪わなかった…… 怪物にならなかったから消えないのか」


 両手で抱きかかえ、環は誓う。


「お前にもらった新しい力で、魔王を倒す」


 ダークウィドウを葬るために、歩き出す環。

 音もなく、二人の姿は消えた。


 ガントレットを取り出した秋月環。


「装着!」


 ベースカラーの紫ではなく、黒檀色。

ガントレットストライカー紫雷の新モードだった。


「実体がないなら、与えればいい。喰らえ!」


 紫雷の背中から、ロボットアームのような四本腕が出現し、蜘蛛の糸を射出する。


「深淵より来たる秩序を織りなす糸で、深淵にいるお前をこの世界に引きずり出す!」

「やめろ!」

「力を貸せ、二人とも!」

「おう!」

「わかった!」


 嵐牙と紅破が立ち上がる。 

 彼等の力が紫雷に注がれた。


 魔王サルワは絶叫し、虚空からまったく同じ姿の魔王サルワが糸に絡め取られて引きずり出された。


「ヤツをこの世界に引きずりだした。いくぞみんな!」

「牙をむけ! ガントレット!」


 紫雷がサルワを捕縛して、身動きが取れない。 

 その間に嵐牙が必殺技を繰り出し、サルワを殴り飛ばす。


「紅破! お前の力でサルワを燃やし尽くせ!」


 紫雷が叫ぶ。


「燃えろ! 俺のガントレット!」

 

 紅破がガントレットに力を込めて、魔王サルワを殴打する。

 魔王が炎に包まれ、焼き尽くされた。

 

「ばかな!」


 絶叫して爆発する魔王サルワ。


「生きていたなら早く来い」


 嵐牙が憎まれ口を叩く

 

「よくやったな紅破」


 頷く紅破。

 戦いは終わったのだ。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 すべての撮影が終わった。

 あとは編集に任せるのみ。


蒼真は更紗を両腕で抱いたままだ。

 更紗は固まっている。


「あのソウさん? そろそろ降ろしてくれてもいいのよ?」

「まだ早いよ」

「……」


 恥ずかしさで更紗の顔は真っ赤だった。

 とっくにカットは鳴っている。


「宵の明星とともに消える環とダークウィドウ。偶然だったがこれはこのままいこう! 合成はなしで」

「そうですね」


 演出も満足の撮影ができたようだ。


「これで公式カプだな」


 小声で蒼真が言いだし、さらに顔が真っ赤になる更紗。


「こら。なんてこというの!」

「えー。、絶対新刊のネタになるって」

「なるけど…… なるけど自分で描くのはちょっと……」


 そんな二人を遠目に眺めていた監督が呆れた声を出す。


「そこの二人~。いちゃつくならあとにしろ。またスクープされてもしらんからな!」

「大丈夫ですよ! 今度はデマじゃないんで!」

「大きくでたなー。ま、いっか。若いってのはそれぐらいの勢いがないとな!」


 笑いながら監督は去って行き、別シーンの撮影準備をする。


「デマじゃないって。もう」

「外堀は埋まったからな。更紗もそろそろ観念しなよ?」

「とっくに観念しているから」


 更紗はようやく降ろされた。


「重かったでしょ」


 いわゆる御姫様抱っこではなく、死体役を運んでいたのだ。

 重かったに決まっている。


「全然?」

「ヒーローたるもの、そうでなくてはな!」


 いつの間にかヘルメットを脱いだスーツアクターの垓がいた。


「サラさんも女優業が板についてきたな。推薦した甲斐があるってもんだ」


 豪快に笑う垓。


「いえ。あの時垓さんの推薦が無ければ、今の私はいませんでした」

「そうだな。道頓堀に新しくできたという屋台の食い倒れで手を打とうか」

「はい。喜んで!」

「その時は俺も一緒ですよ!」

「ケンタも誘わないとな。拗ねるぞ」

「昨日拗ねてました!」

「やっぱりな」

「俺もあいつも忙しいんですよ。あいつも駄々っ子だな」


 思わず苦笑いする蒼真。メッセージで連絡はとりあっている仲なのだ。


「豪華メンバーすぎて気付かれたら大騒ぎになりそう」

「俺は撮影に戻る。またな二人とも」

「お疲れ様です!」

「みんなでいきましょう~」


 垓が撮影に戻る。どうしても変身シーン中心の映画になるのでスーツアクターは多忙だ。


「これで私もダークウィドウとしばらしのお別れかあ」

 

 更紗は寂しげな笑みを浮かべる。

 

「何をいっているんだ」


 蒼真がきょとんとした顔をする。


「え? どういうこと?」

「映画ができあがったら、俺と更紗でVシネのCMやメディア取材があるんだぞ」

「聞いていないですが!」

「素の黒沢サラがマスコミ対応できるための試練だな」

「試練って。如月社長スパルタすぎる!」


 更紗は如月遙花の思わぬ計画に絶句する。

 

「これで公にツーショット写真も出回るぞ」

「こら。人気俳優。キャリアを大事にしなさい」

「キャリアを大事にしつつ、外堀を埋めていくんだ」

「本人にいわないでよ……」


 いたずらっ子のように笑う蒼真に、赤くなるしかない更紗。


「仮に数年間交際禁止といわれても、今回のCMで同じ事務所で同じ作品の、という大義名分ができる」

「それはそうだけど」

「と、社長がいっていた」

「社長-!」


 すべては遙花の手のひらで踊っている気になってきた。


「だからね。更紗から今日から俺達のスタートなんだ」

「そうなるのかな」

「ダークウィドウから離れてから本番だとわかっているからな。徐々にフェードアウトなんて許さない」

「う、わかっているよ」

「逃げても母さんに本住所聞くし?」

「怖い怖い。ストーカーっぽいよ!」

「年季の入ったストーカーかもしれないな」


 若干自分の行動を省みて苦笑いする蒼真。

 みずみずという偽名アカウントで接触していたのだから。


「こそこそする必要はなくなった。これほど嬉しいことはない」

「うん」


 遥花の言う通り、しばらくはこの作品と同じ事務所で通せるだろう。

 それでもやっかみはあるだろうが、そんなものは覚悟の上だ。


「ソウさん! サラさん! そろそろ事務所に戻りますよ!」


 マネージャーの萩岡律子が、遠くで呼んでいる。


「わかりました」

「はーい!」


 歩き出した二人。蒼真はまた更紗の手を握る。


「こら!」

「もう大丈夫だって! これからもついてきて」

「はい」


 蒼真にリードされながら、更紗はこれからも歩んでいく。

 困難だけれどきっと楽しい日々が始まるのだ。

ここまでお読みいただきありがとうございました!

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