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第12話 けったくそ悪い女

 蒼真たちが大谷さくらと遭遇した翌日。

大阪のとあるTV局で、健太を見かけた大谷さくらが駆け寄ってきた。


「おはようございまーす!」

「おはようございます。この前はお疲れさまでした」


 健太は軽く会釈して、通り過ぎようとした。話し掛けられて嬉しい、という気配は微塵も感じない。


「昨日、天海ソウさんと五百旗頭垓さんに遭遇したんですよー。すっごい美人を連れてましたー」


 反応をみると、健太は眼を丸くして驚いていた。


「そうなんですかー? 昨日は実家に帰ってたんですよね」

「実家はこちらなんですか?」

「ええ。関西です。でも凄い美人とは気になるなー」


 県名まではいわない健太。そして美人の話に食いついてきた。


「なんでもソウさんのお母さんのお友達とか? でもとてもではないですが、そんな人には見えなかったですね! 二十代に見えましたよ。しかも垓さんともお知り合いのようでした。健太さん、ご存じありません?」

「いえ。まったく。垓さんとも?」


 眼を丸くする健太に、深く頷くさくら。


「驚くでしょー? だから母親の関係者かもしれないけど、特撮関係の方で、年齢は私達に近いのかなって。心当たりありませんか? 秘密の現場をみてしまったようでドキドキしちゃって!」

「いえ。まったく心当たりがありませんね。確かに秘密の関係というとドキドキしますね~」

「でしょー? 私も言いふらすつもりはないんですけどね! 健太さんも内緒にしておいてくださいね」

「はい。ありがとうございます。ではボクは収録があるのでこれで」

「私も! またねー」


 軽く会釈して、さくらの横を通り過ぎる健太。

 さくらには表情が見えなかったが、ぞっとするほど昏い顔をしていた。


「けったくそ悪い女やな。ったく。お前みたいなヤツを出歯亀ちゅーんじゃ。ダボが」


 健太は小声で吐き捨てると早足でその場を立ち去った。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆


『垓さんホテルいる? 話があるんだけど』

『おう』


 ホテルに戻った健太は垓と連絡を取る。

 ガントレットストライカー紫雷の主要スタッフは、今回映画撮影の現場となる夢洲サーキットの下見にきているのだ。全員同じホテルだ。


 ホテルのレストランで垓と待ち合わせた健太は、合流して早速本題に入った。


「垓さんの予感的中やわー。俺に探りいれてきよった」

「そうだろうな」


 大盛りのパフェを豪快に食べながら、垓は頷いた。

 健太はケーキだ。


「なんで俺に話すかわけわからんわー」

「そりゃお前が仲はいいとはいっても、芸能界ではライバルだと踏んだんだろう。つまり、さくらが流した情報を利用して蒼真になんらかのアクションを起こすかも、という期待だな」

「俺が蒼真を陥れるちゅーこと? そら、舐められたもんやな」


(絶対にあの女の思い通りにはさせてやらん)


「アイドルと特撮業界は近いようで遠いからなぁ」


 特撮出身の女優たちをみてきた垓だからこそ、わかることもある。

 彼女たちとはその後も交流ある人物もいるし、そのまま引退してしまう者もいる。現実問題として若手男性俳優の登竜門ではあるが、女性俳優のチャンスにはなりにくいのがガントレットストライカーシリーズの実情だ。

 若手の彼らを少しでも支えたいと思う垓である。


「お前達は何も心配するな。もう手は打ったさ」

「早ッ!」

「ヒーローたるもの、だな。お前たちはもう少し俺たちを頼っていいんだ」


 最近の若手俳優は頑張りすぎだと垓は思う。

 TVに舞台、画像配信。プライベートなど何もない。輝かしい世界ではあるが、闇も深くなろうというものだ。


「助かります」

「もっとも更紗さんには俺も驚いたけどな。ゴスロリだし、あれは確かに蒼真と年は離れて見えん」

「ゴスロリかー。見たかったわー」

「はは。俺と蒼真は写真を撮らせてもらったがね!」

「えー。ずるいー。見せてやー」

「ダメだ。蒼真に頼むんだな」


 しょんぼりする健太に、元気づけるように笑いかける垓。


「そう遠くない未来かもしれないしな」

「どういう意味ですか?」

「内緒だ。ヒーローには秘密がつきものなのさ」

「垓さんほどヒーローやってる人はいませんわ。色んな秘密を抱えてそうや」

「そうだぞ」


 今頃、その秘密が動き出していると時計を見る垓。

 健太と他愛ない特撮トークに戻るのだった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


『更紗! ごめん、10分後知らない電話番号から連絡あるかもしれないけど、出てくれる?』

『いいよー』


(いよいよ、か。事務所の人かなー。怒られそーだなー)


 もちろん更紗と蒼真の関係が変わるわけはない。もし手を引けといわれたら大人しく引き下がるつもりだ。

 

(考えすぎても仕方ないか)


 ひょっとしたら考えすぎで、他愛のない用件かもしれない。


 電話が鳴る。


 ――03ーXXXX―△△△△


(ほら東京からじゃん!)


  電話に出る更紗。


「更井更紗様のお電話で間違いないでしょうか」


 凜とした女性の声が、更紗を確認する。


「はい。更井です」

「はじめまして。私、マークシープロダクション社長の如月遙花と申します。いつも天海ソウがお世話になっております」


(し、社長?! マネージャーとか部門長じゃなくてあの如月社長自ら!)


 思えば当然だ。蒼真は期待の新星なのだ。


「いえ。こちらこそ。大変ご迷惑をおかけしてしまい……」

「ご迷惑なんてとんでもございません。さらさら先生の本は、私も毎回楽しみにしているのですよ?」


 電話の向こうで悪戯っぽく笑う如月遙花の顔が容易に想像できた。


(なんで芸能事務所社長が同人誌を買っているのー!)


「私の同人誌をご存じで……」

「はい。ソウのマネージャーにはいつも三冊。ソウの分、健太の分、私の分を購入していただいてもらっているのです」

「お、恐れ多いですー」

 マークシープロダクション社長からの思いもよらぬ発言に、頭が真っ白になる更紗だった。


「いえ。あの熱量は私! 大変感動しております! 私も昔は同人者でして。いわゆる古の者、幕張時代なのですが……」

「ジャンルをお伺いしてもよろしいでしょうか……」


 確認したい誘惑に駆られてしまい、抗うことはできなかった。


「ゾディアック・クルセイダーという作品でして。お恥ずかしい。もう何十年前になるかしら」

「わかります! 私も好きでした!」

「思った通り、さらさら先生とは話が会いそう。では同類の同人者としてお願いがあるの」

「は、はい」


 きた。しかし何故か優しい声音で、安心できるものがある。


(同人誌の話とか、予想していた話と違う?)


「天海ソウ――蒼真が貴女に好意を抱いていることを私は知っています。勘違いしないでくださいね。あなたたちの仲を裂くのではなく、支援する方向で考えていますから」

「え? は、はい……」


 何を言われたのかいまいちピンとこない更紗。


「ですが貴女にその覚悟があるかどうかお聞きしたいのです。たとえば、ですが。たとえばですよ? 蒼真君の助けになるためになら、会社を辞めることができるかどうか、です」

「辞めます」

 

 即答だった。どんな理由があるかは知らないが、蒼真のためになるのなら。


(会社を辞めるだけで蒼真君の助けになるなら安いもの。彼はそれだけ幸せな時間を私にくれたから)


「……理由さえも聞かないのね。少し呆れたわ」


 更紗の思い切りの良さに少し驚いたようだ。社会人としては賢明な判断ではないだろう。社長としてはむしろ信用できないかもしれない。


「あの子はガントレットストライカーになるために、様々なものを犠牲にしたんだと思います。蒼真さんのためになら、会社を辞めるなんて簡単ですよ。私が蒼真さんにガントレットストライカーになれと言ったのですから」


 更紗の、ほんのちょっぴりの矜持。蒼真は彼女の言葉で俳優にまでなってガントレットストライカーになったのだ。


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