2.過去
俺の名前はアルフレッド。
以前の名前は、エリアス。15年前、俺はリリアナとその兄、エドワードの幼馴染だった。
10歳の俺たちは王都からは遠くの村で平穏に、日が沈むまで遊び回る楽しい毎日を送っていた。あの男が現れるまでは。
あの日も、俺たちは三人で村からほど近くの浅いところであれば魔物も出ないような、小さな森の中を駆け回っていた。エドワードは俺たちを守る兄貴分で、リリアナと俺はいつも彼の後をついていった。
「この先には危ないって聞いたことあるけど、本当に行くのか?」
俺が問いかけると、木の棒を握るエドワードは振り返って笑った。
「怖いなら帰ってもいいぞ。俺たちだけで行くからな!」
「そんなわけないだろ!」
エドワードの挑発に乗せられ、俺も先へ進む。その後ろからリリアナが不安そうに声をかけた。
「本当に大丈夫かな……?」
その瞬間だった。森の奥から不気味な笑い声が聞こえてきたのは。
笑い声の主は、一人の男だった。黒いローブをまとい、長い銀髪を後ろで束ねたその姿。鋭い目は深紅に輝き、冷たい笑みを浮かべていた。
「こんなところで子どもが遊んでいるとは。面白いものだ。」
その声に、俺たちは凍り付いた。エドワードが一歩前に出て、俺たちをかばうように立ちふさがり木の棒を構える。
「誰だ!」
「名乗る必要はない。だが、今日からお前たちの運命は変わる。私もな。」
その言葉と同時に、俺たちの周りに円を描くように炎が現れ、逃げることもできなくなった。
「お前……!」
エドワードが男に向かって走り出す。
「俺がこいつらを守らなきゃいけないんだ!!」
棒を上段から振り下ろそうとした瞬間、彼の体が宙に浮き上がる。
「お前には用事がある。おとなしくしていろ。」
「離せ!俺はまだ……!」
エドワードは抵抗しようとしたが、その手の得物は空を切るばかりだった。そして俺たちは、その光景をただ見ていることしかできなかった。
「お前は殺す。」
男は俺に目を向けると、冷たい声で呟いた。そして次の瞬間、俺の胸に激痛が走った。
エドワードは連れ去られ、リリアナの泣きじゃくる声を最後に俺は、死んだ。
目が覚めたとき、俺は見知らぬ場所にいた。そこは、1年後の世界だったとしばらくして知った。
転生という現象を、俺はそのとき初めて知った。記憶は完全に残っていたが、体は完全に別のもの。過去の自分に戻ることはできないという現実を突きつけられた。
それから15年。冒険者として身を立てながら、俺はリリアナやエドワードの行方を追い続けた。だが、彼女の兄が生きているかどうかも分からなかった。あの男の目的が何であったのかも。
ただ一つだけ確かなのは、俺が彼らを見捨てるわけにはいかないということだ。エドワードがそうあろうとしたように。
「リリアナ……エドワード……俺は必ず、すべてを取り戻してみせる。」
そう心に誓い、別の国を訪れたところでリリアナと再会する。