表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

1.再会

初作品

 薄暗い部屋の中で、一人の男が膝をついて魔法陣に向かい、目を閉じている。その男の髪は長く、鋭い目をしていて、冷徹な印象を与える。手にした杖から発せられる青白い光が、彼の顔を不気味に照らし出す。


「見えた……」


 彼の目に、断片的な未来が浮かび上がる。自分が少年を抱え、その傍らには少女とかなりの血を流す少年が転がっている場面、そして抱えていた少年によく似た青年が魔王に風穴をあける場面だった。男は冷静にそのシーンを観察し、心の中で呟く。


「こいつが鍵か…」

___________


「やっと見つけた……」


俺は心の中でそう呟きながら、目の前を歩く女性の後ろ姿をじっと見つめていた。

少し背筋を伸ばし、肩にかかった栗色の髪を軽く揺らしながら歩くその姿。服装こそシンプルだが、どこか上品で落ち着いた雰囲気を漂わせている。その背中は、かつて一緒に遊んだ幼馴染の彼女そのものだった――リリアナ・カルフィア。


幼馴染であり、俺が守りたかった存在。


だが、俺はもう彼女の知る存在ではない。転生した俺は「アルフレッド」という新しい名前を持つ、ただの冒険者だ。

冒険者ギルドで見つけた依頼に、彼女の名前が載っていたときは驚いた。あの「リリアナ」が偶然にもこの街に住んでいて、採集物の調達を冒険者に頼んでいる。そう知った瞬間、俺はその依頼を迷わず引き受けた。


「リリアナに会いに行ける」


それだけで十分だった。


リリアナの家の前で、俺は少し深呼吸をした。木製の扉に手を伸ばしてノックをする。


「入ってくれ。」


中から聞こえた声は、少し低く、落ち着いていた。記憶の中の彼女の声と重なり、胸がざわつく。俺はそっと扉を開け、中に足を踏み入れた。


まず目に入ったのは、部屋いっぱいに広がる実験器具と散らばった紙の山だ。リリアナは真剣な表情で何かの瓶を覗き込みながら作業している。白衣のような衣装をまとい、髪は無造作に後ろでまとめられている。


「依頼の品を持ってきました。」


俺が声をかけると、リリアナが顔を上げた。その瞳がこちらを向いた瞬間、胸が締め付けられる。昔と同じ、透き通った瞳。その瞳が、一瞬俺を捉えた。


「ありがとう。そこの机に置いといてくれ。」


彼女は視線を戻し、再び作業に戻る。


「報酬はそこに置いている。持っていってくれて構わない。」


そっけない態度だが、忙しそうな様子を見ると無理もない。俺は指示された通り、採集物を机に並べる。


「では、これで失礼します。」


部屋を出ようとしたとき、ふいにリリアナが俺に視線を向けた。


「なぁ、君。冒険者としていろいろな国や街を回っているんだろう?」


「えぇ、それなりには。」


「どこかで……こんな顔をを見たことはないか?」


そう言いながら、彼女は机の上の紙の束から一枚のスケッチを取り出して見せた。それは、よく見覚えのある一人の少年の顔だった。


「この人は……」


「私の兄だ。」


リリアナの兄――エドワードは、15年前にある男によって連れ去られた。そして俺自身も、その事件で命を落とした。だが彼女もまた、兄の行方をまだ追い続けているのだ。


「すみません、心当たりはありませんね。」


俺はそう答えた。まだ自分の正体を明かすわけにはいかない。


リリアナは少し肩を落としたが、すぐに顔を上げて微笑んだ。その笑顔は、どこか寂しげだった。


「そうか……わざわざ聞いて悪かったな。」


「いえ、気にしないでください。」


「最後に、名前を聞いてもいいかな?」


「アルフレッドといいます。」


俺は彼女に背を向け、部屋を後にした。ドアを閉めたとき、胸に広がる痛みを感じながら、俺は拳を握りしめた。


「リリアナ……。俺は必ず、お前の兄を見つけ出す。」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ