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4出会い

青い空を巨大な白い翼を広げた竜が横切った。永久魔法・マツルである。マツルは、上空から島々の様子を観察した。植物の生育状況は順調だ。マツルは、空を旋回しながら宝石のような雨を降らせた。燃ゆる瞳の光を受けてそれらは、きらきらと眩しく輝いた。

「生命の多様性が必要だ。あの子供、メイトが生まれるのは気の遠くなるほど未来の話だな」

マツルは、何度も空を旋回しながら、降らせた魔法の効果を見守った。そして、燃ゆる瞳の力が少し弱まり、世界が橙に染まる頃、マツルは大樹のある島へと戻った。

マツルは、真蔓の森を進んだ。メイトに会いに行くには、やはり人間の姿が必要だ。ふと、マツルは考えた。ならば、「二面(にめん)」の魔法を使うのが良いだろう。二面は普通の変身術とは異なる魔法だ。変身術が一時的な状態変化なのに対して二面は、二つの姿を己の真の姿とするものだ。永久魔法という魔力の塊であるマツルは自分の真の姿として竜を選んだ。本来なら自我の死を迎えるまで竜の姿で過ごすものだ。しかし、二面は違う。竜の姿ではない別の姿をもうひとつの真の己と定めることができ、例えば、人間の姿を選ぶならば、人間の姿のまま一生を過ごすことが出来る。さらに、変身術は変身している間、魔力と体力を消耗していくのに対して、二面はもうひとつの姿になったとしても体力や魔力を消耗することはない。その代わり、二面の魔法を使うのは高度な技術が必要だ。また、さらに複雑で高度な魔法「三面(さんめん)」もあるが、マツルは、三つも自分の姿は必要ないと思っていた。この「面」の魔法を成功させるには、変身する姿との相性も重要だ。三面の魔法に成功するのは、天空竜(てんくうりゅう)くらいなものだとマツルは思っている。

「大樹に入って人間の姿を考えてみよう」

マツルは、大樹のうろに飛び込むと最下層の泉と花畑の部屋に向かった。泉のほとりに立ち、自身の姿を見る。純白の竜の姿だ。正直なところ、人間の姿になるのは、気が引ける。あの滅びた世界も、もとは人間同士の醜い争いが原因だ。世界の記憶もほとんど壊れていて詳しいことはわからなかったが、滅びの直前におびただしい負の感情が渦巻いていたことがわかった。このような現象は、戦火や天災の中に発生する。それから、気になったことは、もうひとつ。世界に滅びをもたらした魔法の他に別の強い魔力も感じた。多分あれは、「よみがえり」または、「転生」だろう。おそらく、世界と共に死ぬことを拒んだ魔法使いがいたのだろうが、あの状況で魔法は成功したのだろうか。もし、成功していたなら、いつか出会うことがあるだろうか。わずかながらに魔法の記憶は採取できた。出会えば、すぐにわかるだろう。

「上手くいってるといいな。まだ見ぬきみよ」

マツルは祈った。そして、改めて泉の自分の姿に意識を戻した。思考が脱線してしまった。つまり、理由がなんであれ、盲目に同族同士を殺し合うことが出来る人間があまり好きではない。しかし、それが人間の持つ側面のひとつでしかないことも、理解していた。

「やれやれ、前向きに考えようじゃないか。変身するなら、子供の姿がいいな。しかし、幼くては相手にされない」

マツルは想像した。では、性別はどっちがいいだろうか。変身してみてしっくりくる方にしよう。マツルは変身をした。頭がやたらに大きくなった。肩幅を優に越えている。これではダメだ。性別や年齢以前に人としての形をまず整えなければ。次の変身は、肩から手が生えていた。足は脇腹から飛び出していた。

「くふふっ。これでは化け物だ」

マツルは自分の姿にひとしきり笑うとまた変身を繰り返した。何十回も繰り返してようやくまともな姿になった。と思うと耳が頭の上にあった。自分には人間に変身する才能がないらしい。マツルは自分にあきれた。マツルはまた変身を繰り返した。

泉の前には、白い髪の少年が立っていた。髪は少し癖があり、毛先が波打っている。白い髪は光の加減で水色に輝いた。瞳の色は冴えた空色で白目との境界は赤く縁取られている。年の頃は十代の半ばくらいか、その少し上くらいにみえた。着ている服は純白で、その姿は、完璧な人間でありながら、人間らしく見えなかった。白すぎるその姿は、普通の人間が見たら幽霊のように思ったであろう。しかし、マツル自身はその姿を気に入った。マツルは二面の魔法を唱え、白い少年の姿をもうひとつの自分の姿に定めた。

「そういえば、少年になるか、少女になるか、なんて考えていたのにな。結局少年になってしまった。まぁ、どっちか選べるほど変身が上手くなかったから仕方ないな」

マツルは階段を上ると大樹の出入口に立った。まだ世界は夜だ。水面の瞳が白く輝いている。マツルは床を軽く蹴って跳ねると、そのまま落下し、大樹を囲む真蔓の森へ降り立った。人間の姿で歩く真蔓の森は新鮮に思えた。自由気ままにくねくねと空に向かって互いに絡まりあいながら伸びている蔓は、背が高く、空からマツルを隠そうとしているかのようだった。

「夜の散歩も風情があるな」

マツルは歩き始めた。自我を宿してからしばらく経つが一向に生みの親の記憶がよみがえらない。それに、自分という自我が発生する前の自我を知る方法はあるのだろうか。夜の真蔓の森は黒く深く、思考の行き着く先のようで神秘的だ。マツルは滅びた世界から回収した情報を振り返ることにした。真蔓はゆっくりとマツルに身を寄せた。真蔓に蓄えさせた情報は、まず世界の構造だ。この世界を創る枠組みだ。それから、渦巻く負の感情の黒煙。これは戦火がもたらしたものだ。そして、世界を滅ぼす原因となった強大な魔法。魔法を発した者たちの「滅びよ、世界!」という二人の人間の声。男女だ。更に「よみがえり」または「転生」の魔法の気配。闇を吐き出す赤く燃えた搭。青い光。

「うっ!」

急にマツルの視界が回った。マツルを構成する魔力構造が震えた。マツルは自分の肩を抱いて膝を着いた。魔力構造の震えがなかなか止まらない。何故こんなことが起こるのか。魔力構造の動揺は、永久魔法の存在を脅かす。このまま構造が緩み離れてしまえば、マツルという永久魔法は消滅してしまう。マツルが真蔓から読み取ったのは、滅んだ世界の記憶だ。そこに今のマツルが干渉してはいけない何かがあったようだ。この現象が発生したきっかけは何だろう。真蔓から読み取った記憶に何らかの問題があったはずだ。世界の構造、負の感情、滅びの魔法、転生らしき魔法、燃える搭、青い光。そう、あの青い光の正体は一体何なのか。どこか遠いところから、声が聞こえてきた。


……ちは、……出会う……早い……


ううっとマツルはうめき声を上げた。自身を構成する魔力構造が激しく振動している。このままでは、身体が壊れてしまう。


まだ……ない……は、……ノキト……


マツルは、震える肩を必死に押さえつけようとした。しかし、押さえつける両腕も震えているため、力が思うように入らなかった。もう駄目かもしれない。そう思ったが、魔力構造は、不思議と崩れなかった。


心配ない……共鳴……だから……


共鳴だって! では、あの青い光の正体は永久魔法だとでもいうのだろうか。そして遠くから聞こえるこの声の持ち主は一体? 唐突に震えが止まった。

「もし? 大丈夫ですか?」

マツルは、はっと顔を上げた。そこには心配そうにマツルの顔を覗きこむ少女の姿があった。

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― 新着の感想 ―
古事記では人間のことを「青民草」といったか。マツルが作った世界にもいつの間にか人が!!これから増えるのかな。楽しみだな。 にしても、万能そうな永久魔法にも苦手なものがあるなら、苦手なものがいくつあって…
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