14異世界へ
次の日も、境界図を呼びだす練習と、境界図上の言語を読む練習、加えて異世界の言語を取得済みの言語に翻訳する魔法の訓練を行った。訓練中、ヒガンが何やら考え込むような仕草をしていたのが気になったが、訓練自体はこれといった問題はなかったように思う。
「そういえば、境界図上で、自分がいる世界が金色、自分のいる世界に一番近い世界が銀色に光る設定になっていると言っていましたが、銅色は接することが確定した世界という認識で良いですか?」
私が尋ねるとヒガンの顔がぱっと晴れやかになった。
「ありがとうございます。何か言い忘れたことがあった気がしていましたが、その話がまだでしたね」
ヒガンは言った。
「銅色は自分がいる世界に過去二回以上接したことがある世界なのですよ。もし、一度も接したことがない世界ですと、銀色のまま接することになります。本来なら、自分の世界に一番近い世界が一番早く接する可能性があるのですが、昨日は違いましたからね。予想外のことがあると、元々言おうとしていたことを忘れがちですね」
ヒガンはやれやれと首を振った。
「そうだったんですね」
昨日見た境界図では、時間を進める魔法を掛けたときに銅色に輝く世界が自分の世界に接したので、接することが確定した世界が銅色なのだと思っていた。
「ちなみに、二回以上と三回以上で表示される色は変わりますか? それから、この色の設定はあとから自分の好きな色に変えることはできますか?」
私は思いついたことを尋ねてみた。
「ふむ。良い着眼点ですね。私が使っているこの設定では、二回、三回で世界の色が銅色から変わることはありません。そして、色の設定は変えることも可能です。私は特に不便を感じたことがなかったので、この魔法を習った時のそのままの設定で使っているのですが、境界図を呼び出す呪文を唱えるときに、反映したい設定を組み込めば自分好みの境界図にすることが出来ますよ」
ヒガンはテーブルに魔法式と呪文を書き出した。そして、色の設定の部分を説明してくれた。
「境界図を呼び出す呪文に慣れて来たら、自分に合った境界図に整えていくのも良いでしょう」
ヒガンは言った。複数回接する世界があるのならば、一回、二回と数字が表示されれば便利だろうと私は思った。それにしても、ヒガンは誰にこの境界図の魔法を習ったのだろうか。この境界図は感覚的なものに寄りすぎている気がする。そんなことを考えていると、ヒガンは口を開いた。
「あ、それと世界が接した回数を数字で表すのは無意味ですよ。生まれたての若い世界同士なら意味があるかもしれませんが、多すぎる数字はかえって意味を成さなくなります」
考えを読まれていたようである。私は動揺が声にならないように息を止めしっかり口を閉じた。
三日目は、書庫にこもり、私は王国魔術師団の男が書いた本を見ながら、魔法式を書き出し、男の魔法が有効かどうかの検証と、もし、この魔法を破るとしたらどういう呪文構成にしたらいいかを考えた。あの男に仕返しをするつもりは全くないが、これは憂さ晴らしと自己満足である。魔法を作り出す時は、まずは魔法式を構築することが基本だ。魔法式の構築、呪文の選定、詠唱実験、効果の検証、というように一つの魔法が出来上がるまでには長い道のりがある。簡単な生活魔法だって、先人のこのような苦労によって生み出されてきたのだ。もちろん、正しい手順を踏んだからと言ってうまくいくとは限らない。効果の検証で、想定の効果が得られなければ、また魔法式の構築からやり直しだ。私は、時間いっぱい使って男の魔法の検証をしたが、答えは出なかった。というのも、正しい魔法のように思えるのである。さすがに研究書として出版する程度に洗練されているだけはある。しかし、私の勘が、この魔法は正しい訳がないと言っている。絶対に間違いを見つけたかった。まぁいい。まだ時間はある。この魔法は、私がゆっくりと解体して弱点を見つけてやろう。多分、ヒガンに質問すれば、あっという間に答えをもらえそうだが、これは私の戦いだ。私がこの呪文に自力で勝たなければ意味はないのだ。私が検証をしている間、背後に図書霊がうろついている気配がしたが、私の気迫に押されたのか、声をかけてくることはなかった。少し申し訳ない気分だった。
それからというもの、ヒガンを訪れると、この異世界へ渡るために必要な魔法の練習、すなわち、境界図の呼び出し、図上の言語の読み取り練習、翻訳魔法の練習をした。この中でも、翻訳魔法が難しかった。呪文がやたらに長くて複雑だ。しかし、これが大事な魔法なのである。
「異世界で言葉が通じなかったら、意思疎通に困りますからね。この魔法を習得すると、異世界で言葉の違いに困ることはありませんよ。同じ世界で、言語が異なる地域に行ったときにもこの魔法が使えますので、覚えていて損はありません」
ヒガンは、そう言って私に徹底的にこの呪文を練習させた。結局できるようになるまでに半年くらいはかかった。そして、境界図・図上言語・翻訳魔法が完璧になると、今度は、異世界に行くための門を開く魔法の練習に入った。ヒガンはいつもの薄緑色に光る文字で魔法式を描き、私に説明をした。そして、その後に呪文を描き、発音を私に教えた。異世界の言語を翻訳する魔法と比べたら、驚くほどに単純で発音しやすい呪文だった。
「これは、実際に世界と世界が接している時に唱えないと無効な呪文です。ですので、呪文がうまくいったかどうかは、異世界に行く時に試してみるしかありません。そして、絶対に境界図なくして唱えてはいけない呪文です。練習のためにこの呪文を唱えているつもりでも、世界と世界が接していれば、異世界への門が開いてしまします。この呪文は、発音がしやすく成功率が高いですからね。うっかり、異世界への門を開き、吸い込まれ、それっきり戻ってこなかった魔法使いの事例は実は少なくないのです。そして、魔法使い本人が異世界にいくならまだいいですが、何の関係もない人間が誤って門に吸い込まれる事故もあります。あってはならない事故です。この魔法は、簡単に他者の人生を狂わすことが出来る魔法の一つですから、取り扱いは慎重にしなければなりません」
確かに危険だ。私はヒガンの言葉を肝に銘じた。
私がヒガンに師事して一年が経過した頃合いで、ついにその時が来た。
「子栗鼠さん。見てください」
ヒガンは嬉しそうに境界図を私に見せた。
「世界が接触します。明日から丸一日です。明日、私と一緒に異世界に行ってみましょう」
「本当ですね。行きましょう」
私は興奮気味に答えた。今夜は興奮と緊張で眠れないかもしれない。
「この世界を分析してみると、安全な世界であることがわかります」
「境界図の分析ですか? そんなことまで出来るんですね?」
私が尋ねると、ヒガンはうなずいた。
「そうですね。簡単に説明しましょう」
ヒガンは、テーブルの表面に魔法式を描き、私に説明した。
「この魔法式は、世界を分析する式です。呪文にするとこうなります」
ヒガンは呪文を唱えてみせた。呪文自体はあまり難しくなさそうだ。
「この呪文を唱えることで、境界図に表示されている世界を分析することができます。分析といっても大まかな情報を知るものです。人間が住んでいる世界なのか、魔法はあるのか等、まぁ、細かい説明は今度にしましょう。今日は、異世界への門を開く呪文の書き取り練習と、翻訳魔法の復習を行いましょう」
私は呪文の書き取り練習と翻訳魔法の復習を帰る直前まで行った。そして、明日に備えて休むようにと、気分が落ち着き安眠効果があるお茶をヒガンに持たせられて家に帰った。
次の日の朝、私は目を開けるのと同時に起き上がった。お茶の安眠効果が効いたのか、夢も見ずに眠り、すっきりと目覚めた。心臓がどきどきしている。時計を見るといつもより三十分も早く目覚めていた。私はそわそわしながら身支度を整えた。そして、鏡台の前を行ったり来たりした。自分でヒガンの家に行くことは出来るが、約束の時間にはまだ早すぎる。あまり早く行ってはヒガンも迷惑だろう。すると、くすっと息が漏れたような笑い声がした。はっと鏡台を見るとヒガンが映っていた。
「あなたのことですから、もう用意が出来ているだろうと、早めに迎えに来ましたよ」
ヒガンは私に手を伸ばした。私はさりげなく手の平の汗を服でぬぐってから、ヒガンの手を取った。冷たい水をくぐる感覚の後、私はいつも通りヒガンの家の鏡台前に立っていた。
「では早速異世界へ行きたいと思いますが、念のため復習しましょう」
ヒガンは私に境界図を呼び出させた。金色に染められた私たちの世界は銅色に染められた他の世界に接していた。つまり、今私たちの世界に接しているのは、以前にも接したことがある世界ということになる。ヒガンは私に翻訳の魔法を唱えさせた。翻訳の魔法は、実際に未知の言語に触れた後に唱えることで、効果を発揮する。なので、ここで唱えても意味はない。ヒガンは私の呪文が正確であるかの確認をしたのだ。次にヒガンは私に異世界の門を開く呪文を紙に書かせた。
「完璧ですね。では、今度は実際に呪文を唱えてみましょう」
「門を開くのに、外に出なくて大丈夫ですか?」
私が心配になって尋ねると、ヒガンは頷いた。
「大丈夫ですよ。門を開く瞬間に衝撃波が出ることはありませんから、物が壊れる心配はありません。屋内でも安全に使える呪文です」
「わかりました」
私は緊張した。また手の平が汗だくになっている。私は深呼吸をすると、呪文を唱えた。呪文を唱え終わると、しんと辺りが静まり返った。失敗だろうか。私はヒガンの顔を見た。ヒガンは目を輝かせていた。私は、あたりを見回した。景色が歪んでいる。キーンという、耳が痛くなりそうな高い音がし始めた。景色は渦を描いていき、渦の中心が白く輝き始めた。
「見事です。子栗鼠さん。成功ですよ。さぁ!」
ヒガンは私に手を伸ばし、私はその手を取った。ヒガンが私の手を強く握った。ヒガンは私の手を引きながら、白く輝く渦の中心へ向かった。キーンという音がどんどん高く大きくなる。白い光も目を開けるのが辛いくらいのまぶしさだ。私はほとんど目を閉じたような状態でヒガンに手を引かれて歩いた。歩き続けているうちに音は小さくなり、光も収まってきた。
顔に爽やかな風を感じた。私は目を開いた。私たちはススキが靡く原っぱに立っていた。
「ここが異世界ですか?」
私はヒガンに尋ねた。ヒガンの家の中から外に移動しているが、異世界という実感はなかった。
「ええ。そうですよ。少し、歩いてみましょう」
ヒガンは私の前を歩き、私はその後ろについていった。道は緩やかな傾斜になっていた。
「丘の上まで歩いてみましょう」
ヒガンに言われ、私たちは丘の上を目指した。この世界は秋のようだ。爽やかな風は、冬の手前の冷たさを孕んでいた。そして、一面のススキは、穂が開き見ごろを迎えていた。まるで黄金色の雲の上を歩いている気分だ。
「子栗鼠さん、見てください。素晴らしいですよ」
先に丘の上に到着していたヒガンが声を弾ませた。私は、小走りにヒガンの元へ向かった。少し息を切らせながら丘の上に立つと、ヒガンが何を素晴らしいと言っていたのかが分かった。丘からは小さな街が一望できたが、その街の真上に巨大な純白の紙飛行機が飛んでいたのだ。私は息を飲んだ。なんて美しい光景なんだろう。いずれ様々な世界を旅することになる私だが、この紙飛行機の景色は未だに私の心に強く焼き付いていた。
「あれは、魔法ですよね?」
しばらく紙飛行機に見入っていた私は、ようやくヒガンに尋ねた。
「魔法です。あの魔法の手がかりになるものが近くにあるかもしれません。探してみましょう」
ヒガンは、丘を下り始めた。私はまたヒガンの後ろを歩いた。目的のものは、そう遠くないところで見つかった。道を少し外れたところの大きな木の根元に苔むした石碑があった。そこには、魔法の言葉と紙飛行機らしき絵が彫られていた。ヒガンは石碑をじっくりと観察した。
「守りの魔法ですね」
「守り? あの紙飛行機は何かを守っているんですか?」
私は尋ねた。
「ええ、先ほどの街を守っています。天の災いから」
「天から来る災い……」
私は考えた。あれほど巨大な魔法の紙飛行機だ。ただの雨や雷から街を守るものではないのだろう。
「まさか!」
「その通りですよ。子栗鼠さん」
ヒガンは、石碑の文字を指さした。
「さぁ、翻訳の魔法を使ってみましょう」
私はすっかり忘れていた。私は頭の中に一度呪文を思い描くと、慎重に呪文を唱えた。呪文を唱え終えると、ヒガンは、素晴らしい、と言った。
「これで、石碑の文字が読めるはずです」
「星、永久の眠りを欲せば、目覚めの大地、死の床とならん。月日流れて危機迫らば、白き我が盾、空を征く」
私は石碑の文字を読み上げた。その下に呪文のようなものが刻まれていたが、それは読むことができなかった。翻訳の魔法を使っても読めなかったということは、この世界の共通言語ではないか、もしくは、特殊な魔法文字ということだろうか。私がヒガンにそのことを尋ねると、後者だった。
「翻訳魔法は、共通言語でなくても翻訳可能です。この文字は、あの紙飛行機の魔法を完全に発動するための特殊な魔法の文字です」
ヒガンは言った。私はヒガンの言い方に引っ掛かった。つまり、あの魔法はまだ発動途中で、完全な姿ではないのだ。
「ところで、ヒガン様。あれは、紙飛行機ではなく、盾だったんですね」
私は上空の紙飛行機を指差した。きっとあの魔法の正体を知る鍵に違いない。
「……恐らくは"盾"というのは、比喩だと思いますよ。さて、せっかくですので、街にも行ってみましょう」
ヒガンは困ったような表情を浮かべつつ、あっさりと否定した。私の考えすぎなのだろうか。ヒガンがすたすたと歩き始めてしまったので、私は後について行くしかなかった。
私たちは先ほどの丘を越え、街へと下りた。上空に紙飛行機があること以外は普通の街だった。私たちは商店街に向かった。売っているものは、私たちの世界に似ているものもあれば、見たことがないものもあった。ヒガンは私を連れてパン屋に寄った。そこで気になるパンを買って二人で食べた。
「仲が良いですね。姉妹ですか?」
パン屋の外のベンチで並んでパンを食べていると、街の人に声を掛けられた。
「ええ、そんなところです」
ヒガンは穏やかに答えた。
「見ないお顔だが、この街へは観光かい? すごい時に来たものだ」
街の人は、上空の紙飛行機に不安げな視線を送った。この街の人たちは、紙飛行機が街を守る存在だとは気づいていないらしい。
「ええ、観光です。地元を出たときには、まだこの紙飛行機の話は聞いていなかったもので。……ところで、少し質問があるのですが」
ヒガンはベンチから立ち上がると、街の人と話し始めた。人を尋ねているようだ。会話の中からいくつかの名前が聞こえてきた。ヒガンは自分の知り合いについて訊いているようだった。
「いや、知らないな」
街の人は頬を搔きながら答えた。と、不意に周囲の音が遠ざかった。景色がぼやけてよく見えない。私は食べかけのパンを手に持ったまま、金縛りにかかったように動けなかった。一体何が起きたのか。私は目だけを動かし、ヒガンに助けを求めようとしたが、景色はにじんだ絵の具のようで、もはや何が何だかよくわからない有り様だった。私の背後で足音がした。ベンチの周りに生えている草が踏まれる音がはっきりと聞こえた。それは、徐々に私に近づき、真後ろに立った。私の首は固まったまま、正面を向いている。
「久しいですね」
誰かが言った。女性の声だ。私は答えなかった。声が出なかった。私の戸惑いを察したのか、「おや?」と女性の声が言った。
「なるほど。なんとまぁ、分岐したのですね?」
女性の声は驚きを隠していない。
「一体どうやって?」
背後の誰かは動いた。誰かは私の前にやって来た。しかし、その姿は判然とせず、景色に滲むようなぼやけた姿だった。
「あなたのその目は、印! 干渉があった、という訳ですね」
「誰、で、すか!」
やっとの思いで私は声を絞り出した。まるで眠った身体のまま、現実に声を出そうとしている時のように、かすれて発音もままならないような声だった。
「ミヨ」
真っ赤な目が私を見つめていた。私は息を飲んだ。そして、
「役に立てず、すまないね」
にわかに周囲のにぎやかな音と景色が戻ってきた。目の前では、ヒガンと街の人が立ち話をしている。真っ赤な目は消えていた。悪い夢でもみていた気分だ。
「いいえ。こちらも。妙な質問をして申し訳ありませんでした。お気になさらないでください」
ヒガンの口調は穏やかだったが、どこか残念そうだった。ヒガンは再びベンチに腰掛けた。まるで何事もなかった風である。私は今しがたの出来事をヒガンに話そうとしたが、先に口を開いたのはヒガンだった。
「私と同じように異世界へ渡ることが出来る知人たちについて聞いてみましたが、やはり知らないようですね。知人たちは他の名を名乗っていることもありますから、仕方のないことです」
私は愕然とした。ヒガンは、先程私の前に現れた謎の存在に気付いていないのである。こんなことがあり得るのだろうか。もし、あの謎の赤い目の持ち主が、ヒガンを欺いたのだとしたら、それは、ヒガンの上を行く存在ということにならないだろうか。密かに動揺する私をよそにヒガンは話し続ける。
「世界と世界を隔てると時の流れも違いますから、知人達が生きているのかすらわかりません。ただ、その中でもし再会できたのなら、それは幸運というものです。あなたも今日をもって世界を渡る魔法使いとなりました。あなたにもきっと出会いがあることでしょう。うれしい再会もあるはずです。異世界だからと諦めず、一つ一つの出会いを大切にしてください」
「わかりました」
答えてはみたものの、そんな出会いがあるなど、今の私には想像出来なかった。私はさりげなくヒガンの表情を伺ったが、やはり、私に起きた出来事については気が付いていないようだ。私はあの謎の赤い目の持ち主について質問することを諦めた。代わりに違う質問をした。
「ヒガン様、この街の人たちは、あの紙飛行機がどういうものか気づいていないようです。教えて差し上げなくてもいいんでしょうか?」
私は道行く人を見た。多くの人が、何度も不安げに空を見上げていた。その様子を見ていると私まで不安になってくる。
「良いのですよ。この世界のことは、この世界の人たちが何とかするでしょう。あんなにわかりやすいところに、石碑まであるのですよ。これに気づけない魔法使いならば、間抜けも良いところです」
ヒガンは、パンの続きを食べ始めた。ヒガンのいつも通りの様子に、私は心の内の戸惑いをしまい込むことにした。さっきの出来事も現実のものだったか疑わしい。ヒガンが魔法の気配に気付かなかったことが信じられなかった。きっと私は悪い夢をみていたのだろう。ヒガンは静かにパンを食べ進めていた。食べながら知人たちのことを思い返しているのかもしれない。そう思ったので、私はおとなしくパンを食べた。やはり、葡萄のパンに勝るものはないな、と考えながら。