悪役令嬢の座はわたさない‼️
「ご……ごめんなさい」
第二王子イリヤにぶつかった少女は尻餅をついたまま、潤んだ瞳で見上げた。
「30点」
イリヤは赤点を付けた。
「は~ぁ?」
愛らしい少女の口から変な声が零れた。
「うん。色気が足りない」
緑の髪の騎士がボソリと言った。
「オマケに大口開けて品がない」
黄色髪の男が眼鏡をクイッと上げて付け加える。
「目のうるみが足りない」
騎士団長の息子のアルフレッドが細かくチェックする。
「そうね。転ぶ時、スカートをもっと翻して転けなさい。それに完全に下着が丸見えだったわよ。見えるか見えないかのチラリズムに男は萌えるものよ。それに転んだ後大股にならない。オジサン臭い。下品、色気も糞もないわ」
縦ロールの令嬢が更に駄目だしをする。
彼女の名はローズマリー・インウッド。公爵令嬢だ。
「君は、転校生? 演劇部入部希望者? 駄目だよ。ちゃんと入部してからじゃないとテストの順番があるからね。さっきの演技を見ると、ヒロイン希望だね」
大富豪の三男ソーラルはそう言うと後ろに控えている女生徒を呼ぶ。
「副部長、ヒロイン希望者は何人だい?」
ポニーテールの令嬢は鞄からノートを取り出しペラペラと捲る。
「えーと。30名ですわ」
「悪いけど君は最後になるな。悪いリサ彼女の入部手続きをお願いしたい」
「はい。賜りました」
王子の取り巻きの後ろにいた少女が頷く。
三つ編みの茶色の髪と目をした地味な眼鏡少女だ。
制服のリボンの色は二年生を示している。
「ヒロイン希望者? 演劇部入部?」
まだ地面に座り込んでいる少女の腕をがしっと掴み二人の少女が立たせた。
二人ともなかなかの美少女だ。
転んだ少女が霞むほど。
王子の一団は振り返ること無く去って行く。
「あっ……待って……」
少女が後を追おうとするが、二人の少女ががっしり掴んで離さない。
「貴方も去年の演劇部のお芝居を見てファンになったのね」
三つ編みをくるんと輪っかにしてリボンを着けた少女が頷く。
しっかり転校生の腕を掴み後を追う事を許さなかったもう1人の少女も頷き。
「そうそう。わたくしもあのお芝居に夢中になりましたわ。ヒロインもですが。悪役令嬢を演じたローズマリー様の悪役っぷりには痺れました。ですから今年の上演される悪役令嬢その後では主役の悪役令嬢を演じたいと言う希望者は50人もいましてよ。かく言うわたくしも悪役令嬢希望ですの」
ふふふと笑う笑顔はなかなか凄みがある。
「貴女はヒロイン希望ですのね。わたくしの姉は去年ヒロインに抜擢されましたが、わたくしもローズマリー様の演技に惚れ込んでしまいました。今年はローズマリー様は劇には出られないそうで、脚本、音楽、総監督を務められるそうですの。ローズマリー様の演技を見られないのは残念ですが、若い才能にチャンスを与えるって言うお言葉には感動いたしました。それに背景や小道具の制作には騎士科の方に頼まれてアルフレッド様達がたいそう張り切っていられますの」
騎士科のアルフレッド様はたいそう人気がございますでしょう。それにまだ婚約者もいませんしと少女は付け加えた。
「音楽クラブの方達や手芸クラブの方達にも協力をあおいでいますの。去年の評判が良かったので、何人もの卒業生の就職が決まりましたのよ。有難い事ですわ。家督を継ぐ者ばかりではありませんからね。その結果、学園長もローズマリー様に異例の後押しですわ」
「歌と踊りのお芝居はミュージカルと命名されたんですよ」
いつの間にか転校生の回りに人が集まる。
「特に光魔法が使える生徒や水魔法が使える生徒が今年の劇に抜擢されて張り切ってますのよ」
「まさかあのような美しい演出が出来るなんて。わたくし惚惚してため息しか出ませんでした」
どうやら三人ともローズマリーの狂信的信者らしい。
「ローズマリーって悪役令嬢でしょ‼️」
「ええっ♡ それはそれは見事な悪役令嬢でしたわ♡ わたくし達はローズマリー様をお姉さまとお呼びしていますの」
「ところで貴女は転校生ね。貴女のお世話は学園長から頼まれています」
別の少女が語りかけてきた。
何でも編入させるクラスの委員長らしい。
「取り敢えず学園長室に案内しますわ」
アンナはクラス委員に学園長室まで案内された。
二人の少女に拘束されたままだ。
「イリヤ様が案内してくれるはずでは……」
クラス委員のユリアはそれを聞いてクスリと笑った。
「貴女も相当な【虹の聖女と五人の騎士達】のファンなのね。転校生アンナが第二王子イリヤ様とぶつかりそれが縁で学園を案内してもらう。ヒロイン役のルキア様の可愛らしさに目を奪われてしまいました」
「そうそう。あの二人が一目惚れするシーンは感動しました。幻影魔法で花やらシャボン玉が飛び交う所や歌も良かったわ」
「それからみんなで力を合わせて魔竜を倒す所とか。何でもあの邪竜を倒すシーンは、実際ローズマリー様と五人の勇者方が倒した時のシーンの再現だとか」
「邪竜を倒した? 邪竜を倒すのは彼らの息子ではないの?」
「ふふっお芝居と現実をゴッチャにしているんですね。お姉様達が邪竜を倒したのは三年前で聖剣を邪竜を封じた土地に突き刺し浄化したそうです。浄化も終わり完全に安全になったので事の顛末は新聞で報じられました」
少女は昨日の新聞の切り抜きを差し出す。
確かに新聞には邪竜封じの顛末が書かれていた。
「流石お姉様ですわ♡ 完璧レディ♡ お姉様が王妃になる日が待ち遠しいですわ♡」
「そうですわね」
少女達はクスクス笑う。
今度の劇が楽しくてしょうがないようだ。
主人公や悪役令嬢に選ばれるのは誰だろうとお喋りする。
アンナは学園長室に連れていかれ挨拶されるとあっさり保健室に案内された。
冗談じゃないわ‼️
アンナは叫びそうになった。
邪竜が三年前に討伐された‼️
しかも討伐したのはローズマリーと王子と聖騎士団長と魔導師団長と神官長ですって‼️
兵站を用意したのは豪商のビヒルズ家だとか。
なにそれ‼️
聞いてない‼️
邪竜の討伐は三年後よ‼️
アンナと第二王子イリア様とお付きが、ダンジョン巡りをして親睦を深める(逆ハーレム)物語よ‼️
しかも魔竜を倒したのは悪役令嬢ローズマリーとイリア様とオッサンズですって‼️
聖女はローズマリーともっぱらの噂だ‼️
あの女も転生者なんだわ。
目覚めたばかりの邪竜なら聖女が居なくても倒せる。
ただし復活場所と聖剣の在りかは分からないはずだ。
聖剣は王都の地下に封印されている。
地下にレベルアップしに行った時に、偶然ヒロインと皇太子が秘密の部屋を見つける。
聖剣も封印を解くのも王族の者しか扱えない。
ん?
悪役令嬢も王族の血筋ではあったわね。
三代前の当主が王の妹を娶ったはず。
なるほど、悪役令嬢は王族だ。
邪竜を倒した後、聖剣を邪竜が目覚めた大地に刺しておけば、聖剣がその地を浄化してくれる。
アンナが邪竜を倒すのは、邪竜が王都に迫った時だ。
多くの国が荒廃し数多の人々は死ぬ。
アンナは虹の聖女と五人の騎士のストーリーを思い出す。
登校初日に第二王子のイリアにぶつかり保健室にお姫様抱っこで案内された。
はずである。
だが現実は保健室に案内してくれたのは演劇部の少女ふたりとクラス委員長。
しかも保健室にいたのは眼鏡のオバサンだ。
「あれ? たしかライナー先生が保健の先生では?」
「ああ。ライナー先生は去年学会で認められ、今は魔道の塔で研究をしていますよ」
保健の先生はアンナの膝に薬をちょいちょいと塗る。
なめときゃ治る傷ねと呟いて絆創膏をはる。
「じゃライナー先生は……」
「この学園を辞められました」
「そんな……」
アンナの呟きを聞いた演劇部の二人は頷いた。
「私達もライナー先生が辞められて残念です。でも先生は好きな研究が出来るなんて、祝福してあげないと。魔風邪の流行を未然に防いだ功績は素晴らしいですわ。ローズマリー様の口添えで素早く予防が済みましたの。それに今度学園長に挨拶に来られるそうです。その時に遠くからでもお見掛けする事が出来ますわ」
「えっ‼️ ライナー先生が来られるの?」
「はい。結婚のご報告に奥様と来られるそうです」
「結婚‼️ 奥様‼️ えっええ~‼️」
「本当にビックリですわ。ライナー先生を狙っていた生徒は多かったんですよ。みんな泣きわめいていましたわ。お相手は幼馴染みの方だとか」
「それじゃ……私の指導は……」
ライナーは隠れキャラで彼を推すファンも多い。
二周目に解禁される。
もう1人の隠しキャラと同じく、なかなか好感度を上げるのが難しいキャラだ。
「大丈夫よ。私も癒し系の魔法が使えるから、私が教える事になっているの。よろしくね。私はマリンナ・ヤハウエよ」
保健の先生はアンナの手を握りブンブンふった。
ハンサムな優良物件から子持ちのオバサンに代わった瞬間である。
その後委員長にクラスに案内された。
クラスの皆は笑顔で転入生を迎えた。
「今朝の事見ていたわ。貴方もヒロイン志望なのね」
1人の美少女が演劇部の入部届けを差し出す。
「私はミランダ・シュクリニアルよろしくね。イリヤ様が審査員なんて初めて聞いた時は余りの事に心臓が飛び出しそうだったわ。私達下々でも上級貴族が演技指導してくださるなんて。きっと後の人生では無いでしょうね」
「演技指導?」
アンナの顔が輝く。
イリヤと五人の攻略対象に近付くチャンスだ。
「はい。これ台本」
「台本?」
アンナは台本を捲る。
「去年の台本よ。私はもう覚えたから貴女に譲るわ。私25番だから審査はもう済んだし」
アンナの手が止まる。
「25番?」
「ええ。来週26番からのオーディションになるわね」
アンナは台本を見る、30人の人間が第二王子に芝居とはいえ愛を囁いた‼️
いやいや‼
大丈夫だ。真のヒロインは私なのだから。
真実の愛のはずだ。
付け焼き刃の奴に負ける訳はない。
だってヒロイン補正が付いているはずよ。
しかし……
渡された台本は虹の聖女と5人の騎士のセリフそのものだった。
セリフはすべて覚えている。
言うのは簡単だったが……
~~~*~~~*~~~*~~~
「ローズマリーめ‼ 悪役令嬢のくせになに聖女ぶっているのよ‼ 七色の聖女は私よ!!」
ボスボスとアンナは枕を殴る。
あれから何度か第二王子に近づこうとしたが、クラスの皆が邪魔をした。
特に演劇部の連中が、一緒に発声練習やら演技指導やらを買って出てくれてアンナを離さないのだ。
トイレの窓から逃げて王太子を探したが、彼の周りは演劇部の連中がダンスの練習をしていた。
自分もダンスをする振りをしてイリヤに近づこうとしたが。
近づけない上に直ぐにクラスの連中に捕まる。
平民クラスはやけに対応に慣れていた。
実は昔から暴走する奴が何人かいて、クラスのマイナス点になるのだ。
平素からクラスの対抗戦は行われている。
最下位になると放課後トイレ掃除をさせられるのだ。
部活の後のトイレ掃除はきついものがある。
下手をすると夕食の時間に間に合わない。
下級生に命じる奴もいるがバレたらまた減点を食らう。
ので皆真面目に便所掃除をしている。
【虹の聖女と5人の騎士】のストーリーでは、邪竜を倒した一行は王都に帰る。
第二王子のイリヤは、兄であるサガス皇太子が魔物と戦い亡くなった為皇太子となり。
王都で魔竜を倒した祝賀会が行われる。
その時、悪役令嬢のローズマリーはアンナに刃を向け殺そうとするのだが5人の騎士に阻まれる。
ローズマリーはイリヤとの婚約を解消されて修道院送りにされるが、その途中崖崩れに遭い死ぬ。
物語はイリアとアンナの結婚式で終わる。
「今に見ていなさい!! 絶対物語の強制力でイリヤを私の物にして見せる!!」
アンナは気付かない。
ローズマリー達が邪竜を倒した時点で物語の強制力が、消えている事に。
その夜、アンナの高笑いが女子寮に響き渡った。
アンナが寮母に説教食らったのは数分後の事である。
数日後の放課後、公会堂で26番からのテストが行われた。
アンナは息を吞む。
皆、上手いのだ。
手の上げ下ろしセリフの合間において、隅々まで丁寧で作り込まれている。
ちょっとした指先に至るまでヒロインの感情が現れている。
「31番どうぞ」
「よろしくお願いします」
アンナは前に出る。
ちらりとイリヤを見る。
イリヤはローズマリーと話していたが直ぐにアンナの側に行く。
アンナは心を込めてイリヤに告白する。
「貴方の事をずっと前から好きでした。でも……貴方には王が決めた婚約者が……お可哀想なイリヤ様。国の為に彼女と政略結婚しなくてはならないなんて……」
物語りの強制力が働いてイリヤは私に惚れる。
アンナは確信した。
そうよ‼
強制力よ‼
あの悪役令嬢に負けるはずはないわ‼
パン‼
ローズマリーが手を叩いた。
「はい。お疲れ様です。これで全てのテストが終わりました。配役は後日発表します」
ローズマリーは何かを紙に書きこんでいた。
前の席で審査をしていた四人の勇者の息子達も立ち上がる。皆ゾロゾロと退出していく。
「やっぱり悪役令嬢はサリア殿か……」
サリアはシリス・アリアンデルの婚約者だ。
シリスは魔道師長の息子で彼も魔法が得意だ。
「うん。彼女の演技は群を抜いていたからね」
カアス・リッケルトが黄色い髪をかきあげる。
彼は首相の息子だ。
「やっぱり悪役令嬢は彼女で決まりだな」
ソーラル・ビヒルズは衣装担当だ。
彼の父は大富豪で、そのコネを使って衣装の生地を安く仕入れるつもりだ。
「それで聖女役は誰にします?」
「一番可愛い♡ 俺のフィアンセかな」
ソーラルが自分の婚約者を押した。
「はぁ‼️ 何寝言言ってんだ‼️」
アルフレッドが声をあげる。
「一番可愛いのは俺のフィアンセだ‼️」
カアスが反論する。
他の二人も自分のフィアンセが可愛いと言い合う。
それを聞いていた女子生徒から「お熱いことで」とやっかみの悲鳴が上がる。
「二人ともこれは演技の問題で誰のフィアンセが一番可愛いって話じゃないわ」
ローズマリーが釘を刺す。
最も一番美人は俺のフィアンセだがなと第二王子のイリヤは付け加える。
「もしかして……私……眼中に無い?」
審査員である彼らの後ろ姿を呆然と見つめるアンナであった。
数日後役の発表があったが、アンナの名前は何処にも無かった。
*************
「まあ残念だったわね。台詞も覚えていたけどやっぱり基本発声が弱かったわ」
「うん。それに動きも雑だわ。皆ばっちり基本をやってきたから、転校してきた貴女では無理だったのよ」
優しいクラスメート達が慰めるが……
ゴリゴリとアンナのプライドが削られる。
「それよりも騎士様の事聞きまして?」
「アルフレッド様ね。どうやらアネモネ子爵令嬢と正式に婚約されたとか。羨ましいですわ」
「これでイリヤ様の側近皆様に婚約者が決まりましたね」
「ああ……出来ればわたくしも、卒業までに婚約者を見付けたいですわ」
アンナはショックを受けた。
なに?
それおかしい。
だって……
【虹色の聖女と五人の騎士】では、婚約者がいるのは第二王子のイリヤだけだったはずだ。
他の四人と隠れキャラの先生には婚約者はいなかった。
アンナは思い出さない。
アンナが学園に入る前に魔風邪が流行り攻略キャラの婚約者が亡くなっていたことに。
しかしローズマリーとブライアン先生の働きにより魔風邪は防がれ、攻略キャラの婚約者は生きていることに。
そして、アンナは気付かない。
ここが現実だと言うことを……
普通なら高位貴族には、幼い時から婚約者がいる。
まして学園に入ってから婚約者が出来た騎士の方が異例だと言うことを……
あの女は間違いなく転生者だ。
今夜文句言ってやる。
その夜アンナは実行した。
******************
「あんた転生者でしょう‼️」
ローズマリーの寮の窓の近くの木にしがみついてアンナは叫んだ。
パタンと窓が開きローズマリーが顔を出した。
窓辺の近くの木に猿の様にへばりついているアンナを見つめる。
「ええ。そうよ」
ローズマリーは臆する事無く答えた。
「私が転生した後にファンブックが出たのね。でなければ邪竜が眠っている場所や聖剣の場なんか分からないはずよ」
「近からず遠からずかしら」
ローズマリーはクスリと笑う。
「あの【虹の聖女と五人の騎士】のシナリオライターは三人いたのよ。私はその中の一人でね。前世の名前は遠藤はるかって名前だった」
その名前は知っている。
かなり有名な売れっ子シナリオライターだ。
「ずるい‼️ ずるい‼️ ずるい‼️ それでストーリーを書き替えたのね‼️」
「私は貴女の事が好きだった」
「はぁ? 何を言ってるのよ‼️ 私が好きなら何で私の邪魔をするのよ‼️」
「だってアンナは10年後には死んじゃうのよ」
ローズマリーは悲しげに笑う。
「なっ……何を言うのよ‼️ 本来なら私はイリヤとラブラブになって邪竜を倒し王妃になるのよ‼️」
「【虹の聖女と五人の騎士2】のストーリーは貴女の娘が主人公なの。邪竜を倒したアンナは皇太子と結婚し女の子を産むわ。けど……まだまだ各地に魔物がいて、討伐の為に聖女の貴女は各国を巡る。そして過労死する」
「なんですって‼️」
「聖女なんてブラックもいいところよ」
「過労死なんてブラックすぎる‼️」
「聖女を過労死させたとして常々我が国を狙っていた隣のトスーナ帝国に攻め滅ぼされ王位を継いでいたイリヤ様は殺される。貴女の娘は乳母の機転により難民に紛れて隣の国に逃れた。隣の国ファリー聖国から貴女の娘のゲームはスタートする。初めの選択肢は二つあって【復讐の王女編】と【ファリーの聖女編】よ。【復讐の王女編】は国を滅ぼしたトスーナの学園から始まり聖女の魅了を使って高位貴族を煽りトスーナ王家を滅ぼす話よ。【ファリーの聖女編】は復讐を諦めたヒロインが、ファリーの神聖学園に入学する話」
「えっなにそれ、私の話より面白そうなんだけど……」
「そうね。大ヒットしたわ。貴女は【虹の聖女と五人の騎士2】が出る前に亡くなっているのよ」
「私は……私は……自分が死んだ状況を覚えて無い。虐めにあって、引きこもりでゲームやネット三昧だった。【虹の聖女と五人の騎士】が発売されてから何度も何度もゲームをしてすべてのスチルを回収して。ああ……思い出した。2を買いに行く途中階段から落ちたんだ。多分そこで……わたし死んだんだ……」
気の毒そうにローズマリーはアンナを見た。
ここに居るって言う事は、死んだと言う事だ。
「いろいろ試して分かった事があるの」
「分かったこと?」
「私が弄れるのは、私が書いた所だけだと言うこと」
「はっ? どういう事?」
「貴女が死ぬ話は他のシナリオライターの文谷尚さんが書いた所だから私は書き替えれない。だから……私は貴女が死なない様に私が書いた所を弄って、物語を変えた。もう物語に振り回されなくて良いのよ。貴女は自由よ。10年後死ぬ事もないし。私の死に罪悪感を感じなくて良いのよ」
「悪女ローズマリーへの罪悪感?」
「私の死は事故じゃない。イリヤ達が仕組んだ事よ。それを知って貴女はがむしゃらに働いた。神や私に許しを求めるように……」
「それは裏設定?」
「【虹の聖女と五人の騎士2】で貴女の娘が貴女の日記を見つけて真実を知るの。なぜ国が滅ぼされたのか。私の血筋にトスーナの王族の血筋も混じっているから。本当は私の死が切っ掛けよ。その所は花宮雫さんが書いた所だから弄れないの。貴女が過労死せず、なおかつ戦争を回避するには早急にストーリーを書き替える必要があった」
「つまりあんたが邪竜を退治して後の被害を無かった事にした?」
「邪竜が早めに死ねば、魔物が各国を滅ぼす事はない。それによって魔物退治で貴女が過労死せずにすむし、この国が滅びる事もない。絶対多数の絶対幸福よ」
ローズマリーはどや顔をする。
「わたし以外ハッピーエンドって訳ね‼️」
「あら。貴女も過労死せずに済むわ。それに貴女訓練をサボっているわね。本来ならこの時期レベル30以上ないといけないはずよ。バッドエンド確実じゃない。ゲームと違ってやり直しが利かないのよ」
アンナは視線を逸らす。
確かに浮かれて訓練をサボった。
本当なら男爵家に引き取られる前に村の教会で怪我人の面倒を見てレベルアップをしていたはずだ。
「あんた気が短いんでしょう」
忌々しげにアンナは悪役令嬢を睨み付ける。
「そうよ。変身ヒーローが変身している最中に攻撃するタイプよ。ちんたらちんたらして世界の半分が滅びたらどうするの。チャッチャと邪竜倒した方が効率が良いわ」
無駄は省くべきと笑う。
「と言う訳で貴方はあなたの人生を生きなさい。聖女なんて特大の呪いだわ。本当にチャッチャと終わらせておいて良かった。怠け者の聖女じゃこの世界が滅びてしまってたわ」
猿の様に木にしがみついているアンナを見てローズマリーはため息をついた。
「本当に我が娘の様にあなたのキャラ作りには心血を注いだのよ。なのにどうしてこうなったのかしら?」
魂の問題かしら?
ローズマリーは血の涙を流さんばかりにアンナを見て再び深い深いため息をついた。
「あなたそろそろ木から降りた方が良くてよ」
ローズマリーは庭を指し示した。
寮の先生が兵士を連れてやって来た。
「やべー」
アンナはするすると木から降りたが。
当然捕まり反省部屋に一週間ほうりこまれた。
その後。
アンナは実家に呼び戻され(学校や生徒の親から抗議が来た)辺境の修道院に放り込まれた。
そこは割りと緩めの所で、修道女を辞めて結婚する事が出来る。アンナは門番と結婚し三人の子供に恵まれ賑かに暮らした。
ローズマリーもイリヤと結婚し公爵家の領地を二人で良く納め。幸せな晩年だったと言われている。
~ fin ~
***********************
2023/11/3 『小説家になろう』 どんC
***********************
~ 登場人物紹介 ~
★ローズマリー・インウッド公爵令嬢(17才)
本来は悪役令嬢。しかし前世【虹の聖女と五人の騎士】の作者だった。ローズマリーは聖女アンナが死なない様に邪竜を倒す。気短で、ヒーローが変身している最中に攻撃するタイプ。アンナのキャラを丁寧に創った為、我が子の様に愛していたが、アンナの中身が転生者であれな性格だったから、少しガッカリしている。絶対多数の絶対幸福を目指している。
★イリヤ・ラトビア(18才)
第二王子。ローズマリーの婚約者。ローズマリーに性格矯正されました。赤い髪で虹の騎士の攻略対象の一人。
ゲームではローズマリーとは仲が悪かったし皇太子の兄が魔物退治で亡くなり皇太子になる。
★ カアス・リッケルト(17才)
首相の第3子。黄色い髪で虹の騎士の一人。攻略対象の一人。
★ アルフレッド・イーサン(18才)
騎士団長の息子。緑の髪。攻略対象の一人。
乱暴者だがローズマリーの矯正により立派な騎士になっている。婚約者は学園に入ってから出来る。
★ シリス・アリアンデル(17才)
魔導師団長の息子。青い髪で虹の騎士の一人。
攻略対象の一人。婚約者にベタボレ。
★ ライナー・ヴインハイム(26才)
元保健の先生。紺色の髪。隠しキャラ。ゲームでは攻略対象の好感度を上げないと落とせない。【虹の聖女と五人の騎士】では、魔風邪で幼馴染みを喪うが、ローズマリーによって魔風邪の流行を防ぐ。それによって幼馴染みは亡くならず、結婚する事が出来た。
★ ソーラル・ビヒルズ(16才)
大富豪の息子。橙色の髪。攻略対象の一人。
甘えん坊キャラ。
★ フォドリック・トスーナ(25才)
トスーナ帝国の第三王子。紫の髪。
ローズマリーの幼馴染み。隠しキャラ。
ローズマリーが皇太子に殺された事を知り、私怨で国を滅ぼす。ラスボス。最後の攻略対象だが、難攻不落の渾名がある。虹の騎士の一人。
* 虹の色は日本では七色だが、国によっては五色の所がある。この物語では虹の色を五色とし、隠しキャラに二色が追加されている。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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