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たんそくおじさん  作者: とりどうふ
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第一話

 毎月最初の水曜日は、最低最悪の日だった_恐る恐る会社に行き、朝から営業会議という役員達からの質問攻めに耐え抜き、酒を煽って忘れる、そんな日だった。


 この日だけは靴を綺麗に磨き、くたびれたスーツのしわを伸ばし、もみあげか髭かも分からない毛はとりあえず全て綺麗に剃り上げなくてはいけなかった。パートを含め14人の部下達にはデスク周りの掃除をさせ、身だしなみに気を使い、真面目な姿を見せるよう前日から指示を出しておいた。そしてもし偉い人に話しかけられたら、「おっしゃる通りでございます」「そちらは杉本課長よりご説明いたします」のどちらかで答えるよう言い聞かせていた。


 ほんとうにくたくたになる時間だった。俺は営業課長として今月の営業成績と目標未達の理由を役員達に説明しなくてはならなかった。


けれども今月も、先月と同じように、ようやく就業時間に近づいていた。俺はこの日だけは絶対に定時で上がると決めている。


「お疲れ、お先に失礼するよ」

部下達に一声かけてフロアを後にする。同タイミングでパートのくま子さんとよう子さんも仕事を終え、エレベーターホールに入ってくる。俺はこの二人とエレベーターで乗り合わせるのが何となく嫌で、その先にあるトイレに一度寄ることにした。

 ちなみにくま子さんは俺がこっそりつけているあだ名で、まあなんだ、少し大きめだな。よう子さんは本名だが脳内で妖狐と変換するようにしている。

(俺は知っている、裏で万年課長と馬鹿にされているのを)


 帰宅途中、最寄りのコンビニで缶ビールとつまみを買っていく。今日は発泡酒ではなく本物にしよう。

最近は夕飯を軽くしているにも関わらず、腹回りが笑えないことになってきた。

(そろそろ健康診断も近いしダイエットしないとな)

そんなことをぼんやり考えながら歩いていると、意識の遠くで人の叫び声が聞こえたような気がした。

「・・・ん?」

誰かの危ないという大声に顔を上げる頃には目の前に眩しい光が点滅しており、そこで意識が途切れた。


***


俺はふと、自分を呼ぶ声で目が覚めた。どうやら屋敷の脇にある池の前でぼーっとしていたらしい。


「おいジョリィ、院長先生が呼んでるぞ、早く行った方がいい」

右を見ると、いかにもクソガキという言葉が似合いそうな少年がニヤニヤしながら近づいて来た。


(いや、ここはどこだ?チータラのカロリーを調べようとした後どうなった?)


とにかく頭の中は混乱していて、一旦落ち着こうと試みるのだが、少年が実に騒がしい。

こちらの袖をぐいぐい引っ張ってくるので、半ば仕方なく従うことにした。


一瞬池の中に、俺を覗き返すお下げの女の子が見えた。

(お、けっこう可愛い子だな・・・)


混乱したまま院長室というところに向かっていたが、歩く内に段々と状況がつかめてきた。

というのも、俺の中になぜかジョリィという女の子の記憶があるからだ。

彼女の記憶によると、今俺の腕を引っ張っているのはマイクといって、彼女の弟分に当たるらしい。

ちょっと袖がほつれてきた。これじゃあノースリーブになっちゃう。


裏口の玄関から体を滑り込ませ、暗い廊下を進んでいると、正面玄関に誰か人が立っていた。その人はすぐに玄関前の車に乗り、行ってしまったけれど、ヘッドライトに照らされたシルエットは、ずんぐりむっくりとした胴体に短い手足、そうまるで俺のような・・・

 不愉快そうに眉をしかめていた事に気が付いた俺は、フッと鼻で笑った。俺はあそこまで酷くない、中年太りとはいっても多少は食事も気をつけていたし通勤でも歩いていた。俺はどんな時でもポジティブ思考なんだ。


「遅い!早く座りなさいジョリィ」

院長先生らしき人が厳しく俺に言うので適当なところに腰掛ける。何だろう、経理課のお局を思い出すな・・・

「今お帰りになった紳士を見ましたか」

「あっ・・・はい」

思い出すとにやけてしまいそうなので、努めて真顔を保つ。こうゆうのは得意だ。


「あの紳士はこの孤児院に莫大な寄付をしてくださっています。そんな方からある提案を受けています。とても有難く、名誉あることです。貴方を大学に行かせる支援をしたいというのです。どうも貴方の書いた孤児院の記録報告書が気に入ったそうで」


(うーーーーんと・・・)

ジョリィの記憶をしばらく辿ってみると、この子はどうも、誰も読まないであろう記録帳を律儀に毎日書いていたらしい。偉すぎる。


「聞いていますかジョリィ。これは非常に稀有なことです。学費に加えおこずかいまでくれると言っているのです。貴方は毎日感謝しながら生きなければなりません。」

ふむ、俺は知っている。これは奨学金というやつだろう。院長の口ぶり的には給付型のようだな。


「なお支援にあたって2つ条件が出ています。一つ目は紳士の名を伏せること。貴方には明かさないよう念を押されています。二つ目が、毎月その方宛に月の報告書を送ることです。家族に送るような手紙ではありません。きちんと上の方に報告する体裁を保つように」


なんじゃそりゃ。少女になってまで俺は仕事をしなきゃならんのか。

だがまあ今までもずっと同じようなことをやってきた。そう難しくはないだろう。


そうしてわからないまま、俺の大学デビューが決まった。


ここまで読んでくれてありがとうございます!ぜひ応援よろしくお願いします。

***

原作ファンとか偉い人に怒られたりしないかな、と怯えています。

(小説家になろうの二次創作のガイドラインを確認し、著作権の保護期間を過ぎていることから問題がないと判断して投稿していますが、もし私の認識出来ていない範囲で問題がある場合にはご指摘ください。)

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