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悪魔と呼ばれた男(仮)  作者: 宮前タツアキ
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さらばナタジャラム

 ……ヴィードは、いい奴だと思う。戦いや物の考え方の相性も、ダンジョンで戦いながら近付けて来た。だからこそ、彼には嘘はつきたくないし、できる限りの誠意で答えたいと思う。


「済まない、ヴィード。俺は誰かに仕える気はないんだ。自分にとって、どうしても必要なモノを探している旅の途中なんだよ……」

「……断られるような気はしていたよ。しかし、探し物が何かは知らないけど、僕に仕えながら王国の情報機関で探す。その方がずっと効率的なはずじゃないか?」


 理性的な正論だった。しかし、それが通せない場合もあるんだよ。


「俺の探し物に……他者ひとの手を借りるわけにはいかないんだ。……上手い説明が思いつかないが、そういうものだと思って諦めてくれないかな?」


 探しているのは帰還の手段。それを他人に見つけてもらったとして「やあ、ありがとう。では、サラバ!」はないだろうとアノニム――トモヤは思う。それは、子供っぽいと言われるかも知れないが、彼の公正観に反するのだった。

 ヴィードは顔を伏せながら首を振って


「残念……残念だ……ああ、もう! そんな事言って、どこかに仕えたりしてたら、嫌みの一つも言ってやるからね!」


一気にまくし立てるとボトルを掴む。


「空けちゃおう。栓を抜いたら気が抜けちゃうだけだし」

「了解、このハムも旨いな」

「おう、僕も食うぞ。やけ食いだ」


 そして二人は高級店にあるまじきバカ食い、バカ飲みをして店を出た。店員の愛想笑いが冷たかったが、今さらである。


 ◇


 翌日、ヴィードとロザリーは宿を出た。ナタジャラムを立つという。

 店の前に着けられた幌馬車には、旅装姿のテルマが。ロザリーにスカウトされて、一も二もなく承諾したに違いない。


「……ええっ! アノニムさんは来られないんですか?!」


 当然、一緒に来るものだと思っていたらしい、その言葉に、少々胸が痛んだが、ヴィードとロザリーがやんわりとなだめてくれたのが、地味にありがたかった。


「グレイビルに来た時には是非訪ねてきてくれ……君の求めるものに幸運を」

「アノニムさん、絶対、一緒に来た方がいいのにっ」

「テルマ……今度会う時には、今ほど気楽に接する事は出来ないかも知れない。でもそれは、私たち自身が今ほど自由ではないと言う事なの。先に詫びておくわ。そしてそうであっても、再び会う事を願います」


 そうロザリーが挨拶を残すと、ヴィードと共にマスクを外した。集まりかけていた群衆からどよめきがもれる。

 そして美貌の笑顔を惜しみなく辺りに撒きながら、三人の馬車は通りをたどっていった。ちょっとしたパレードである。


「……行くか」


 三人を見送った後、アノニムも、滞在し続ける理由はなかった。宿を引き払い、ゆっくり歩いて外壁の門まで向かう。


「アノニムさん!」


 思いがけず声をかけられ、見れば従者一人を連れただけのゼインズ神官長の姿が。


「失礼、ゼインズ神官長。ご挨拶なしに出立するところでした」

「いえいえ、そんな気を使うような仲じゃないですよ、私たちは。しかし……」


 ゼインズの表情が、若干シリアスなものに変わる。


「やはり一人で行かれますか……」

「……はい」


 その理由の一部ではあっても、理解している『転生者』である。それ以上言葉を連ねる事はしない。

 ただ、おどけた口調で付け加えた。


「旅に疲れたらいつでもいらしてください。検証して頂きたい神器をそろえて、お待ちしておりますぞ?」

「それはまっぴらゴメンです!」


 門を出て、折れ曲がった街道をしばらく行くと、ナタジャラムは神殿の尖塔以外、もう見えなくなった。

 軽く吐息をつき怪傑○ロマスクを外すと、自分がアノニムという役回りから外れて、名無しの存在になったかのような思いに捕らわれる。


(しっかりしろ。俺は谷地智也。必ず元の世界に戻って、平穏な生活を取り戻す……!)


 ふと、黄金の懐中時計作動時に見た、過去の思い出が脳裏をよぎった。

 あれはまだ小学校に入ったばかりの頃、妹の千秋が捨て猫を拾ってきた。飼いたいとダダをこねて、それからどうなったんだか。奇妙な事に猫の姿が、トリミングされたように空白で思い出せない。恐らくこれも、あの神器が求めた「高い代償」のうちなのだろう。

 自分で選んだ事とは言え、あのダンジョンを訪れて、何が残ったものやら。やたらとコスパの悪いカードくらいのものか?


「フ……しかし……いいパーティーだったじゃないか、あれは……」


 そんな独り言をつぶやいて、トモヤは、あてどない旅路に歩を進めるのだった。


 ◇

この章終り。

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