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悪魔と呼ばれた男(仮)  作者: 宮前タツアキ
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二十階層突破


「グゴオオオォォォォ!」

「いい加減! 沈めっ! しつっこいっ!」

「ヴィード、一旦退いて! 形態変化よ!」


 灰白色の粘糸に捕らわれて、ヴィードの大剣で攻撃されていた巨獣ベヒモスが、咆哮と共に全身の鱗を剥がして、その姿を変えていく。ゲーム的な言い方をすれば、残り体力が一定割合を切ると始まる強化イベントと言ったところか。


「ブオオオオオオオオ!!」


 鱗の下から現れた皮膚は筋組織そのもののようで、加えて人が触れられないほどの高熱を発していた。


「しつこいどころか、暑苦しいわ!」

「デバフ、かけなおします!」

「俺が的になる! 出来たらもう一回拘束してみるけど、期待すんな!」

「了解! ムリしないでね!」


 言い交わして、アノニムは走り出した。猛り狂う巨獣の鼻面に、自分自身をエサとするように投げ出す。鞭角獣の杖が鞭化し、魔力を帯びて巨獣の眼を痛打する。


「ギシャアアアアアアア!!」

「悪あがきだぜ、断末魔だろうに!」


 背筋がひりつくようなスリルと同時に、背後の仲間たちがやるべき事をやっているはずだという静かな信頼感も同時に感じていた。

 勝てる――俺たちは、こいつに勝つ!!


 ◇


 地上は、雪が降っていた。もう、こちらの暦でも年の暮れである。

 ナタジャラムの冒険者ギルドは異様な熱気に包まれていた。いつもは業務で誰かしら貼りついているはずのカウンター前が、まるでステージのように広く開けられている。そして、二階のギルド長室から、マスクを付けた威丈夫を先頭に四人の若者が降りてくると、口笛と拍手があちこちから上がった。


「お、何だ? パーティーでも始まるのかい?」

「とぼけんのはナシだぜ『到達者』!」

「なあ、見せてくれよ、二十階層の証の品を!」


 困ったなと言った顔で仲間を見回したヴィードだったが、周りの冒険者を突き動かしているのが、ほぼ純粋な探索者の憧れと感じ、軽くうなずき合って異空嚢マジックバッグから『それ』をとりだした。

 見た事もない輝きを放つ魔石。しかも巨漢のヴィードの手のひらに余る大きさである。


「二十階層の関門主ボスモンスターがドロップしました。『ルチルクォーツの魔石』と呼ばれているそうです。過去、一度だけ帝国が騎士団を送り込んで、二十階層を攻略した際に命名されたとか」


 ロザリーの澄んだ声が響き渡り、ホールに集まっていた冒険者たちは半ば陶然となって説明に聞き入り、魔石の輝きに魅了された。やがて、万雷の拍手と賞賛がわき起こる。


「すげーじゃねーか! つまり個人レベルの冒険者じゃ、あんたらが最初って事だろう?」

「あーん、ヴィードさま、素敵ー、私で良ければパーティーの先導役勤めますわよぉー?」

「テルマ……すっかり立派になっちまって、見違えたぜ。オレら、見る目が無かったな……」

「このまま行けば、年明けにゃあ、最下層の初制覇かよ? めでてーなー! がはははは!」


 顔見知りから覚えもないギルドメンバー含め、様々な人たちから声をかけられた。なんだかんだで、ナタジャラムに来てから数ヶ月が過ぎた事を実感する。そのまま、なし崩しに大宴会となってしまい、アノニムたちは少なからぬ額をおごらされるはめになってしまった。今さらながら、ギルドのホールが酒場と兼用になっているのは悪習だと思う……


 ◇


 翌日、四人はナーダ神殿の一室を借りて集まっていた。四人集まって議論するには、ヴィードたちが泊まっている宿の部屋では心許ない。神殿ここならば、そろそろ気心も知れてきたし設備的にも(主に防諜が)満足できる場所だった。


「では、昨日の異空嚢はあなたに預けます」

「は、はいっ」

「収めておいた回復アイテムも、後で確認、お願いね?」

「了解ですっ」


 二十階層のボスモンスターを倒して得られたのは、モンスターからのドロップ品だけではない。グレード高めの宝箱も出現しており、中からは良品クラスの異空嚢マジックバッグ、その他の品が出てきた。ヴィード、ロザリー、アノニムの三人は、既に異空嚢を持っていたので、新たにテルマに与えられる事になったのである。

 ちなみに、ヴィードが持つ異空嚢は指輪スタイルの魔道具であり、レアな中でもさらにレアな一品。何でそんな物がこんな所に……というレベル。まあ、アノニムに関しては、自前のスキル、異空庫アイテムボックスをごまかすために持っているダミーに過ぎないわけで、そんな規格外がいるために突っ込まれないで済んでいる、とも言える。

 一緒にパーティーを組んだ頃は、自分に与えられる高位装備に「こ、こんなスゴイものを私が持つなんて……」と気後れしていたテルマだったが、今はもう、無用の謙遜はしない。重要な装備を預けられるということは、それを運用する責任を負う事なのだ。預けられた装備を、どうパーティーのために活かすか。その事に頭を悩ませた方がまだましである。そう悟ったのだ。


「追々、俺が調合した薬も預けてくからね?」

「ちょっと、手当たり次第は止めてくれる? 管理するのにも手間が要るんですからねっ」

「大丈夫です。ロザリーさんが管理してる分に較べたら、全然ですっ」

「テルマが気になったお菓子を買い込んどいてもいいんだぜ? ははは」


 一時、テルマに与えられた新装備を皆が祝福し、和んだ雰囲気だったが、ロザリーが卓上に資料を広げると、一転して緊張に包まれた。


「昨日も言ったけど、ナタジャラムのダンジョンの最深度到達記録は二十一階。当時のホローデン帝国、ドニプロル公が騎士団を送り込んで攻略しようとしたわ。ドニプロルの黄翼騎士団は二十階層の煉獄ベヒモスを討ち取ったところでほぼ全壊した。なんとか補給と療養で陣容を立て直し、二十一階層を攻略したところで、本国にてお家騒動が勃発。これ幸いと、資料だけ残して撤退した、というわけ」

「前から思ってたんだけどさ、最深層が二十五階だって言うのは何でわかったの?」


 相変わらず、ぶっちゃけた質問をするアノニムである。ロザリーは至極まじめに答えた。


「まずは神託ね。ナーダ神殿に伝わる古記録に、そう記されている。そして黄翼騎士団の二十一階層攻略記録。それまでとタイプの異なる『ゴーレムのような』関門主だったとか。そして、倒すと同時に『北門司の資格を得たり』というメッセージが流れて、下層への階段が現れた、とあるわ。つまり」

「「「ああ!」」」


 残り三人、ほぼ同時に閃くモノがあったらしい。声に出した後で「お前が言えよ」「お先にどうぞ」と譲り合う。……結局、テルマが答えた。


「多分ですけど……二十二・二十三・二十四階層で残りの南門司・東門司・西門司の資格を得て、二十五階層の最後の関門主に挑める……そういう事なんじゃないでしょうか」

「そういうことね。神殿もギルドも、ほぼ同じ見方をしているわ。そして恐らくは四つの資格を持ったパーティーにしか最後の部屋には入れない。成果の横取りを許さない仕組みになっていると」


 ……ようやく、迷宮の終わりが具体的なイメージとなって実感されてきた。

 アノニムと、ヴィード・ロザリー、そしてテルマは、ダンジョンに求めるモノは決して同じとは言えないのだが、それぞれにとってその目標は真摯なものである。今一度、自分自身に「理由」を問い、決意を新たにする――


 ◇

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