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悪魔と呼ばれた男(仮)  作者: 宮前タツアキ
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神器研究室


「……ご丁寧に、ありがとうございます。俺はアノニムと言いまして、しがないEランクの冒険者です」


 ぞんざいでもなく、また、丁寧でもなく、相手の距離を測るような挨拶を交わす。正直こんな場所でナーダ神殿の神官長に出会うとは思わなかった。ゼインズは笑顔を絶やさず話しかけてくる。


「ほう、さようでしたか。では今日はこちらへ、その……お持ちのモノの件でいらしたと、そういうことでしょうか?」


 結構ストレートに食いついてきたなあと、そんな事を思いながら


「はい、ダンジョンの宝箱から出てきたんですけど、何に使うのか分かんないんですよ。で、ダンジョン前で皆さんが配ってた冊子を思い出しまして……」


 アイテムの『所有権』から言えば、仮面パーティー三人のものなのだが、「私たちは興味がないから」というロザリーのひと言で、アノニムが譲り受けた。で、今日は一日攻略を休止して、ナーダ神殿へ情報集めに来たわけだ。


「ああ、冊子を読まれたのですね。なら話が早い。あれに説いておりました通り、現在我々は、ダンジョンで見つかる用途不明のアイテムを、ナーダさまによる人界への『啓示』もしくは『福音』ではないかと考えて、その意味を解明しようと日夜努力し続けているのです。残念ながら未だ明確な成果は上がっておりませんが……。そんなわけで、私どもはダンジョンの出土品に対価を払って譲り受けています。どうでしょう、アノニムさんのお持ちのソレを、お譲り頂くわけには……」

「対価というと、いかほどで?」

「それはですね……」


 アノニムの持つ『歯車』一つに結構な額だった。現金だと板金貨一枚十万バゼル。神殿の回復魔法なら指の部位欠損回復クラス(相場から言うとかなりお得)。あるいは『時間魔法』の魔法式……という選択肢もあって、実演結果を見た身としては微妙だったが、現在研究中の最先端魔法と考えると、これも破格の条件かも。

 普通の冒険者なら考える間でもないような好条件だった。が、しかし、仮面の冒険者は『ハッタリブラフ』のような要望を突きつける――


「……俺、この道具が何かの『効果』を持ったアイテムじゃないかって、そんな気がしてならないんですよ」

「……ええ、我々も、何らかの働きを解明しようと頑張っているわけなんですが」

「だとしたら、効果次第じゃ金じゃ買えないって場合もあるでしょう?」

「まあ、可能性はあります。しかし、それも効果が解明されないことには、絵に描いた餅と言いましょうか……」

「その、集めたアイテムって、見せちゃもらえませんかね? 何か一つくらい見当がつくモノがないか、確かめたいんですが……」


 実はアノニムとしては、断られるのを覚悟していた。歯車一つ持った男に、今まで集めた全部をさらすなど、損得から言ってあり得ない。ただ、「これは〝何か〟を構成する一部分なんじゃない? 薄々感づいてるよん」というプレッシャーを与えつつ、この場をサヨナラ出来ればいいと思っていたのだが


「ご覧になりますか? ではよろしければ、このまま参りましょう。どうぞこちらへ」


神官長はにこやかな笑みを崩さずに、アノニムを手招きした。


(は?! マジですか??)


 正直拍子抜けというか、ここまで予想と反する行動をされたのも、最近覚えがない。……いや、ヴィードくんの奇行はあるか。しかしあれは予想と反すると言うより予測不能だからなあ。

 石造りの廊下を先導されてゆく。……しかし、つくづく変わった人だな。曲がりなりにも、これほどの組織のトップが、その日会っただけの冒険者に背中を預け二人きりで行動するなんて。軽く揺さぶってみようかなどと、ゼインズの背に話しかけてみたのだが、


「まさか、神官長自らの案内で見せて頂けるとは思っていませんでした」

「ええ、まあその、我らとしても正直、手詰まり感に悩まされておりまして……私が授かっております〝四象眼〟では、どちらの神かまでは判りませんが、アノニムさんが十二神何れかの加護を受けられているのは判ります。そういう方のご意見をいただけるなら、願ってもない事です」


 ……おっとぉ、やはり見た目だけの「気のいいおっさん」ではないらしい。何と煙に巻こうかと思っていると、一つの扉の前に立っていた。


「どうぞ」

「お邪魔します」


 もう開き直ることに決めて、促されるままに入室すると、そこはまるで科学実験室のようだった。簡素な魔道士ローブをまとった男女が、卓の上に奇妙な装置を据えて魔力を送り込んでいる。何人かがゼインズとアノニムに気づき、席を立った。


「あ、神官長」

「どうなされました? 急ぎでしたら、こちらからご報告に……」

「いやいや、そのまま、そのまま。今日はこちらの方に研究品を見て頂こうと思いましてね。皆さんはいつも通りに解析を進めてください」


 ゼインズの言葉を受けて、手を止めていた『研究員』たちは怪訝な視線を送りながらも作業を再開して行く。まあ、怪傑ゾ□マスクと安装備つけた冒険者風の若造って、かなりこの場で浮いてるよね……


「アノニムさん、こちらへ。この型の神器は、いくつか発見されているのですが……」


 ホントに意見を求められちゃってるよ……どうしてこうなった。

 〝四象眼〟と言っていたゼインズの眼に、自分は一体どう映ったのか。いぶかしみながら指さされる先を見ると、(向こうの世界で言う)地面に刺して使うガーデンライトに似た道具が転がっていた。かつてホームセンターや、百均でも置いてたっけ……?


「……何かガラスかクリスタル状のモノが片端に付いていますが、発光するのでしょうか?」

「いえ、光を放つとは聞いていません。確か……ああ、君、済まないけど説明を頼めるかな?」

「は! こちらの神器で判明している機能は、魔力を籠める事が可能な事。籠められた魔力を継続的に放出する事の二点のみでして」


 話だけ聞いてると、魔力による『発信機』みたいだなぁ。形通り地面に刺して使うのなら、マップ上のマーカーみたいな使い方を想定してるのか? ……俺は何をマジで考えているんだ。そんな事を正直に話す義理はないぞ。


「はて、何に使うんでしょうね~? ……何かの目印なんですかね~?」

「……そう思われますよね。私たちも概ね同意見なのですが、そこから先が進みません。ああ、君、ありがとう」


 担当研究員に礼を言ってゼインズ神官長は次の卓に向かう。研究員の眼前に固定されている道具は、これはある意味冒険者や船乗りにはありふれたものだった。


「こちらは……用途自体はわかっています携帯型の方位磁石コンパスですね。ただ、どうやって作ったか、材質・工法が不明で、刻まれている文字か記号も中央大陸のものではありません」

「……! (は、ははは……N・E・S・Wって)」


 それは明らかに「向こうの世界産」の道具だった。いや、それに加えて、奇妙に濃い魔力を帯びてもいる。まるで……独立した機能を持つ『魔道具』だと言わんばかりの。これは一体何なんだ?

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