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悪魔と呼ばれた男(仮)  作者: 宮前タツアキ
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仮面パーティー(仮)結成

 翌日、ナタジャラム冒険者ギルドに、目元だけ隠れる簡易マスク(別名、怪傑ゾ□マスク)を付けたアノニムの姿があった。ここに来たのはあくまでダンジョンが目的なので、基本、冒険者アノニムとして活動するつもりだ。昨晩、酒場で予想した通り、ギルドの受付職員は特に注意も払わずアノニムの対応をした。せいぜい「この街で面倒事は起こさないでくださいね」と、おざなりに釘を刺しただけ。

 早速資料室でダンジョンの基本情報を仕入れる。よくあるタイプと言ってはなんだが、ゲーム世界に出てくるような異空間ダンジョンだった。挑戦するパーティー毎に別空間に送られるタイプではなく、同じ空間で別パーティーと居合わせる事もあるという。となると、モンスター相手だけでなく人間相手にも用心が必要になってくるわけで、ギルド側もそういった横取りや追いはぎ行為を行う輩への、警告と警戒を呼びかけていた。

 しかしまあ、会ったら地上でやってるように獲物にさせてもらうだけだ。問題は入場資格に制限がある事で……


「ソロで入場できるのはランクCからか……」


 アノニムの冒険者ランクは、現在Eである。目立たぬようやってきた成果というか結果というか。これをいきなりCまで上げるのは、ちょっと無理があるな……

 一通り調べ終わったところで資料室を出た。と、ギルドの受付カウンターに、昨晩見かけた二人組が取りついている。


「紹介できないって、どういう事です? 私たちはギルドに何か罰則を受けるような覚えはありませんが?」

「落ち着いてくださいね、ロザリーさん。確かにギルドとしてはあなたたちに何も含む所はないんですが、ギルド登録者の間には、何というか横のつながりがあるんですよ。パーティー内で弱い立場になりがちな『職種クラス』が互いに情報をやり取りして、立場を確保しようとするんです。今回、具体的に言うと、盗賊シーフ職の同業者たちが、あなたたちを『パーティー組んじゃだめなヤツ』指定したわけですね」

「そんな、不当な差別だ! ギルドはこんな行為を見過ごすんですか!」


 ……なんか場違いな所で『差別』って言葉を聞いたなーと思って見ていると、受付嬢もシャットアウトモードに入ったらしい。ギルドメンバー同士の諍い事は不干渉ですと繰り返して押し切ってしまった。悄然としてその場を立ち去る二人。これは……当たってみる価値はあるか。

 ギルドから出て、しばらく歩いたところで声をかけた。


「お二人さん、ちょっと話を聞いてくれないかな?」

「あら、まともに声をかけてくるなんて。いいですよ、どんなご用?」

「…………」


 後ろを歩いていたのはバレバレだったらしい。まあ、あまり警戒されても困るから、完全に気配を消してたわけじゃないけど。


「俺はアノニムっていう、Eランク冒険者だ。主にソロで活動してきて、器用貧乏ながら一通りの『クラス』をこなせると自負しています。無論、盗賊シーフ探索スカウト方面もね。どうです? 俺を仲間に入れてくれないでしょうか? さっきギルドで見かけたんだけど……」

「ちょっと待ってちょうだい。Eランク? さすがにそれは低すぎよ。おまけに専門のシーフでもないって……寄生行為にもほどがあってよ? 正直に申告すればいいというものでは……」


 その時、押し黙っていた剣士――昨晩ヴィードと呼ばれていた威丈夫が動いた。アノニム目がけ、素早い踏み込みから手刀を振り下ろす。半身、開いてかわした。そのまま、横なぎに一閃、二閃。アノニムは騒ぐ事もなく、ダッキングとステップを重ねてかわす。相手の手刀に手も合わせない、体さばきだけの回避だった。

 ヴィードの口角が片方、ツイとつり上がった。さらに攻撃のギアを引き上げようとした時、


「そこまで! ええ、分かりました。事情をお持ちでランクを上げていない、と。それだけ分かれば十分です」

「……何で止めるんだ、ロザリー。これからなのに」

「ここで立ち回りをやるのが目的ですか!? 違うでしょう? 伯父上の困った所などマネしなくていいのよヴィード……」


 仮面の奥から向けられるジト目の冷たさが痛い。ヴィードもこれには閉口したようで、渋々ながら矛を収めた。ロザリーは打って変わって優雅な一礼をアノニムに送る。


「非礼をお許しください。あなたほどの実力者に協力いただけるなら願ってもない幸運ですわ。パーティーの一員になっていただけますでしょうか?」

「堅苦しい話はナシにしましょう。こっちも利用してるっちゃ、その通りなんだし。ただ……お互いの素性は詮索しないって事で、お願いできますか?」

「ええ、それはもちろん。むしろ願ってもない話です。ですが……そうですね、その条件を徹底させるために、『自分の事情に他のメンバーを巻き込まない』というやり方で通したいですね」


 腕は信用したが人間性は別か。ロザリー嬢、なかなか慎重で好感が持てる。しかしこれで、仮面夫婦ならぬ仮面パーティーの結成か。


「なあアノニムといったな? 木剣は使えるか? もう少しやろうぜ」

「ではまだ時間もありますし、お試し程度にダンジョンにでも」

「そうですね、確認したい事はたくさんありますわ」

「無視なの? ガン無視なの? 僕、一応パーティーリーダーなんだけど!」


 このマッチョ「僕クン」なのかよ、とか、パーティーリーダーってマジかおい、とか、アノニムも思うところは多かったが、あえて不問にしてダンジョンへと向かった。

 不問ってまあ、無視とも言う。すまん。


 ◇


 ダンジョン入口前の広場に着くと、少々毛色の変わった集団がたむろしていた。黒を基調としたローブ姿で、一見ザナ聖教の関係者かと思ったのだが、丈の高い特徴的な帽子をかぶっている。


「ケガをなさってる方はいませんか……重傷はムリですが、軽度なら回復をご奉仕しますよ」

「代わりにと言っては何ですが、どうぞこちらの冊子をご一読ください……」


 どこかの神殿の奉仕活動か? しかし、一般的に信仰されている十二神殿で、ああいうデザインの神官服は、見た覚えがない。

 「?」顔のアノニムに気づいたらしく、ロザリーが教えてくれた。


「アノニムさんはナタジャラムへ来て、まだ日が浅いのですね? あれが『時空神ナーダ』の信徒たちです。ああいう活動を通じて信徒を増やそうと努力しているわけです」

「はあ、なるほど」

「確かそれだけじゃなかったはずだよ……ああ、キミ、一部もらえるかな?」

「ありがとうございます。ぜひ、ご一読ください」


 ヴィードが信徒の一人から『パンフレット?』をもらってきて、アノニムに渡した。


「ほら、後で目を通しておくといい。連中、ダンジョンのドロップ品の中で、用途が分からないモノを集めているらしい。何が目的なのかさっぱりだけど」

「あ、ありがとう」

「……アノニムさんもこのダンジョンの『異空嚢』の噂を聞いてきたクチかしら? 獲得頻度はレア中のレアですけど、手に入れば二~三年は遊んで暮らせますものね」


 異空嚢……いわゆるマジックバッグである。確かに有用で高価なアイテムだが、某ばあさんから『バカげた容量』と呆れられる異空庫持ちのアノニムにとっては大した獲物ではない。むしろ時空神ナーダ関連のダンジョンから出る『用途不明のモノ』とやらが何なのか。そちらの方に興味をそそられたが、今は協力者との関係構築が優先である。そう言い聞かせて自制した。

 ダンジョン入口の管理官に入場届を提出する。


「……ほう、その歳でBとCか。それと……E。ムリはするなよ」

「心得ております」


 しゃべるのはロザリーに任せて、三人はダンジョンの門をくぐった。途端に空気の匂いが変わり、理外の空間に入った事を実感する。


「……ちなみに、ランクBはどちらか、訊いてもいいかな?」

「僕だよ? 言っただろう、僕がリーダーだって」

「アノニムさんが何を思っているか、分かるような気がしますけど、ヴィードの剣技は確かでしてよ。ご自分の目で確かめてください」

「ロザリー、最近なんか言い方が、スッキリしないというか……」


 ブツブツ言うヴィードをよそに、索敵アノニム、前衛ヴィード、後衛ロザリーのフォーメーションで進む。


 ◇

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