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悪魔と呼ばれた男(仮)  作者: 宮前タツアキ
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拉致召喚

 石造りの暗い部屋の中、床の上に描かれた魔方陣が脈動するように燐光を放っていた。六芒星をかたどる方陣の、それぞれの頂点に術者が内向きに跪き、長い呪文の詠唱を行っている。ひときわ大きな魔力の高まりと共に魔方陣の中央から光の柱が立ち上り……収まった後には茫然とした表情の少年が佇んでいた。黒い髪と瞳、どこか中性的な面立ちで、まだ十代半ばだろうか。

 装飾過多な身なりの男が歩み寄り、少年に呼びかける。


「よくぞおいでになった、我らが勇者よ! 見よ、皆の者! 成功だ! 我らの願いは聞き届けられたぞ!」

「……え?……ええ?……千秋……どこ……? あんた、誰!? ……ですか?」

「少々混乱しておられるご様子。まずは身を休ませられよ。話はそれからに」


 言いつつ男は、どこか尊大な態度で取り巻きの魔道士にあごをしゃくった。短い詠唱と、少年を包む魔力の波。


「! ……なに……を……」


 よろめきながらも踏みとどまろうとした少年に、術者は一瞬驚きの表情をを浮かべ、再度睡眠の術を重ねた。

 耐えきれず崩れ落ち、少年は意識を失う。


(千秋……守らなきゃ……)


 願いが言葉になる事はなかった。

 少年を運ぶ男たちに、場を仕切っていた中年貴族――サルーイン・アルム・ザルトクス子爵は、どこか陶酔した口調で指示を飛ばす。


「傷つけるでないぞ、慎重に扱え。……さてまずやるべきは、どの程度使えるかの見極めか。おっと、なだめすかして取り込む手も講じなければな。〝隷属紋〟を使うという手もあるが、自分で判断できなくなるのは痛い……」


 自分だけの世界に入り込んで『皮算用』に浸る様には、他者への尊重や配慮といった感覚が全く感じられなかった。


 ◇


 数ヶ月後――

 その日の戦闘訓練を終え、部屋に戻ってきた少年は、立っているのも辛そうにソファーにもたれ込んだ。


「大丈夫ですかトモヤ様……まあ、お怪我を!」


 側付きのメイドが少年の身を案じる。見える皮膚がアザだらけだった。


「……大丈夫ですよ、マーサさん。治癒魔法で治すより、僕自身の回復力で治した方が防御力が上がるんです。小一時間もすれば回復しますから……」


 せめて冷やすだけでもと、湿布をあてがいながら、メイドは悲しそうにつぶやいた。


「勇者たる者の勤めとは伺っておりますが、ここまで無理をせねばならぬのでしょうか……」

「……僕は……強くなりたいんです、一刻も早く。使命を……魔王討伐を果たして……元の世界に……」

「…………」


 少年――ヤチ・トモヤの願いと決意に、側付きのメイドはかける言葉がなかった。


 ◇


「そうか、もうそこまで仕上がったか……」

「は、もう我らでは相手ができませぬ。すさまじいものですな、異世界人というものは」


 ザルトクス子爵と子爵領守備騎士団長は、執務室で声を低めていた。話題は無論、彼らの〝勇者〟である。


「武器は何を使わせておる? あまり高価な物は……」

「はい、『不壊剣』を持たせております。折れず、曲がらず、奴の膂力に耐えられますので」

「アレか。うむ、まあ、今の奴にはその程度でよかろう」

「早く『魔王軍』の情報を教えてくれと、教官たちを突き上げているとか……どう対処しましょう?」

「ちぃ、なまじ、帰還の可能性を匂わせたのがまずかったか……」


 しばらく黙考し、子爵は口の端を歪めた。


「……是非もない。召喚先の世界では、平民が身の程をわきまえぬのが当然と思っているらしい。なれば……遅かれ早かれ、こうするより他、あるまいよ」

「では?」

「今夜決行する。準備せよ」


 ◇

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