転生したら悪女だった4
「わぁ。個室をいただけるのですね。ありがとうございます。掃除をしてもいいですか? 掃除用具を貸してください。ゴミはどこに捨てたらいいですか?」
「掃除用具はこれよ」
渡されたのは歯ブラシだった。
素手で掃除をしろ、ということらしい。
「ゴミは裏庭の厩舎の横にゴミ捨て場があります。でも、大事なものは捨てちゃだめよ。私にみせてくださいね。壊れているものは、あなたのものにしていいわ」
メイドたちがくすくす笑いながら私を見ているが、振り返るときゃあっと笑いながら走り去っていった。
私は清浄魔法で、まずはほこりを払うことにした。
「聖女ロレインより女神フルゴラ様に希う。我に力を与えたまえ。清浄魔法発動」
合掌をして呪文をわざわざ詠唱したのは、この世界の私が、聖女魔法をどれぐらい使えるのか知りたかったから。
両手をゆっくりと広げると、手のひらから出た魔法粒子がキラキラと輝きながら空中を漂い、ほこりを取り除いた。
悪臭もなくなり、空気が清浄になった。
よかった。私の聖女魔法、力が落ちてない。それどころか、転生前よりも強くなっている。魔力は体力に比例する。この世界のロレインの体力は、転生前の私より体力が上だ。使える魔力も大きいようだ。
「ネズミさん。ごめんなさいね。この部屋は私が使うの」
足下をちょろちょろしているネズミに話しかける。ネズミはビーズのような黒い瞳で私を見て、わかった、とでもいうように頷いた。
木箱をいちいち開けて、割れた食器や干からびたパン、カビが生えた保存食料、ボロボロのメイド服など、明らかなゴミはまとめてゴミ置き場に持っていく。
ゴミ置き場に置いてふうっとため息をつくと、名前を呼ばれた。
「ロレイン」
「はい」
振り向くと、庭師のおじさんがねぎらってくれた。
「大変だったね」
「大丈夫です!」
「いじめられているのか? 何か手伝えることはあるか?」
「ありがとうございます。お気持ちだけ頂いておきます。……失礼ですがお名前教えてください」
「ジョゼッペ爺さんと呼んでくれ」
「爺さんなんてお年じゃないですよ。ジョゼッペさんとお呼びしますね」
「掃除なんてできるのか? 一度も掃除したことがないだろう?」
私は困った。伯爵令嬢が掃除好きって変よね。
「両親の考え方で、令嬢といえど自分のことは自分でしろと言われていて、掃除も自分でしていたんですよ」
「そうか。がんばりなさい」
「はいっ」
親切な庭師さんに会釈して、屋敷に戻り、掃除をがんばる。
皿はヒビが入っているし、服は破れている。
だが、ある程度なら魔法で修復できる。
重い木箱を持ってゴミ置き場とゴミ部屋を往復している私を見て、メイドたちがくすくすと笑ってる。
「ふふっ。掃除してるわ。がんばりなさいね」
「はい。がんばります! 応援ありがとうございますっ!!」
木箱を逆さにして並べてベッドの代わりにし、シーツをカーテン代わりにする。ぼろ布で窓を拭き、歯ブラシでこびりついた汚れを落とす。
壊れた家具は聖女魔法で直し、布団や枕、毛布や古着のドレスは清浄魔法で綺麗にする。
ノックの音がした。
「ロレインさん。晩ご飯よ」
「わざわざ持ってきてくださったんですね。ありがとうございます」
皿に入ったトウモロコシ粥を渡された。
できたてらしくて、湯気が出て、いい匂いがしている。
「伯爵令嬢の口に合わないかもしれないけど、ロレインさんのために作ったのよ。食べてね」
含みのある口調で言うので、毒でも入っているのではないかと思いながら受け取ったが、普通にトウモロコシ粥だった。古くなっているわけでもない。作りたてのようだ。量が多いのがありがたい。
「おいしい~」
私は掃除を終えたばかりの椅子に座って粥を食べた。トウモロコシのほんのりと甘い粥が、疲れた身体に染み渡る。
☆
お皿に返しに控え室に行くと、メイドさんたちがシチューとパンを食べながら雑談していた。
「ふふっ。あのお嬢様は、馬の餌のトウモロコシをお食べになられたのかしら?」
「人間の食べるものじゃないけど、あの方人権がないんだからぴったりよね。別に毒を食べさせているわけじゃないし」
「わざわざ作ってあげたんだから、感謝してほしいわね」
「はい。感謝しています。ありがとうございます。お皿返却しに来ました」
「お皿はそこにおいておいて。キッチンに入らないで! あんた死刑囚でしょ!? 食べるものを扱うところに入らせないからねっ」
そうかぁ。これ、馬の餌だったのね。この世界の馬はいいものを食べてるなぁ。
聖女は粗食に慣れてるし、前の世界ではトウモロコシ粥も普通に食卓に上ったから、食べ慣れた味だったんだけどね。
「おかゆ、食べたの? 捨てたんじゃなくて?」
「はい。食べました。食べるものを捨てたら罰が当たりますよー。あ、そうだ。掃除、終わりました」
「ええーっ?」
「嘘よっ。そんなに早く掃除ができるわけないでしょっ」
メイドさんたちがスプーンを置くと、私の部屋に来た。ドアを開けてのぞき込み、驚いている。
「ほんとだわ。綺麗になってる」
「匂いもなくなってるし」
「っていうか、別の部屋みたい」
「すごい! どうやったらこんなに綺麗になるの!? あなた魔法使いなの?」
「あはは。魔法なんてあるわけないでしょ」
この世界には魔法はないのね。夢みたいなことなんだわ。だったら私が聖女魔法を使えることは知られないようにしないと。
「あ、そうだ。これが落ちていたんです。みなさんのじゃないですか?」
私はゴミ部屋から見つけ出した、ネックレスと金貨、ブローチを差し出した。
「私のブローチ! 無くしたと思ってたのよ」
「なんで金貨が……」
「これは母上の形見ではないのか?」
殿下だった。
処刑場ではキラキラの金モールの下がった正装だったが、今はシャツとズボンの軽装だ。執事さんが殿下の後ろに立って、私をじっと見つめている。値踏みするような厳しい視線だ。
「殿下、じゃなくて旦那様? どうしてここに?」
「ここは私の家だ」
ですよね。
愚問でした。
「答えろ、メイド長! どうして母の宝石があるんだ!? この金貨は何だ!」
メイド長は顔を青くして、ガタガタと震えだした。
作者からのお願いです。
「おもしろかった」「続きが読みたい」とき、この下(広告の下)にある「☆☆☆☆☆」を押して「★★★★★」にして頂けるけるとうれしいです。はげみになります。




