転生した悪女だった19
私は近回りをすることにした。大通りではなく、裏道を走り、柵を乗り越えて走る。
早く。
早く。
もっと早く!
今は殿下も護衛騎士のアランさんも、執事さんもいない。
いるのは足の悪い庭師のジョゼッペさんだけ。
ようやくお屋敷にたどり着き、裏口から入ったとき――殿下の部屋の窓が開き、誰かがひらりと飛び降りた。
ズボンを履き、顔を布で隠した女だった。
「……ッ!」
私の身体が反応した。ジャンプすると、女に蹴りを入れたのだ。
泥棒女は意外そうな顔をしている。
私の今の格好は、小花模様のドレスを着たごく普通の女性だから、いきなりジャンピングキックをしてきたことに驚いているのだろう。
驚いているのは私も同じよ。
私の身体が勝手に動いている。
聖女の私は、格闘技なんてできないのに。
泥棒女も応戦してきて、格闘になった。
この女、リラさんが貢いだ軽薄男の恋人だ。
やっぱりだ。こいつが仕組んだ。
「あなた、同業者ね? 誰に雇われているの?」
「私は泥棒なんかしないわ!」
「暗殺者でしょ?」
暗殺者!? バカなことを言わないで! 伯爵令嬢が暗殺者なわけないじゃないの!?
「私は聖女……ごほんっ。聖女のように心の清い女なのよ!」
「ふっ。音を立てず忍び寄って、無言で急所を狙ってくる女のどこが聖女よっ!?」
「私は平凡な幸せを手に入れたいのよ!」
泥棒女がナイフを出し、横薙ぎに振るった。お腹のあたりのドレスがスパッと切れ、血がにじんだ。痛い。
「きゃああっ。ドレスがぁっ」
今日買ったばかりのドレスなのよ!
なんてことをするの! 信じられないっ。
やだ。目の前が暗くなってきた。
このナイフ、薬が塗ってあったわね。
即効性の毒だわ。
「女神フルゴラ様っ! お力をお貸しください!!」
私は泥棒女に抱きついた。
その瞬間、轟音がして、空がひび割れたかのように光った。
稲光が白く輝き、何も見えなくなった。
ナイフに落雷したのだ。
「きゃあっ」
感電した泥棒女が身体を震わせている。
私はなんともない。
女神の制裁。
女神フルゴラ様は雷鳴の神。稲光によって食物を育て、麦を実らせる豊穣の女神。私たち聖女に力を与え、聖女に害をなす人間に鉄槌を下す。私たち聖女は、男性とふれ合ってはダメだと言われているけど、女神の制裁が落ちるからだ。
泥棒女は失神し、その場に崩れ落ちた。
私も、もう、だめだ……。
感電したわけじゃないけど、毒の効果が強い。
治癒魔法を掛けないといけないのに、意識が薄れる……。
私は膝をついた。周囲が真っ暗になり、何も聞こえなくなった。
私は死ぬんだ……。




