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転生したら悪女だった18

 ロレインが布で銀器を磨いていると、メイド長が悲鳴をあげて立ち上がった。


「きゃあっ。虫が、虫がぁっ」

「羽虫、飛んでますね」


 メイド長の書きかけの書類の上に羽虫が止まっている。

 嫌そうに眉根を寄せ、羽虫を睨んでいるメイド長に代わり、ロレインが羽虫をつまみあげて窓の外に捨てた。


「この季節は仕方ないですよー。気にしないでください。メイド長」


「で、でも、スープに入ったりしたらどうするんですか?」

「スプーンですくって捨てたらいいじゃないですか?」


 爆殺された兵士の血しぶきが降ってくるよりずっとましだと思うのに、メイド長はいやそうに眉根を寄せている。


「ロレインさんて虫が平気なのね」

「ネズミも平気よねー」

「変わった元伯爵令嬢もいたもんだわ」

「私、令嬢ですけど悪女ですのよ。ほほほ」

「あははっ」

 

 メイド長は立ったままで考え込んでいる。


「屋敷の消毒をしましょう!」

「ええーっ」

「消毒って、屋敷中を、ですか?」

「専門の業者に入ってもらいます。執事さんと相談してくるわ」


 メイド長が立ち上がり、メイド部屋を出て行った。


「やったーっ。お休みだーっ!」

「消毒ってお休みになるんですか?」

「屋敷中を消毒するんだから、当然よ」


           ☆


 ――というわけで、私たちは今、街角のカフェでお茶してる。


 メイド長も執事さんも半休を取った。

 離れに住む庭師のジョゼッベさんだけがお屋敷に残っている。

 今頃は、お屋敷は、消毒剤の煙でもくもくになっているはず。

 私の部屋に住んでいるネズミさんには、消毒のあいだだけ外に出て行くように頼んでおいた。


「コーヒーがおいしいーっ」

「苦くないのよ?」

「苦くないよ」


 リラさんはコーヒー。

 ドロシーさんメアリさんは紅茶。

 私はオレンジジュースを飲んでいる。


「紅茶、上手に淹れてあるわ。お茶の葉は普通のグレードのものだと思うけど、淹れ方がうまいのね」

「ドロシーは研究熱心ね。せっかくの休みなんだから、仕事を忘れて楽しもうよ」

「でも、ほんとうにおいしいのよ。ちょっと飲んでみなよ」

「ほんとね。おいしい」

「やだーっ。たくさん飲まないでよー」


 オレンジジュースを飲みながらふふっと笑う。

 お茶菓子はサブレにした。ナッツとドライフルーツ入りの焼き菓子で、サクサクホロホロでおいしい。

 

「ロレインさん薔薇の髪飾りとドレス、すごく似合うわ」


 私は殿下に貰ったピンクの薔薇を髪に挿している。

 枯れないよう大事に水を替え、強化魔法をかけていたが、消毒のもくもくで枯れてしまいそうだから髪飾りにしたのだ。


「ドレス、選んで頂いてありがとうございます」

「だって、いつまでもドレスをお貸しするわけにいかないもの」


 月給が出たばかりなので、私はまず、自分のドレスを買った。

 黒の斎服と、白の儀式服しか着たことがないので、どんなドレスがいいのかわからない。先輩たちに選んで貰えたのはありがたかった。


「護衛騎士のアランさんって、リラが好きよね?」

「えぇーっ」

「だって、アランさん、リラのこと、ぼーっと見ているのよ」


 ああ。いいなぁ。仕事仲間とカフェでお茶を飲んで、お菓子を食べて。

 誰が好きだとか、恋愛話で盛り上がって。

 私が欲しかった平和で平凡な生活はこれなの。

 働いて、お給料を貰って、そのお給料でドレスを買ったり、お茶を飲んだりして、自分のために使うの。

 ああ、すごく楽しい。こんな時間が永久に続くといいのに。


「そ、そんなことないよ。お祭りの日、一緒に飲んだことがあるだけ。でも、ロレインさんも一緒だったよ」

「そうだ。ロレインさん、旦那様と付き合ってるの?」

 

 急に話を振られ、私はオレンジジュースを吹きそうになった。

 顔がかぁぁっと熱くなる。


「好きだ」とかなんとか言われて抱きしめられたことを思い出した。そのあと殿下の手をふりほどいて蹴りを入れたけど。


「あっ。真っ赤になった!」

「ほんとだ。ロレインさん。耳まで真っ赤だよー」

「その髪飾りも、旦那様のプレゼントでしょ? まったく同じお花が、旦那様の部屋に飾ってあったわ」

「ないないない。つきあってないっ。私は処刑された人間だし、その、奴隷だし、ゆゆゆ幽霊みたいなもんだし!! 人権ないしっ」

「でも、元は貴族だったんだから、ティーパーティーとか夜会とか舞踏会とかで話したことがあるんでしょ?」


 話したことがあるどころか、婚約者だったらしいわ……なんて言えない。


「たぶん。でも、覚えてないのよね……」

「舞踏会とか、楽しいんだろうなぁ。殿下と令嬢が、手をとって、こうやって踊るの」

「メイジャー男爵邸はパーティをよくやってたけど、メイドは大変よ。臨時メイドを雇わないと、手が回らないの。夜会なんて、令嬢のつけている香水の匂いで、気分が悪くなるメイドもいるのよ」

「私たちはサシュなのに、高価な香水をじゃばじゃば点けられるのってすごいね」

「つけすぎると迷惑だけどね」


 臨時メイド……、サシュ。

 なんだろう。何かひっかかる。


 今日休みを貰えたのは、羽虫が大量発生したからで。

 原因はドロシーさんが臨時メイドから貰ったサシュに虫の卵が入っていたからで……。


 ちょっと待って!

 リラさんが貢いだ軽薄男。あいつ、リラさんにサシュをプレゼントしてたよね? リラさんは怒ってサシュを投げ捨てたけど、あれ、軽薄男の連れの女の人が拾ってた。


 虫の卵入りのサシュを、お屋敷に持ち込ませようとしていた?

 ドロシーさんにサシュを渡した臨時メイドと、リラさんの軽薄男の連れの女性は、もしかして同一人物?


 でも、そんなに都合良く虫の卵が孵る? 

 ドロシーさん。枕の下に入れていた。温度で孵るのかも。


 そして今は消毒のために、屋敷は無人。

 お屋敷が心配だわ。

 私は席を立つと、残りのオレンジジュースを飲み干した。


「ごめんね。忘れ物思い出したの」


 私は走った。

 屋敷に急ぐ。

 なにも無ければいいんだけど。

 どうか、何も起こりませんように。


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― 新着の感想 ―
[良い点] メイドたちには被害が出ない設定、みたいですね。 でも、庭師は邸宅に残っている…… 心配だ!
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