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転生したら悪女だった16


 ドロシーは破り捨てた手順書を、ぐしゃぐしゃと丸めた。


「あーっ、ドロシー、なんてことするのよっ!?」

「ロレインさんが、メイド長に聞きまくって書いたのよっ」

「みんなでその紙見ながら練習してたのにっ。ひどいわっ」


「ふんっ!」


「私も手順書の張り出しは助かっていたのですよ。同じことを言わなくてすみますから。ドロシーさんがそんなにロレインさんが嫌いなら、ロレインさんと顔を合わせなくてもすむように旦那様に相談します」


 メイド長が冷静な口調で言った。

 ドロシーの背中にぞっと冷たいものが走った。

 旦那様に相談。それって……。


「首ってことですか!?」


「いいえ、私には首にする権限がありません。雇用主である旦那様がお決めになることです」


 やばい。すごくやばい。メイド長が旦那様に進言したら、旦那様はメイド長の言うことを聞くだろう。


「ロレインさん、悪かったわねっ。ごめんなさいっ」


 ドロシーは頭を下げた。

 ギリギリと歯ぎしりをする。

 これでいいんでしょ!? これで!!

 悔しさと怒りで頭の芯が熱くなる。

 ドロシーは手の中の紙を、ぎゅうぎゅうと握りしめた。

 コイツに頭を下げるのは悔しい。

 だが、首になるのは困る。

 貴族に雇われたメイドは、そのお屋敷で定年まで勤め上げるのが普通だ。

 メイジャー家から解雇されて、さらにフレドリック王弟殿下邸からも解雇されたら、ドロシーに問題があると思われる。もうどこからも雇って貰えなくなる。

 

「はい。大丈夫です。気にしていません」


 ロレインはにこにこと笑った。

 その笑い方は無邪気そのもので、何の悪意も感じられない。

 実は聖女なのではないかと思うほど。


 でも、旦那様を殺した男の敵よ!

 こいつを困らせてやる。泣かせてやる。でないと、旦那様が浮かばれない。


         ☆


 ドロシーはメイジャー男爵のお墓参りをしていた。

 ちょうど一年前の今日、旦那様はあのハワード伯爵に殺された。

 

 ――旦那様、私はがんばって仕事をしています。フレドリック王弟殿下邸は、王族のお屋敷なのに、そんなに堅苦しくなくて働きやすいですよ。


 墓前に手を合わせ、心の中で旦那様に話しかける。


 ――ハワード伯爵の娘が、私の後輩です。絞首刑になったほどの悪女なのに、なんだかいい子でね。みんなに好かれています。

 ――でも、私は嫌いですよ。だって旦那様の敵ですから。

 ――仕事もできるし、よく気がつくけど、私はロレインをいじめます。だって私がロレインと仲良くなったら、旦那様に申し訳立ちません。

 

 腰を上げたとき、ふいに話しかけられた。スタイルの良い女の人だ。


「あらっ。ドロシーさんだわ。あなたもお墓参りに来られたのね?」

「えっと?」

「覚えてらっしゃらない? 臨時メイドのアリスです」


 男爵邸は晩餐会やお茶会を多く開催していた。

 パーティのときだけ招集する臨時メイドが何人もいた。そのうちのひとりらしい。


「ああ、そうだったわね」

「あはは。覚えてないわね。いいのよ。すまなそうな顔をしないで。旦那様いい方だったわねぇ。私みたいな臨時メイドにもねぎらってくださった。亡くなられたとき、びっくりしたわ。まだお若くていらっしゃるのに」

「あのときはショックで眠れなくなって大変だったわ。いやだ。思い出しちゃった。また眠れなくなりそう」

「気持ち分かるわ。これ、差し上げるわ。カモミールのサシェなの。これを枕の下にいれておくと、よく眠れるのよ」


 刺繍とリボンで飾ったサシェだった。布袋の中に、乾燥させた花びら(ポプリ)を入れた匂い袋で、受け取るとカサリと音がした。爽やかな香りがしている。


「うれしいけど、私、交換するものがないのだけど」

「私、作るのが好きなのよ。貰ってちょうだい」


 メイドたちの間でポプリを作って交換するのが流行っているので、とくに疑問も観じず受け取ってしまった。ドレスのポケットに入れておく。


「いま、あなたはどうしているの?」

「臨時メイドだから、あちこちのお屋敷に呼ばれて働いているわよ。ドロシーはどうなの?」

「私は王弟殿下のお屋敷で働いているわ」

「ああっ。王弟殿下って、王宮の外でお屋敷を構えていらっしゃるところでしょう? なんでか夜会やお茶会をなさらないのよね。私、行ったことがないの。珍しいお屋敷よね」

「旦那様が、静かなお暮らしがお好きなんだと思うわ」

「旦那様は物静かな方なのね」

「私は旦那様に侍ってないのでわからないわ」

「じゃあ仕事は楽でしょ。ティーサービスの練習をしなくていいもの」

「ティーサービスは今練習中よ」

「そうなんだぁ。じゃあドロシーさんも、ベテランメイドの仲間入りね!」


 雑談は楽しかったが、そろそろ帰らなくてはならない時間だ。


「ごめんね。そろそろ帰らなくてはいけないの」


 臨時メイドのアリスと別れる。


「じゃあねぇ」


 ドロシーは、満面の笑みで手を振っている彼女が、リラを騙した軽薄男の恋人と同じであることを知らなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ドロシーは、前の勤め先の旦那様に、憧れにも似た恋愛感情を持っていたのでしょうねぇ。 ドロシーが鍵になるとは、思ってもみなかった。
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