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14/20

転生したら悪女だった14

「旦那様、お帰りなさいませ」


 私――ロレインは、玄関でおじぎをして、王宮から戻ってきたフレドリック殿下を出迎えた。

 お出迎えは、手が空いているメイドがすることになっていて、料理をしているメイドは手が離せないから、掃除担当の私がすることが多い。

 掃除の手が止まるから嫌だけど、せいぜい一分ほどのことだ。

 殿下は私に向かって無言で花束を差し出した。

 ピンク色の薔薇の花が五十ほども入っている。

 いい香りがしている。


「お預かりします」


 殿下が小さい声で何か話したが聞こえない。

 花を生けろということだろう。

 聖女は儀式のときに花を生けるから、フラワーアレンジは得意よ。任せて!


 ラウンド型に生けて、殿下の部屋に持っていく。


「旦那様、お花をお持ちしました。こちらに置かせて頂きますね」


 チェス盤を前に考え込んでいた殿下は、きょとんとした様子で立ち上がった。


「君へのプレゼントのつもりだったんだが」

「えっ!? なんでいきなり?」

「ロレインは今日が誕生日だろう? おめでとう19歳」

「ええええ? そうだったんですか!? 何で誕生日を知って……」

「婚約していたんだぞ。誕生日ぐらい知っている」


 殿下の顔が赤くなっている。なんだかちょっとかわいい。いつもムスッとした顔をしているのに。

 だからつい言ってしまった。

 ずっと聞きたかったこと。

 ずっと聞けなかったこと。


「でも、殿下は、私を殺した」


「殺してない! 縄が切れるように細工しておいただろう。ケガをしないよう藁を敷いておいたし、脱出のための横穴も掘っておいた」


 あの藁は、私を火刑にするためじゃなかったのね。

 横穴があったの?

 ぜんぜん知らなかった。


「じゃあ、殿下は私を死んだことにして逃がすつもりで……」

「死亡確認をするのは司法院長官の私の役割だからな。死んだふりをするように打ち合わせておいたのに、ロレインは起き上がった」


 前に殿下は私に聞いたことがある。

 なぜ打ち合わせ通りにやらなかったのかと。

 私は何のことかわからなかった。


「すみません。私、記憶が混乱していて」

「わかってる。今のロレインは昔の君とは別人だからな」


 昔の私ってどんな人だったんだろう。

 殿下とは婚約していたそうだが、殿下は昔の私を好きだったんだろうか?


「殿下は昔の私を好きでしたか? 婚約していたそうですが」

「政略結婚だが、多分好きだったのだと思う。君と私は同類だったから。だが、今のあなたは、ただ単純に好ましいと思ってる」


 抱きしめられた。


「君が好きだ」


 だ、大丈夫よ。手袋してるし、服の上からふれ合ってるだけだし。

 心臓の音がうるさい。

 殿下の綺麗な顔が近づいてきた。

 なんて青い瞳。


 頭の中でボボンッと音が鳴り、身体がかっと熱くなった。


「きゃーっ。花が咲いてるぅっ」

「メアリさん、何を騒いで……ほ、ほんとうに花が咲いているっ。なんでなんだぁっ」


 窓の外から悲鳴が響いた。メアリさんと庭師のジョゼッペさんの声ね。

 庭が花だらけになってるらしい。

 やってしまった。私は興奮すると花を咲かせてしまうのよ。

 ジョゼッペさんが端正した庭を、花畑にしてしまってごめんなさい。


「何事だ?」


 抱擁が緩んだのを幸い、私は殿下の腕を振り払った。逃げればいいのに蹴りを放ち、突きを繰り出す。気合いの声も上げず、まったくの無言で。


「うわっ」


 殿下は私の突きと蹴りを全部弾いた。


「それが君の答えなのか?」

「違うっ、違いますっ、か、勝手に身体が動いて。わぁあぁああっ。私、どうなってしまったのっ。殿下は好きです。あっ、あっ、そ、その嫌いではないという意味ですっ。でも、私は人を好きになっちゃいけないんですっ」

「記憶を取り戻したのか?」

「なんのことはわかりません。失礼します!」


 おじぎをして逃げだそうとしたら、殿下が花瓶の薔薇を一輪だけ引き抜いて差し出した。


「せめて一輪だけでも貰ってくれ」


 殿下は顔を真っ赤にしていた。


「頂きますっ」


 私は一輪の薔薇の花を大事に持って走った。

 自分の部屋に走り込む。

 コップに水を入れて薔薇の花を生ける。


 ベッドに伏せ、と枕の間に顔を入れ、無言で悶えた。


『きゃあああああっ』


 心で悲鳴をあげてじたばたする。

 そして、気持ちをいったん吐き出してから、大きく深呼吸をして、心を落ち着かせる。


「えっ? 花、なくなってしまった」

「嘘っ、な、なんで?」

「まぼろしかなぁ」


 すみません。私がやりました。ごめんなさい。


 ――それが君の答えなのか?


 殿下はがっかりした顔をしていた。

 違う。違いますっ! 

 ロレイン、あなたって何なの?

 なんで伯爵令嬢のはずのあなたが、護身術ができるのよ?

 

 知りたい。生前のロレインを。

 彼女がなぜ悪女だと言われたのか?

 なんで婚約破棄したのか?

 なんで死罪になったのか?


 でも、どうやって調べるのよ?

 殿下に聞くのがいちばんだけど、二人きりで話すといろいろやばい気がするのね。それに、殿下って王宮に通って公務をしているから、そもそも、お屋敷にいる時間はそんなにないのよね。


 それに、知ってはいけない、という気がした。

 私が欲しい平凡な幸せは、知ってしまうと手に入らない。

 そんな気がした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] もっとロマンスな展開になるかと思っていたので、びっくり! 過去を知るためのミステリーになってきましたねぇ!
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