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転生したら悪女だった13

 こっちの世界に来てから、お酒を飲むのははじめてだ。

 聖女のときはたまに飲んでいた。

 果実酒の甘さと、アルコールの熱さが、身体に染み渡る。


「だいたいねー。ゴミはすぐに捨てればいいのに、ゴミ部屋に突っ込んでごまかすからよくないのよーっ。ネズミの巣になっちゃうでしょーっ」

「おかげで私、個室貰えたし、ラッキーでした」

「ドロシーも前のお屋敷のこと、いつまでぐだぐだ言うつもりだーっ。私はね。ロレインさんの味方だからねー。ロレインさんは悪女じゃないぞーっ」

「その通りですー。私は悪女ではありませんーっ。聖女のような心の清い人間ですーっ」

「そーだそーだっ! ひぃっくっ」

 リラさんは怒り上戸だった。

 でも、人は悪くない。

「ロレインどのっ。リラさんもっ、飲み過ぎじゃないですか?」


 アランさんだった。

 いつもの騎士服ではなく、シャツとズボンの軽装だ。

 あきれた顔をしている。


「あれっ。アランさん、旦那様の護衛の仕事、終わったんですか?」

「はい。儀式が終わって王宮から戻ってきました。旦那様がせっかくのお祭りだから行っておいでとおっしゃってくださって」


「アランも飲めーっ。リラさんがおごってやるぞーっ」

「はいっ。頂きます!」

「護衛騎士だからって堅苦しいぞーっ」


           ☆


 女神様の生誕祭はダンスを三回して、オレンジジュースを飲んで、酒盛りをして終わった。

 でも、リラさんと仲良くなれた。

 私の理想である、平凡で平穏な幸せに、だいぶ近づいてきたような気がする。


「ふみゃあ。もう飲めにゃーいっ」

「リラさん。お屋敷までもう少しですよー、歩きましょう。はい。いちに、いちに」

「歩いてまゆゅよー」


 私はふらふらのリラさんを支えながら歩いた。


「あはは」


 護衛騎士のアランさんが笑った。


「お行儀の良いメイドさんが、こんなになるまで飲むなんて珍しいですね」

「メイドなのは仕事のときだけ。休みは普通の娘ですよ。私たちは」


 私は聖女という仕事に満足していたけど、同時に息苦しさも覚えていた。

 聖女に休みはない。


 仕事をしているときはもちろん、ぼうっとしているときも、ご飯を食べているときも、寝ているときさえも聖女であることを求められる。

 もちろん給料もない。


 なんて過酷な仕事だったのかしら。敬意と感謝は与えられるけど、敬意でお腹はいっぱいにならないしね。


「この仕事はいいですね。業務時間と時間外がきっぱりと別れていて、休みもあって、おいしいご飯に温かいお部屋。お給料までいただけるんですから」


「ロレインどのは、人が変わってしまいましたね。私は旦那様の護衛で夜会やパーティに行ったので、伯爵令嬢だった頃のロレインどのを見ています。あの頃のロレインどのは美しかったけど、今の素朴なロレインどのはかわいらしくていらっしゃる」


「ふふっ。ありがとうございます。昔の記憶がないので、人が変わったとか言われても、ぴんと来ないんです」


 雑談しながら裏門をくぐり、屋敷に入る。

 すっかり日は落ちて、あたりは薄暗くなっている。

 ぐーと胃が鳴った。


「晩ご飯何かしら」

「メイド長の当番だし、お祭りの晩だから、今日はきっとごちそうですね」


 手が滑って、紙包みを落としそうになった


「きゃっ。やだっ。お菓子を落としそうになっちゃった」

「それ、私が持ちましょう。リラさんを支えながら歩くのは大変でしょう?」

「ありがとう。ドレスを貸してくれたメアリさんへのお礼なの」

 

           ☆

           

 メイド長の給仕で晩ご飯を食べていた私――フレドリックは、ふと外を見て息を飲んだ。

 ロレインが先輩メイドと護衛騎士のアランと三人で歩いている。

 アランとロレインは楽しそうに会話をし、包み紙に包まれた何かを受け渡している。


 身体がかぁっと熱くなった。

 私と話すことは嫌がるくせに、アランとは一緒に出かけるのか? アランにプレゼントしたあれは、いったい何だ?


「楽しそうだな」

「えっ? ああ、ほんとうですね」

「ロレインはアランと付き合っているのだろうか?」

「いいえ。ロレインは、男性が苦手らしいんです。誰とも付き合わないと思いますよ」


 私はいっそう不愉快になった。

 悪女のロレインが男性が苦手?

 誰とも付き合わない?

 なのにアランは苦手ではない?

 なんだこのムカムカは?

 私はロレインが気になっているのか。


「メイド長。気になる女性がいたとして、好意を伝えるためにはどうしたらいいだろう?」

「誕生日にプレゼントをしたらいかがですか? 宝石とか」

「宝石より花のほうが似合いそうな女性なんだ」


 ロレインは小花模様のドレスを着て、髪にも花を飾っている。

 薄暗くなっていたが、彼女の周囲だけ光が当たっているかのように、くっきりと浮かび上がって見える。


「だったら花をあげればいいじゃないですか?」

「そうだな」


 明日、王宮で公務を終えたあと、城下町の花屋で買ってくることにしよう。


「殿下がそんな顔をなさるの、始めて見ました。お好きでいらっしゃるのですね?」

「違うっ」

「はいはい」


 そうか。好きなのか。この感情は。私はロレインが好きになったらしい。

 私は白身魚のパイ包み香草焼きにナイフを入れた。

 サクッと音がした。


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[良い点] ヒーロー、ようやくの、恋心を自覚! 次の話で、展開するのでしょうか?
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