文化祭② おばちゃんの必殺技『お節介』
みんな(演劇する人を含め)マスクの文化祭。
開催です。
「あ、ヤマちゃん。来てくれたんだ。
ちょっと待ってて、抜けられるかどうか聞いてくる」
そう言って雀卓の彼に後を頼みに行こうとすると、不意に服が引っ張られた。
肩越しにチラリと振り返ると、案の定、ヤマちゃんがこちらに手を伸ばしていた。
「平手で指したい、一局」
ヤマちゃんがジッと僕の目を見て希望を伝えてくる。
目を合わせて話そうとするのは彼女の癖のようなものだ。
目を合わせるというのは誠心誠意な感じに見える一方で、相手を威圧し、答えを催促しているようにも見えて少し苦手だけど。
「分かった。
ガチンコ勝負だね!」
机に置かれた将棋盤を挟んで座り、まずは先攻と後攻を決める。
僕は自陣の歩兵を5枚とり、シャカシャカ振ってぶちまけた。
「歩が4枚、と金1枚。
僕が先手で、ヤマちゃんは後手。
それじゃあ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「負けたー」
将棋部は雀卓の彼に任せ、二人で廊下を歩いていると、ヤマちゃんがまた悔しがった。
初めて手合わせしたときは駒の動かし方も分からず勝負にならなかったのに、今回は居飛車で棒銀を敢行してきた。
加藤一二三さんの十八番だ。
確かに、棒銀の攻めといい、中盤の盤面構成の練られようといい、努力の後がそこここに見受けられた。
ヤマちゃんも頑張ったはずだという自覚があったのだろう、常より悔しがっていた。
「強くなってるじゃん。
勉強したんだ?」
「……ちょっとだけ。
将棋、やっぱり楽しかった。
戦ってくれてありがとう、テル」
「いえいえ、どういたしまして。
……さて、今からどこ行こう?」
回りたい場所がないか尋ねると、「大体回ったからヤッさんの行きたいところに行こう」と返された。
それなら、と僕らは軽食がタダで頂けるという婦人会のバザーと休憩所に訪れることにした。
午後の来校者のためのわくわく❤️トリビア❗の増刷など、色々忙しくて昼食を抜いていたからだ。
とりあえず、一通りバザーに出品されていた小物類を見て、目ぼしいものがなかったから休憩所に移動した。
すると、とある婦人に声をかけられた。
「あらあらあらまあまあまあ!
ほらお二人さん、この席どうぞ。並んでお座り。
でもごめんねぇ、もう飲み物とかの提供はやってないのよ、ここ。
椅子以外のサービスがないのだけれど……」
「あ、そうなんですね。大丈夫です。
じゃあ少しだけゆっくりしていきますね」
ヤマちゃんが婦人ににっこりして、僕の手を引いて近くの椅子に座った。
普段ヤマちゃんは見知らぬ人と話すときは無表情なのに、この婦人に対してはニコニコの笑顔だ。
どうしたんだろう。
「ほら、座ろ。
露店も演劇も部活も、大活躍でつかれたでしょ?」
ヤマちゃんは先に座っており、僕の袖を引いて座るよう促してくる。
露店はともかく演劇では全く活躍した覚えはないけれど、お言葉にあずかって一服することにした。
一年生の教室展示を見て、二年生のステージ発表を聞き、「うん。」が口癖の数学の先生の数学講座に顔を出し、クラスの芸術担当が作成した妻楊枝アートを見て、ぶらぶらしていると、文化祭が終了する時間になった。
僕とヤマちゃんはホームルーム教室から離れたところにいたため、「閉会式は放送で行います。皆さん、各ホームルーム教室で待機してください」という放送を受けて焦った。
閉会式に間に合うかな?大丈夫だろうか?
「テル、ほら!走るよ!」
ヤマちゃんも焦っていたのだろう、放送を聞いた途端僕の手を取って走り出した。
元テニス部のヤマちゃんは足が速く、遅れないようついていったら、間に合った。
「露店の売り上げは切り上げ80000円!
儲けた儲けた~!
これで打ち上げ行くぞー!!」
露店の売り上げを集計していたパリピ男子が興奮した声を上げた。
が、担任が切って捨てた。
「コロナ禍だから、打ち上げとか寄り道とかは一切無しですよー。
あと、80000円じゃこの人数を賄えないわよ」
そうして僕らの最初で最後の文化祭は終わった。
3/12後期試験。
前期落ち、かつ私立に入学金を振り込んでいない人からすれば最後の砦となる試験。
自分の友達の場合、少なくとも5人は後期試験を受験しました。
努力のあとは結果だけ。




