文化祭① 一緒に回ろ
文化祭はコロナ対策ということで、例年は2日間にわたって開催される文化祭が1日に短縮され、しかも保護者の入場も一生徒一人までと規模を縮小して行われる。
先ほど開会式が終わり、通勤電車のドアが開いたときよろしく、廊下に人が溢れかえっている。
「ねぇ、最初どこに行く?」
ヤマちゃんが声をかけてくれた。
ヤマちゃんはホームルームで配布されたガイドブックを持ち上げ、聞いてきた。
「一緒に回ろう?」
申し出は嬉しく思った。
けれど僕には露店の接客業務がある。
すぐに露店へ移動しなければならない。
「ごめん、11時まで露店にいないといけない。
他の人を誘って。
ほら、いつも一緒にお弁当食べる人たちとか」
コロナ禍での昼食は、自分の席で、前を向いて、マスクをはずしている時はなにも喋らないで、食べなければならない。
ただ、黙食の徹底が形骸化した今となっては、クラスメートの多くは席を移動して友達と集まって食事を取っている。
ヤマちゃんはいつもは女の子と一緒にご飯を食べるから、その友達もヤマちゃんと一緒に文化祭を楽しみたいに違いない。
「……うん、分かった。
午後は?」
午後は演劇の出演が12時から、1時からは将棋部主宰の自由対局、指導対局を切り盛りして欲しいとお願いされている。
「うーん、3時くらいからなら、おそらくたぶん大丈夫」
「分かった。
2時半に将棋部のスペースに顔出すから、抜けだせられたら一緒に回ろ」
「いいよ。
じゃあ楽しんで」
「うん」
教室内に戻ってお弁当仲間と話し始めたのを見届けてから、僕は露店へと足を向けた。
「二冊ください!
うちの子にも読ませますね!」
「生活にも役立ちそう」
「夫がこういうの好きなのよねー」
わくわく♥️トリビア!は、製作当初はボロクソな言われようだったが、蓋を開けたら驚き桃の木山椒の木。
始まって2時間しか経っていないのに飛ぶように売れている。
「わくわく♥️トリビア!、残り20部でーす!
お買い求めのかたはお急ぎくださーい!」
1冊300円という微妙な値段でありながらまた10部が売り切れ、宣伝担当のクラスメイトに数字を訂正させる。
「わくわく♥️トリビア!、残り10部でーす!
お買い求めのかたはお急ぎくださーい!」
そうして僕の担当時間終了を少し過ぎた頃、露店を売り切れの歓声が包み込んだ。
3時間ほどで300部を売り切った最初で最後の文化祭は後に、後輩の間で『わくトリの奇跡』と呼ばれるようになったとか、ならなかったとか。
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演劇の題目は『狼とヤギのおばあさん』。
あらすじとして、おばあさんヤギの留守中、家を訪れた狼が孫ヤギを丸呑みにし、おばあさんヤギが孫を救出して狼のお腹にハイエナを詰め込んで湖に沈める物語だ。
僕の役は狼の子分のハイエナの手下のヴェロキラプトルだった。
最後にはおばあさんヤギに懐柔され、ヤギ仲間となる。
おばあさんヤギが狼のお腹を開くときに僕の爪を使うという、ただそれだけが見せ場だった。
爆笑と拍手喝采をいただいた。
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将棋部はそこまで盛況ではなかった。
部員の一人に「麻雀部に改名しましょう!」という輩がおり、彼が持ってきた雀卓の方が人気だったくらいだ。
それでもポツポツとやってくるお客さんを相手にはさみ将棋をしたり、将棋崩しをしたり。
そうやって楽しい時間を過ごしていると。
「一局、平手でお願いします」
ヤマちゃんが現れた。
前期試験の合否がわかり、明日が後期試験。
前期で不合格だった受験生として最後のテストになります。
ラストスパートですね。
ちなみに自分はパリピ孔明を全力視聴しました。
気分⤴️⤴️でいきましょう!