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8月のある日③ 霞ヶ関さんのコウいじめ

今年は文化祭が開かれるかもしれない。


コロナ禍になって(つまり僕らがちょうど一年生になったときから)途絶えていた文化祭が開催されるのではないか、という噂があった。

とりわけ三年生が噂の真偽を知ろうとやきもきしていた。




そんな中での文化祭開催の告知。


規模を縮小して、とのことだったが、「最後の思い出になる」とみんな浮き足だった。


何とかして開催しようというのは、感染者数は少なくないとはいえど医療体制に余裕が出てきたからか、一度も文化祭を経験せずに卒業させるのはあまりにかわいそうだという恩赦からか。


とりあえず、楽しみが増えて僕も嬉しくなった。




「ねぇ、みんな聞いて!

文化祭を主導する委員を決めたいと思ってるんだけど!

誰か文化祭委員になりたいっていう人いる?」


教壇に立ってクラスをしきっているのは、通称霞ヶ関さんだ。

生徒委員で先生からほとんど全権を委任されている。

別に内閣と関係がある人というわけではないが、明るくあけっぴろげな性格で、日本の行政よりよほど信頼して任せられる人だ。


「ゴホッゴホッ……か、霞ヶ関さん!

文化祭委員って何すんの?」


聞いたのはコウだ。

アメリカ人っぽく足を組み、アメリカ人っぽく堂々と質問している。

最初に咳き込みはしたが、彼は(ある種の病気ではあるが)風邪ではない。

この咳き込みは気持ちを整えるためのものだろう。


「なんか、委員会に出席して、そこで話したり決定した内容をあたしたちに伝える役らしい。

でしょ?先生」


鹿児島出身で濃い顔をした女の担任が鷹揚に頷いた。


「そうね。

文化祭全体を取りしきる人のことかしら。


委員会に出席するのは文化祭委員だけだけれど、役職は他にも演劇担当、芸術担当、露店担当の3つがあるから、自分にできそうなのを選んでほしいわ」


 文化祭は普通科と探求科それぞれで演劇を披露し、各学科で芸術の作品と露店で売るものを作成するらしい。

 演劇は台詞と動きを覚えなければならないから、それに大勢の前で大声を出す必要があるから、僕にはできない。

 そして僕には芸術のセンスがない。

棒人間が関の山だ。

結局、露店に出す作品程度なら何とか自分でもできそうかな、と当たりをつけ、露店グループに所属することにした。

僕は「忙しそうな露店担当以外なら下っ端でいいや」と、どの重要そうな役職にも立候補しないことにした。


みんなが考えることは同じだ、担任が聞くからに面倒臭そうな役職を挙げると、途端にクラスメートたちは俯きだす。

自分に役職が回ってこないよう、心の中で十字を切っているに違いない。

やはりダルそうなことは避けるに限る。



事態が動いたのは霞ヶ関さんの提案からだった。


「ねぇコウくん、文化祭委員、やってくれない?」


「つむじしか見えん」とぽそりと呟いた霞ヶ関さんは、コウを指名した。


いきなり名前を呼ばれた彼は、突然しどろもどろになった。


「えっ!?

いや、俺はそんなん、ほら、だって、あれやん……」


「コウくん、何があれなの?」


「ヒュッ!!」


鋭く息を吸う音が聞こえたかと思うと、何でもない何でもない何でもない、とコウは首を横に振るばかりだ。

それを見た霞ヶ関さんが驚き、駆け寄って「大丈夫?」と尋ねる。


「ヒッッッ!!」


霞ヶ関さんを一瞥したコウは一瞬相好を崩し、そして声にならない叫び声をあげて、机に突っ伏した。

……耳が赤い。




……僕らは毎日のように、コウの挙動不審を見させられている。

気付いてあげてくれ、霞ヶ関さん…………

分かりやすすぎるコウに、霞ヶ関さん以外のクラスメイト全員が嘆息した。


かれこれ2年間、コウは霞ヶ関さんに片想いしたままなのだ。


さっきアメリカ人のふりをしていたのも、どうせ、挨拶感覚でハグできる人種にあやかりたかったのだろう。

そうしないと緊張でうまく話せなくなるから。 



「お願い、コウくん。

文化祭委員になってくれるよね?」


こくこくこくこくこくこく


「ありがとっ!

じゃあさっき先生が言ってた他の3つの担当も決めちゃお!」


鈍感な霞ヶ関さんのことだ。

掌を合わせたお願いポーズも計算したわけではないのだろう。

今日、3/7、国公立大学前期試験の合格発表が続々と出ています。ドキドキ。

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