後期試験、しゅーりょー!
二次試験が終わってからも僕らは後期日程のための勉強を続けていた。
詳しくは僕とヤマちゃん、ショウが学校で三人だけで机に向かう。
僕は京都府立大学、ヤマちゃんとショウは京都工芸繊維大学の後期日程を受験する予定だ。
工学系の学科を選べば共通テストに加え個別テストで数学が実施されるため、その勉強をするのだそうだ。
とはいえ、ヤマちゃんは医学の道に進みたいから工繊大に行くつもりはないらしいけれど。
高校の合格実績を上げるためか、眉毛の濃い先生に「受けてくれない?」って言われたんだそうだ。
とはいえ、府立大の農学系の学部は個別試験がなく共通テストの点数のみで合否が決まる。
正直勉強しなくても良いんだけど、ショウとヤマちゃんに付き合う形で勉強している。
連れションならぬ連れ勉強、なんつって。……我ながらおもんない。
二人はともかく僕は特に解く問題もないので、面談室から府立大の過去問を借りて勉強を続けた。
そうして二週間が経ち。
二人は後期日程を終えた。
受験が終わったその日、僕はヤマちゃんにライン通話をかけていた。
『試験お疲れさまー。前期日程が終わってみんな学校に来なくなったのに、よく頑張ったな』
『ううん、私はすごくない。テルこそずっと付き合ってくれてありがとうね。
(^.^)(-.-)(__)』
あー、会話に全然関係ないけど、ヤマちゃんの声心地いいー。
ヤマちゃんは丁寧に相づちしてくれるから、喋っていると自己肯定感が爆上がりするのだ。
うまく行けば僕は京都、ヤマちゃんは岐阜へ行くけれど、ときどきこうして連絡したりビデオ通話したい。
『そういえば今年の年賀状、遅くなってごめんね
( ´-ω-)
向こうに行っても年賀状かくからね(*´ω`*)』
うん!僕も書く☆
その言葉が口から出ると、思った以上に声音が弾んでいて、自分が心底ヤマちゃんとの連絡の取り合いを楽しみしているんだと気づいた。
居間から「そろそろご飯にするよー」と母の声が聞こえてくる。
僕は名残惜しいけれど通話を切ることにした。
「あ、呼ばれたから行かないと。
ヤマちゃん、これからたぶん別々の道に進むけど、ガンバっていこうな」
「うん、絶対すごい人になろうね!」
ヤマちゃんが何か逡巡する雰囲気を見せ、あーとか、んーと唸りながら悩んでいる。
「ヤマちゃんどうしたの?」
「それ!それ止めてほしい。その、ヤマちゃんって呼び方。
なんだか距離感じるから……あっ、でもできればでいいよ!いままでずっとヤマちゃん呼びだったから、変えたくないなら良いんだけど……」
なんでそんなことをいきなり、と思うけど、ヤマちゃんのお願いなら喜んで了承したい。
「いいよ。ヤマちゃん呼びは止める。
じゃあかわりになんて呼べばいい?」
「私が決めて良いの?!ホントに?!
じゃあ、えっと……私の下の名前覚えてるよね?」
「ハルカでしょ?」
「……よかったらハルカって呼んでほしい」
実はヤマちゃんのヤマは名字から取られている。下の名前はハルカで、爽やかな雰囲気を感じさせるかわいい名前だ。
『名は体を表す』とはまさにヤマちゃんのことだと思う。
違った、まさにハルカのことだと思う。
「おっけー。ハルカ、ね。今までヤマちゃんだったから間違えそうだなー」
「大丈夫大丈夫!気にしないで。どっちでも私だって分かるから。
それじゃあありがとね、私のお願い聞いてくれて。これからも仲良くしようね」
「うん、ズッ友だよ。通話切るよ(ピロン)」
通話を切る直前、ヤ、ハルカの大きな息継ぎが聞こえた気がした。
僕は特に気にせず、ご飯を食べに行くことにした。
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後期日程よりも前に卒業式は終わっており、もう学校には用事がない。あとは合否の報告で先生に話に行くときくらいか。
だから必然的に友達と会うこともなく、僕は家でだらだらアニメを観ていた。
そんな僕を見かねた母は言った。
「あんた、車の免許取ったら?」
その一言がきっかけで、僕は普通自動車のオートマ限定免許を取ることに決めた。
無理せず頑張ろうと思ったら卒検まで一ヶ月以上はかかるらしくて、どうせ京都の大学に進学する僕はのんびり免許取得を目指すことにした。
いつかハルカやショウ、コウとドライブ旅行に行けたらな、なんて思いつつ。
しかし、そんな計画は3/10、運命の日に再計画を迫られることとなる。
3月10日。僕は学校に来ていた。
インターネットで行われる京大の合否結果を友達と先生と一緒に見るためだ。
ハルカも、コウも、他にもたくさん友達が集まってくれた中で、肝心のショウは寝坊していた。
合否発表の時間になっても、京大受験者のショウは教室に現れず、まずは僕の結果から見ようということになった。




