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2月③ 教室デート

広々とした教室に2つ机を並べ、2人の受講者が座っている。

白髪交じりの女の先生が号令をかけ、僕らは起立礼してて挨拶を返した。

2人が着席し終えるより先に、せっかちな先生は話を始めた。


「えーっと、今日から京大英語対策の講座を始めるわけですが、受講者はあなたたち2人だけです!

これから増やすつもりはありません!

というのも、授業レベルのことは当たり前の知識として使える人を対象にしていますから。

アホな人とかやる気が見られない人がいても邪魔なだけでしょ?

授業はレベルが低い人に合わせないといけないけど、2人だけならガンガンいけるね!

2人は今のところ文句無いですから、この教室から追い出されないように頑張ってください」


褒められたようで脅された僕らは、つまり京大受験者である僕とショウは無言で顔を見合わせた。

悪寒めいたものをアイコンタクトで語り合う。


この講座はヤバイ。アホな人をカバーしないで良いから、この先生絶対に暴走する!


「ここでは教科書は使わず、私が配る大学の過去問を教材にするね。

教材は家で解いてもらって、学校で解説、ポイント説明とかするからね。

はいこれ、今日の分と明日の分を渡しとくし、今日の分を解いてください。

どうぞ!」


「あ、どうも」


パッと見、今日の分には英作文と英文読解の2つの課題があり、僕らは「どっちからする?」「うーん、読解からでよくない?」「オッケー」と囁き合ってから英文読解から解き始めた。


問題文に目をやると、そのこには"Anthropocene"とある。

僕は天を仰いだ。


『なんだよこれ。聞いたこともない単語なんだけど?

あぁ、ホント、どうしてこうなった!』


―――――――――――――――――――――


遡ること1日。

僕は眉毛の濃い担任に呼び出されていた。

そして呼び出されたのはショウも同じだった。

……思えばこの時から嫌な予感はしていたのだ。

京大を受験する僕とショウが同時に呼び出されるなんて、きっと勉強関連のことに違いない。

果たして数学の問題演習をさせられるのだろうか、いや、きっとさせられるのだろう。


「し、なんで呼ばれたか知ってる?(小声)」


小声で尋ねると、ショウは少し眉の端を下げ、「んー、たぶんねー」と言った。

数学好きのショウが呆れたような表情をしたから、僕はダル絡みしてくる数学の先生が呼び出したのだと確信した。

しかしながら、うん、が口癖の数学の先生に呼び出されたのだと思っていた僕は、職員室で待っていたのが別人で驚いてしまった。

時々髪を染めるのを忘れるから、頭のてっぺんがよく白くなる女の英語の先生がいた。

……どうやら昨日も忘れてきたらしい。


って、どうでもいいことは置いといて。

僕はショウに「英語教えてもらったら?」とアドバイスしたときのことを思い出していた。


「なぁショウ、数学関連じゃなさそうなんだけど?(小声)」


「うん。だろうねー。

俺が呼ばれたからってなんでもあの数学の先生のに呼ばれたからじゃないよー」


クスクスと笑うショウに「確かにショウ=数学の偏見を持ってたから、数学の先生に呼ばれたって簡単に騙されちゃった。なんという失態……!」と悔しい気持ちを味わっていたら、英語の先生が話しかけてきた。


「ショウ君からしか打診を受けてないのだけど、テル君も京大対策の英語の講座に出るってことでいいよね?

……ね?」


あまりに突然、強引な声音でてっぺん白髪の英語の先生からお誘いを受け、僕は反射的に「はぁ」と頷いてしまった。


「わかりました。問題は2人分用意しておくから、時間になったら図書館棟3階の教室に座り終えているようにしてください」


「え、あ、はい」


僕は流されるまま京大の英語対策講座への出席が認められてしまったことに茫然自失となり、気の抜けた返事を返したのだ。


―――――――――――――――――――――


さて、僕が手元を長いこと凝視してわかったのは、「空気重いから白髪先生の講座には出たくなかったのに、現状が不満だ!」という苛立ちが僕の中に(くすぶ)っていることと、いくら考えても結局"Anthropocene"は意味不明だった、という理由もない敗北巻だった。


カリカリカリ……ゴシゴシ、カリカリ


隣の席から聞こえる景気の良い音が回想に(ふけ)る僕を現実に引き戻した、

シャーペンが走る音が長く続けば続くほど、僕は彼からより一層の遅れを取ることになる。


『負けてたまるか!』


僕は彼への対抗心煉獄の焔のように燃え上がらせ、"Anthropocene"のことは分からないから放っておいて英文に没頭した。


結局その後、僕の方が英語が得意だから、ショウよりも5分も速く問題を解き終えた。

もちろん正答率もショウよりも高く、途中感じた不満を忘れるくらいに晴れやかな優越感を覚えつつ、僕はその後の授業を受けていたのだった。

受験時になって付き合い始めるカップルも少なくないようですが、一緒にいる時間の長さで言えば、生徒と先生なんて恋人同士ですね。

さしずめ最前列に座っていた僕は先生の恋人筆頭とでも言えるでしょうかw

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