表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/48

12月のある日⑤ テルの妄想劇場

主人公の思考が気持ち悪い話です。

妄想でもしないと単調な日々ですから……生暖かく見守ってください。

僕は自宅で勉強している合間、京大に合格した後の、京大での大学生活を想像していた。


どんな教科を学べるのだろう。

どんなサークルに入ったら楽しそうかな。

でも授業に付いていけるかな。

登下校はどうしよう。

パソコンで何をしよう。

留学も楽しそうだな。

どんな新しい趣味を見つけているんだろう。


……目を閉じると、僕は京大の構内にいた。

次の授業がある建物に向かって急いで自転車をとばす。

京大は教室を自転車で移動しなければ授業に間に合わないくらい広大な敷地を持つ。

自転車を降りた僕は石の窪みに自転車を差し込み、教室へと急ぐ。

次はなんの授業だったっけ?


ふと音が聞こえだして目を開けると、父がテレビでグルメドラマ番組を見ていた。

テレビの中では男の人が1人、飯屋を探してうろうろしていた。


……手で目を覆い隠すと、目の前に将棋盤が見えてきた。

部室だろうか、京大にも将棋部があるのは確認済みで、たぶん僕はその将棋部に所属している。

京大は全国でも強豪校で、屈指の棋士が勢揃いしている。

どんな戦いをしているのかという盤面は見えないけれど、僕が簡単に負けたことは分かった。

僕と手合わせしてくれた先輩(顔は見れないけれど)は「筋があるよ」と褒めてくれた。

先輩に「お強いですね」と言ってしまってから「負けて悔しそうにしていないから向上心ないなコイツって思われるんじゃ?!」と僕は内心で後悔している。


姉がカレンダーとスマホを持って隣に座った。

カレンダーに何やら書き込んでいて、忙しそうだ。

友達と遊びに行く予定でもたてているのだろう。


……僕は目蓋の裏で兄と会っていた。

「合格おめでとう!これで兄弟2人で京大かぁ。

よし、今日の昼は俺がお勧めのラーメン屋で好きなやつ奢ったる」

最近発見したのだという「多くて安くて旨い」という隠れた名店に連れていかれる。

どんな店かはよく分からないけれどとても美味しいんだと思う。


妹のパソコンの打鍵音が耳についた。

WASD辺りのキーボードに触れているのを見ると、原始の神々で戯れているのだろう。

ほとんど全ての娯楽がかれこれ数ヶ月封じられたこの生活では、もはや「ゲームやりたいなぁ」という気すら起きない。

大学になったらゲームしようかな、いや、忙しくてそんな時間ないのかもな。


……お茶を口に含むと新緑の匂いが鼻腔をくすぐった。

木々の緑が僕に強く主張している中、僕はその木々の下に立て掛けられた長方形の板を眺めている。

とあるアニメの主人公を模しているのか、板全体がまっピンクに塗りつぶされ、黄色と青の正方形とピンクの三日月形が板の左側面上方にくっついている。

「これが噂のタテカンかぁ」

と感慨深く思っていると、背後から僕の名前が呼ばれる。

そうか、もうこんな時間か。

「わかってる!今行くよ、ショウ!」


見知った名前が出てきて、僕ははっと覚醒した。


「なんでアイツまで合格してるんだよっ!」


僕は僕が心の奥底では「自分ですら合格できるなら、僕より賢いショウはきっと合格しているのだろう」と認めてしまっていると気づいて、腹立たしかった。

いつまでたっても2番手は嫌だけれど、心のどこかで


「天才肌のアイツにはプレッシャーも劣等感もない分、良いパフォーマンスができているのだろう」


と彼の実力を認めている自分もいて、半ば諦めがつき始めていることを自覚していた。

できるショウのことは考えていても仕方ない、と僕は再び目を閉じた。


……頬を撫でる風があり、「さっきまでとは雰囲気が違う」という違和感を感じて、僕は恐る恐る目を開けた。

僕がいるのは京大ではない大学の構内のように思われる。

ぼやっとしてあまり校舎の色も形もよく分からない。


「あ、テル!

LINEで聞いてはいたけど、本当に合格したんだね!

おめでとう!」


いたって平凡な女の子の声がする。

そして誰より真面目で努力家の女の子だ。


「うん、ありがとう。

僕も報告を受けていたけど、君もおめでとう。

本当におめでとう!」


彼女はお得意の破顔で僕の気持ちまで高揚させる。

彼女といるとどうにも「僕にずっとこの笑顔を向けていてほしい」と感じてしまう。

だから僕はここまで彼女に付いてきたんだ。


「さぁほら、新入生歓迎会がそろそろ始まるみたいだよ。

行こう、ヤマちゃん!」


僕は彼女に手を差し出し、彼女は少し頬を赤らめて僕の手を……


ってナイナイナイ!!

ヤマちゃんと一緒にいたくて医学部に行くとか、どんなストーカーだよ!

妄想で熱くなった顔をクールダウンさせるため、僕は12月も終わりに近づいているのにあずきバーを冷凍庫から取り出し、開封した。


…なめてもなめても減らない……。

クールダウンし過ぎて頭が痛くなってきた。

……仕方ない、あずきバーだけど齧るか。

ようやく次から1月編。

共通テスト(1/15,16)までもうすぐです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ