妹
妹は高校入学と同時に
「研究で使うから」
とパソコンを親に買わせた。
高校がSSH指定校であり、生徒は一人ひとつテーマを探求するらしく、妹はカニバリズムについて研究している。(SSHとは"Super Science High school"の略で、理数系の学習や研究活動に力を入れる高校に対して与えられる称号である)
六人家族で食費、学費がかさばるため、余剰のお金などないはずだけれど、パソコンを買うだけの余裕はあったようだ。
話は変わるが、妹はすみっコぐらしが好きで、特に薄い緑色の生き物がお気に入りらしい。
そんな妹自身、隅っこ暮らしが好きだ。
リビングの部屋の隅に座布団を敷き、そこに座ってカタカタするのだ。
休日はずっとパソコンに向き合ってカタカタカタカタ。
よく飽きないものだと思う。
「何やってるの?」
二人っきりのときに問うと、妹は実は……と切り出してきた。
「……原神っていうゲーム」
長髪の姉と違い、妹はショートヘアーでパンツ姿のボーイッシュ系女の子だ。
チラリとこちらを見やってすぐに画面に目を戻し、低めの声を出した。
「あ、知ってる!
売り上げがものすごいっていう、有名なゲームでしょ?」
「ん」
妹は動かしていた手を止めると有線イヤホンを外し、首を傾けた。
「……やる?」
別に脅迫したわけでも強引に奪ったわけではない。
単純に兄想いの妹なのだ。
「Wが前、Aで左、Sで後ろ、Dで右に移動できる。
やってみて」
言われたとおりにキーボードを押すと画面のイケメンなキャラクターが縦横無尽に動き回った。
「へぇーー!すごい!
確かに、これは売れるな!」
無知というのは怖いもので、初めて原神のようなRPGに触れた僕は驚きと感激で画面に目が釘付けになってしまった。
その後は一通り敵との戦いかたや鉱石や植物の採集方法を教えてもらい、楽しませてもらった。
それはもう。
エンジョイさせてもらった。
どこぞの洞窟へと探検に出た僕を尻目に、妹は外出の用意をし、リュックを背負った。
「……はぁ、やってていいよ。
終わったらパソコン閉じといて」
なんとも受験生の兄想い(?)な妹である。
その後1時間、キャラクターのHPが無くなるまで遊ばせてもらった。
パソコンを買った本来の目的から外れているようだけれど、なかなか楽しかったし、父母に告発するのはまた今度にしようと思っている。
明日、明後日から中期試験の結果発表でしょうか。
合否がわかるまで暇をもて余していることでしょう。
友達は中期の大学に行くかも、なんて言っていますね。
そりゃ、予備校に進学したい人などどこにもいませんからね。