兄
兄は京大生だ。大学2年生だ。
そしてその肩書きが似合うほど変人だ。
僕の言う意味での変人とは、狂人モドキではない。
奇声を発したり奇行に及んだりといった、普通の人がしないことをするわけではない。
「普通の人が理解できない常識的な行動をする人」という意味だ。
先日のことだ。
兄は3台目のパソコンを買った。
別に1台目、2台目がお釈迦になったからではない。
2台とも存命であるにも関わらず、
「3つあった方がいいかなと思って」
ということらしい。
確かに兄は大学の授業や外部資格試験の問題作成班のリーダー、大学院の研究室での自分の研究など忙しそうではあるけど、さすがにパソコン3台目は意味がわからなかった。
これはだいぶ前のこと。
20歳になってすぐくらいのことだ。
兄は「自分の限界を知りたい」と言って、日本酒や缶ビール、焼酎を用意し、片っ端から飲んだ。
テレビでパイレーツオブカリビアンを観ながら、しこたま飲んだ。
観始めて2時間くらいだろうか、兄は突然立ち上がり、トイレへと駆け込むと、その後1時間ほどトイレは占拠された。
吐き気が収まりトイレから撤退した兄はすぐさまペンを取り、自分が飲んだお酒の量とアルコール度数から計算し、一度に摂取することができるエタノールの体積(ml)を導きだした。
「これで俺の許容量が分かった!」と清々しく宣言した兄に家族から生温かい視線が送られたのは言うまでもない。
次は日常的にある話だ。
兄は会話の中にちょいちょい英語を挟む。
最近のお気に入りは"rational(合理的な)"だ。
この前、僕が受験が終わり暇にしていると、兄はディズニー+の宣伝の葉書を持ち出して
「3月末までにディズニー+に新規登録したら無料で映画とかアニメを観られるらしいよ。暇だったら登録したら?」
と提案してきた。
僕が
「でも大学生になってからAmazon Primeに登録した方が半年間無料だし、その後も250円くらいだし、そっちの方がお得なんじゃないかな?」
と言うと、兄は
「あぁ、それはrationalだ」
と言って引き下がった。
まだまだレイショナルブームは続きそうだ。
そういえばこんなこともあった。
兄はドル円為替で取引し、収入を得ているのだが、一日で20万円儲けていたのだ。
普通の人がどれだけ儲けるかは知らないけれど、僕にとっては大金だ。
驚いて、「この調子なら億万長者だ!」と兄に言うと、兄は「フハハハ!全部京都記念のエフフォーリアにつぎ込んだ!フハハハハハ」と壊れてしまった。
エフフォーリアは競馬の馬で、とても強く、京都記念でも二番人気と期待の星だった。
しかし京都記念のレースで心臓に異常をきたし、レースは競走中止、引退が発表された。
つまりエフフォーリアは最下位で、兄の財産は吹っ飛んだわけだ。
賢いなら競馬なんてするなよ……
兄が何を考えているのか、よく分からない。
正直のところ、面倒臭い兄ではあるけれど、話していて楽しい人で、家族に優しい人で、滅茶苦茶賢い人で、とっても尊敬できる人だ。
カジノや賭け事には暗黙のルールがあります。
『最後にはカジノが勝つ』
必ずカジノが儲かる仕組みになっているのです。
でも、もしかすると。
ブラックジャックでならカジノを出し抜けるかもしれませんね!
(映画『ラスベガスをぶっつぶせ』参照)