姉
「チョコ欲しい?」
食卓のお誕生日席に座って勉強していると、左隣にドッカと腰を下ろした姉が声をかけてきた。
小さなチョコを5つ、掌に乗せている。
無類のチョコ好きの僕にとって最高のオファーだ。
「いる。どうもどうも」
手を出して取ろうとすると、
「まぁ別に、あげるとは言ってないけどね!」
姉は意地悪く笑ってチョコをカバンの中にしまおうとする。
チラッチラッと僕の方を見てくるから、僕に食い下がって欲しいのだろう。
のせられるのは何だか癪だけれど、チョコのためだ、チョコっと食い下がろう。
「えー、欲しい欲しい。
5個じゃなくてもいいから、4個でいいから」
「お前、ちょっとがめついな……
まぁ、あたしもチョコ食べたかったし、4個だけあげる。
感謝しなさいよね!」
「うん、ありがとう」
「どったま~!」
見事チョコをゲットした僕はいったん勉強の手を止め、至福の時間に入ることにした。
ちなみに、『どったま~!』とは『どういたしまして~!』の略らしい。
「え!何これ、おいしい!」
チョコにかじりつくと、歯が当たったところからチョコが溶けていき、すぐに真っ二つになった。
口の中の片割れを舐めると、甘いチョコレートの味が舌の上に広がり、濃厚な芳香が喉から鼻を経由して体外へと出ていった。。
カカオ30%くらいだろうか、甘くてもイケるクチの僕にとってドンピシャの味わいだった。
「美味いでしょー。
あたしが勤めるところから拝借してきたの。
MMっていうブランド」
「ふーん。
確かにこれ、めめっちゃママイウー」
「えーっと、イコカどこ行った?
これからバイト行かなくちゃだからなー。
イコカでイコカ~」
姉は下手なだじゃれを聞かなかったことにしてくれたようだ。
お返しに僕も姉の下手なだじゃれを聞かなかったことにする。
姉はしばらくカバンを漁るとおもむろに立ち上がり、洗面台のある部屋へ鏡を取りに行った。
手早く化粧を済ませると、バビュン!という効果音と共に出掛けていった。
「行ってきまーす!」
「行ってらー」
受験生になって変わったことはあまりないです(自分が日頃から勉強していたからかもしれない)。
それでも日常の些細な出来事で受験を意識させられることがあります。
ex1)家族とちょっとした遠出の帰りに
「テルが居るから晩御飯は外食せずに、家に帰ってからにしようか」みたいな時。
ex2)洗濯や料理の配膳など、家事を手伝うと
「別に手伝わなくて良いよ。勉強しとき。
ほーら!うちの女子ーズ(姉と妹)!受験生を働かせるな!家事手伝ってー!」みたいな時。