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鳥籠姫の低空飛行

作者: まれすけ

 


 深い、深い森の奥、そこに私の家があった。

 大好きな母と二人きり、山小屋のような小さな家で暮らしていた。

 決して贅沢な暮らではなかったけれど、優しい母と協力して過ごす毎日が大好きだった。

 特に好きだったのは、夜、子守唄代わりにお母さんが読んでくれる絵本だった。

 「こうして、お姫様は王子様と幸せに暮らしました。おしまい」

 パタン、と本が閉じる音がする。

 「王子様はすごいねぇ!どんなお姫様も幸せにしちゃうんだもん!」

 私は思わず、その場で手を叩いた。

 お母さんの話してくれる物語のお姫様は、どんなに辛い状況でも、最後は王子様がお姫様を救ってくれて、二人幸せになる。

 私は、そんなお姫様に憧れていた。

 「私もお姫様になりたいなぁ……」

 私が溜息混じりに呟くと、お母さんは、困ったような、よく分からない表情を浮かべた。

 「……ねぇ?お母さんしか知らない、とっておきの物語、聞かせてあげようか」

 お母さんは私の瞳の奥に誰かを見つめているような、そんな眼差しで私を見た。

 「……うん、聞きたい」

 聞いてはいけない、そう私の中の何かが囁いていた。

けれど、大好きなお母さんがつむぐ物語に、好奇心を抱いてしまったのだ。

 母は、私の返事を聞いたら、本棚から私が見たことのない表紙の本を取り出して、それを開いた。

 風がなびく。

 それとともにめくれた本のページは、全て白紙だった。











 昔々、あるところに、美しい国に住むお姫様がおりました。

 お姫様の住む国は、緑が豊かで、国の住んでいる人たちも優しい、暖かい国でした。

 けれど、お姫様の十七歳のお誕生日の日。大きなパーティーが開かれました。それは、お姫様をお祝いする為のパーティーではなく、王子様を迎えるためのパーティーだったのです。

 お姫様は言いました。

 「私は好きな人と結婚したいわ」

 王様とお妃様は言いました。

 「姫よ、今国は大変な状況にあるのだ。強い国とお前が結婚してくれれば、この国皆が助かるのだぞ」

 お姫さまは考えました。自分と国の皆、どちらが大切なのかを。

 「そうだわ、メイドに私のふりをさせればいいのよ」

 こうして、お姫様は、自分に似ているメイドを見つけ出し、メイドにお姫様の格好をさせて、パーティーから逃げ出したのであった。

 身代わりを命じられたメイドは、きれいなドレスを着せられました。

 「私じゃないみたい……」

 メイドは鏡に映る、知らない誰かに見ほれながらも、王子様を探し出す、という任務を頭に叩き込みながら、慣れない格好でパーティーへと参加しました。

 パーティーには、色々な国から王子様が集まってきました。小さな王子様から、王様と同じくらいの王子様。お姫様は誰を選べばいいのか悩みました。

 そんな時、美しい顔立ちをした王子様が話しかけてきました。

 「姫よ、お誕生日おめでとうございます。よければ私とお話し願えますか」

 王子様はとても優しい人でした。

 メイドは自分がメイドだということも忘れ、パーティーが終わるまで、王子様と話しを楽しんでいました。

 そして、魔法がとける二十四時。メイドは、また会いましょう、と嘘の約束をして、王子様と別れました。

 あれから、お姫様は、王子のことをお気に召したらしく、メイドにたくさんのお金を渡していきました。

 しかし、メイドは、王子のことを忘れられず、お城を去っていきました。

 ところが、それから少し経ったあと、メイドの元に王子が現れました。

 「パーティーで出会ったのは君だよね」

 王子は、姫の嘘に気づき、メイドを探し回っていたのです。

 「僕と一緒に来てくれないか」

 王子の手をメイドは取りました。

 けれど、それを知った姫は激怒しました。

 そして半ば強引に、王子と姫の結婚が決まりました。

 メイドは、「仕方ありません。 身分が違うのですもの」と、王子の元から去ろうとしましたが、王子によって地下牢に入れられました。

 王子は言いました。「私はこの女に騙されただけだ。だからこの魔女は一生牢に閉じ込めよう」と。

 地下牢に入れられたあと、王子はメイドに言いました。

 「すまない。 こうするしか方法がなかったのだ。でも、ここでならずっと一緒だ。 どうか、一生私の傍にいてくれ」

 王子はそう言って永遠の愛を誓ってくれました。









 「おしまい」

 母は、パタン、と白紙の本を閉じました。

 私は、何とも言えぬ複雑な気分になりました。

 「お姫様……メイドは幸せになってないよ?その物語の王子様は絵本の王子様じゃないよ」

 私の言葉に、母はクスリ、と笑ったあと言いました。

 「そうね、彼は絵本の中の素敵な王子さまじゃないかもしれない。でもね……」

 母の手首に、なにか繋がれていた痕が見えたのは、多分私の気のせいだろう。だって、

 「でもね、弱い王子様だって、いるのよ?」

 お母さんがメイドだとしたら、こんな幸せな顔をしているはずないのだから。


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