23.ひとりぼっちのヴィクトリー
ついに書籍発売です!有難うございます!!
ということで記念更新です。
読み飛ばしにご注意ください。
不思議な赤い男と出会い、ソフィーリアの見る景色は一変した。
あ、ロマンチックなラブロマンス開幕! とかではないぞ。もちろんだ。安心したまえ、ソフィーリアの初恋は、リヴィオニスの前に弾けて花咲いた脳みそ殉職事件である。あれは劇的であった。もはや劇薬。
そんなんでなくて、隠喩でなけりゃ皮肉でもなく。文字通り、がらりと、ソフィーリアの目に映る景色は一変したのだ。
だって、なんか光ってる。
きらっきらだ。
赤い男のように息が止まるほどの印象的な光はなかったが、誰しもが光を纏っていた。偉そうなお大臣様も街ゆく親子も、ワンコさえも。
いや、生き物だけじゃあない。
植物にも、時には無機物にすらその光はあった。図書室にある本が光っている様なんか幻想的でちょっと感動的。
ソフィーリアは新しい景色をすっかり気に入ったわけだけども、人々はそのソフィーリアの変化に気が付かなかった。
バレるわけにゃいかんので、ソフィーリアはいたって普通に暮らしていたので。
ただちょっとした時間、意識を逸らしたい時間。馬車で揺られる時や父親の怒鳴り声がうるさい時などなど、ちょっとした時に、よいしょとめいっぱい集中して、赤い男と手を繋いだ時の感覚を思い出しながら目を凝らせば、ソフィーリアの目に映る世界は全く違うものに変わったのだ。
少しずつ、明確に、鮮明に、はっきりと視えるようになる光は、ソフィーリアの心に吹き抜ける風のようだった。
まるで、庭園で出会った少年と過ごしたあの一時のように。
ソフィーリアの世界が色を変えた14歳。
男の走り書きの通り、ソフィーリアは本に書いている事が理解できるようになった。
んで、まあ、理解出来れば実践したくなる。そりゃあそうだろ。人の性よな。
んなわけで、ソフィーリアは、こっそりと魔法の練習を始めたのである。が。
心を殺せと叩きつけられるようなクソ忙しい日々の中に、魔法を練習する時間なんて無いに等しかった。だあって毎日笑っちゃうくらいにやることが多すぎるんだもの。多忙で出来たケーキに多忙でできたシロップをたんまりかけたクソまっずい日々。うんざりする暇さえありゃしない。
それでも。
それでも、ソフィーリアは隙を見つけては魔法の練習を重ねた。
毎日へとへとで、必死で、ぼろぼろだったけれど、それでもやめられなかったんだ。
なぜって?
魔法の練習をするその瞬間は、全てを忘れることができたからだ。
自分の存在価値なんて、役割なんて、うんざりする事はなんにも考えなくていい。頭を使って頭を空っぽにする、なんていうと変だけれど。頭が痛くなるくらい魔力を練ることに集中している瞬間だけは、ソフィーリアはソフィーリア以外の何かでいられた。
繰り返し、繰り返し、繰り返しソフィーリアはその本を読み、魔力を練り、防御魔法を覚えた。
ああ、そして。
──初めて魔法を使った日の事を、ソフィはよく覚えている。
なんつっても、父親の拳を防いだ記念日だもの。
忘れようもない。あの、身体から湧き上がるような感動と、父親様の驚愕に彩られた顔!
思い出すだけで丸まった背筋が伸びるような、口元がによによしちゃうような気持ちに、ソフィーリアは達成感と名付けた。
まあ、父親はソフィーリアが魔法なんか使って、あまつ父親の拳を弾いたもんで激昂し、結果ソフィは酷い目にあったんだけれど、今となっちゃあ、それも良い思い出だ。中途半端な魔法ではいかんと、ソフィーリアは魔力を練って練って練りまくって、防御壁を磨き続けたのだ。おかげさまで、殴られたフリが上手くなり、傷を負う事はなくなった。ドヤ。
しかも今は旅の途中。リヴィオの足を引っ張らないようにするには、欠かせない力だ。
つまりソフィにとっちゃ、輝かしい勝利の記憶なのだが、な? 楽しい話ではなかろう?
楽しいで満ち満ちたこの部屋に、憐れみはいらない。
んなわけで、ルネッタに問いかけられたソフィはただ、「その後は本を見ながら練習を重ね、防御魔法が使えるようになった」とだけ話した。
ルネッタはこくん、と小さく頷く。
「誰の本か覚えていますか?」
無論である。
ソフィを助けてくれた魔法使いの名だ。忘れるはずもない。
「ルーベニスよ。家名はなかったわ」
「ルーベニスですか……! それは良いですね」
そうなの? とソフィが首を傾げると、ルネッタは頷いた。瞳がキラキラしている気がする。うーん、無表情なのに可愛い。
「赤雲の魔女ルーベニス。弟子は取らず、本を書くことを好む魔女だそうです。私も彼の著書を読みましたが、わかりやすくて、かつユニークな魔法式の組み方が好きです」
「そうなんです! とてもわかりやすかったの! だって、知識のない私でも魔法が使えるようになったんですもの」
「では……ソフィは魔女ですね」
ん?
そんな話だったろうか、とソフィは首を傾げる。
自分は独学だ、という恥ずかしい話のつもりだったので、思いもよらぬ台詞にソフィは瞬いた。
「言ったでしょう。ようは、魔女から魔法を学べば魔女なんです。魔女の魔法の使い方や思考が身体に染みついていれば、魔女ですよ」
「でも、本で読んだだけですよ? そんなことを言ったら、世界中魔女だらけになりませんか?」
「これから魔法を覚えようという人で、魔女の本を手に取る人は少ないでしょうし……それに世界中魔女だらけでも、べつに良いんじゃないですか?」
それはそうだ。そうだな。
そうなんだけど、魔女ってもっと特別なものなんじゃないのか。一子相伝、師匠から受け継がれる秘儀とかあるんじゃないのか。魔女認定とかないの??? なんだろうなあ。英雄が実は近所のおっちゃんだった、みたいななんともいえない落胆を抱え、ソフィは曖昧に頷いた。
「そもそも、本を読んだだけで魔法を使える人は珍しいそうですよ」
「そうなの……?」
「そう聞きました」
誰に? とか、じゃあルネッタは誰に魔法を教わったの? とか。
ソフィの頭には疑問も浮かんだが、なんとなく。なんとなく、その言葉が出てこなかったわけだが。
そんな細かいことを話してもしゃあない。
エーリッヒとエレノアの貴重な時間をだらだらと奪うのも気が引ける。
ってわけで、ソフィが簡単に、赤い男との出会いや本を見ながら学んだ話をすると、レイジニアンは、「うそでしょ」と目を見開いた。
「その男がルーベニスよ!」
「……え?」
え?
緊張で胃が痛いくらいドキドキする日をついに迎えました。
記念に、皆様に何かお返ししたいなと思い考えたのですが、やっぱり本編を進めるべきかなあと思い至りました。
そこで、発売日の10にかけて、10日間限定で連続更新を実施します。
10日間よろしくお願いします!





