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【書籍化&コミカライズ】婚約者の浮気現場を見ちゃったので始まりの鐘が鳴りました  作者: えひと
第4章:歌いたくなっちゃったので魔女が鐘を鳴らしました
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3.恋の色は幸福の色

 二人の了解を得たソフィは、光の儚さに不安に駆られ走り出したのだけれど。

 走り出すなやいなや、右手を取られた。


「ソフィ、森の中を走るのは危ないですよ」

「!」

「一緒に行きましょうね」


 ねって。ねって!

 首を傾げて微笑むリヴィオの可愛さったら! もう! そうやって微笑みゃあソフィが逆らえないとでも思ってんのか! 大正解だこんちくしょう。子供扱いするなと怒ることすらできぬ。

 ソフィはぐぐっと唇を噛んで頷いた。そうしなきゃ、口から変な声が滲み出そうだったので。

 だあって、大きくて骨ばった手にすっぽり収まる右手の感触が、最高にして最高なんである。

 きゅ、と握り返せば、リヴィオは満足そうに笑う。にっこり。かんわいい。おまけに、にぎにぎされてソフィは歯を食いしばった。はあん好き。


「紫のは、あれが視えているのか」

「見えんな」

「魔法は使えるのだろう?」

「うーん、僕にとって魔法は出すか出さないかの二択しかないからなあ。なんて言うんだ? 観察眼? のようなものを鍛える余地はないな」

「なるほど、零か百しかないのか」

「お前馬鹿にしてんだろ。僕が馬鹿なんじゃない、ソフィが凄いんだ!」

「へ、あ、いえそんな!」


 イマイチ話を聞いていなかったなんて、そんなそんな。

 首を振るソフィに、アズウェロは「たしかに、主は目が良い」と頷いた。


「人が妖精を目にする機会がなくなったのは、あれらが悪さをやめたからだけではない。人に見られぬように、姿を隠したのだ。魔力が視えぬようにと己に術をかけている」


 解説をするアズウェロの鼻に、ひらりと葉が乗る。くしん、とくしゃみをしたアズウェロに、リヴィオは首を傾げた。


「なんでそんな面倒なことを?」

「さてな。興味がないので知らん」


 いつものソフィであれば、鼻の頭をくしくと擦るもこもこした手に可愛いとはしゃいだが、それどころではなかった。


「!」

「身体を構成する魔力自体が消えかかっていれば猶更、姿を捉えることは難しい。魔力を視ることが得意だという魔女でも、これが視える者はそうおらんだろう」


 そこに倒れ伏していたのは、小さくも美しい命であった。

 光の束のような金糸に、伏せた長い睫毛、艶めく衣はまるで花びら。

 草花の中に身体を横たえる様は、ソフィが読んできたどんな本の描写も陳腐に思えるほどに美しかった。


 けれども、その美しさに見惚れている場合ではない。

 ソフィの手のひら程の大きさしかない命は、今にも消えゆこうとしているのだ。


「アズウェロ、どうすれば良い?」

「……そうだな。治癒魔法をかけてやるといい」

「怪我はしていないようだけど、治癒魔法で治せるの?」

「うむ。魔力が尽きようとしている。ならば、魔力を分け与えれば良いのだ」

「分け与える……」


 ソフィは両手で小さな体を掬い上げた。

 す、と息を吸い込む。

 治癒魔法は、まず魔導力を視るべしと()の魔女は言った。傷を負うと、身体を構成する魔導力にも欠損があるからだ。

 欠損を見つけたならば、あとはそれを塞ぐだけ。そうして傷を治すのだ、と。

 まあ、言うほど簡単ではなかったし、なかなかスパルタだった気がしないでもないけれど、旅を通してソフィの治癒魔法の腕は格段に向上した。ちょっとした怪我なら朝飯前のちょちょいのちょいである。


 ところが、この妖精は欠損を視るどころか、魔導力が希薄だ。その光はどんどん弱くなる。

 今や、集中し、目を凝らし、そうしてやっと視えるほどに薄ぼんやりとしている。ああ、なるほど。

 これが、死の臭い。


 ソフィがしくじれば、この妖精は死ぬ。


 手の平に乗せた一輪の花のような身体がひどく重たくなった気がして、ソフィの手は震えた。

 恐ろしい。けれど放り出したくない。絶対に嫌だ。

 やらねばならぬと、ソフィは魔力を練る。


「今日もソフィの魔法は綺麗だなあ」

「!!!!」


 ふいに耳が拾ったほわほわとした声に、ソフィはかっと頬を染めた。

 ソフィの魔法。

 それは、あれか。回復魔法を使う時、ソフィが放つ紫の光のことだろうか。そう、紫。紫だ。リヴィオの眼と同じ、紫。

 まあ、まあ。そりゃあ、そうよ。当然だ。

 だって初めて回復魔法を使った日、ソフィの頭ン中はリヴィオでいっぱいだったんだもの。

 というか、ソフィの頭はいつだってリヴィオでいっぱいだった。四六時中リヴィオのことを考えている。可愛い。格好良い。大好き。そんなお花畑な状態であるからして。

 今日も今日とて、ソフィの魔力は「リヴィオ大好き!」とばかりに紫色の光を大放出しているわけである。

 いや、もちろんリヴィオが大好きだってことに嘘はないんだけれど、ソフィにだって恥じらいがある。当の本人に何も知らない顔で「綺麗」なんて言われちゃあ。え、どんな顔をしたらいいんだこれ??


「ふっ」

 

 恥ずかしさが恐怖を塗りつぶした瞬間、ソフィは思わず小さく笑った。

 魔導力の頼りない光。終わりを受け入れたかのような、静かな横顔。

 この儚い花に、空っぽで薄っぺらなソフィに差し出せるものがあるのだろうか、なーんて、ね。

 ちょっと前のソフィなら思ってたかもしれない。

 うじうじ。ぐじぐじ。捨ててきたはずの過去をどっさり引きずり、強くなろうって口先ばかりの軟弱物だった。


 でも、今は違う。


 案外ソフィってのは骨太だな。ちょっとやそっとじゃへこたれない。

 そんで、いろんなモノをつめこんで生きてきて、それでも尚、色彩豊かな日々を与えられている。戦って、泣いて、笑って、恋をして、愛された身体のどこが薄っぺらだ。

 美味しいスープを平らげるソフィは、最近ちょっとスカートが苦しいんだから。


 やらねばならぬ、だなんて面白くもない。

 義務じゃない。高尚な正義感でもない。


 これは、ソフィがやりたいからやるのだ。

 見過ごしたくないから、妖精と話をしてみたいから、だからソフィは魔力を練っている。自己満足上等。何が悪い。


 そうだ。

 魔女の魔法は、自由そのもの。重苦しい恐怖なんて似合わない。

 この身体を満たす幸福が、恐怖なんぞに負けてなるものか。


「起きて!」


 まつ毛の下の瞳はどんなに美しいだろう。

 ワクワクする心を解放するように、ソフィは腹の底から叫んだ。



今日ははじかねコミカライズの更新日です!

みなさんご覧になりましたか?

ソフィがかっこいい!!!!かわいい!!

表情の切り替えがたまりませぬ。ルネッタもかんわ〜〜!!!

より「あの部屋」が禍々しくて感じられる城の美しさ……。見どころ満載です!

先読みは、いよいよあのお話です。

胸にぐっとくる先生のはじかねをお楽しみください!


そして、次に来るマンガ大賞のエントリー期間が近づいております。

ぜひぜひ推していただけましたら嬉しいです。

応援よろしくお願いいたします!

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