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【書籍化&コミカライズ】婚約者の浮気現場を見ちゃったので始まりの鐘が鳴りました  作者: えひと
第3章:花が咲いちゃったので新しい旅の始まりの鐘が鳴りました
133/146

81.わたしの可愛いベリーちゃん

先週更新できなかったので、本日二度目の更新です。

読み飛ばしにご注意ください。






「いや、それは」

「まあ待ってくれリヴィオ。すぐに返事をしなくて良いんだ。ゆっくり考えてくれ」

「えっと、」

「ソフィ、私の家族とぜひ会ってくれないか? 女性の友人ができたと知ったら、きっと喜ぶ!」

「え、ええっと」

「さあさあお馬さん方、お疲れでしょう。厩舎に参りましょうね。そこの君」

「はっ! お任せくださいアドルファス様」

「え! ちょっと、抹茶」

「ブヒン」

「行くのかよ!」

「それでは俺たちは公務があるので」

「夕食でまた会おう」

「エレノア?!」



 とまあ、押し切られるように押し流されるように、ソフィとリヴィオは庭に取り残された。

 ルールーの哀れむような視線が痛い。あのルールーに……


「では、私はこれで」

「え! 行っちゃうんですか」


 はい、とルールーはテオの頭を撫でながら頷いた。


「エレノアと挨拶しなくていいんですか?」

「今更」


 そんな。ソフィはしゅんとすると、ルールーは眉を上げた。


「あの甘ったれが、私たちとの決別を決意したんですから。良いんですよ」

「それは!」


 ルールーの前にエレノアが立った時。退かぬルールーを前に、エレノアが剣を振ったあの瞬間を、ソフィも覚えている。はたから見ていただけのソフィが全身を貫かれたような衝撃を覚えたのだ。

 不器用なこのドラゴンは、何を思ったのだろう。

 唇を噛むソフィに、ルールーは仕方がないものを見るように笑った。え? 笑った?

 ぽかん、と今度は口を開けるソフィに、ルールーはぽすりと頭に手を乗せた。


「貴女たちに出会えて、良かった」


 ぐん、とソフィは肩を引っ張られる。そのままぼすりと背中があったかくなって、リヴィオに抱き込まれたらしいことを知ったソフィが瞬くと、ルールーはパチンと指を鳴らした。

 すると、ふわ、と光がルールーとテオを包む。


「良い旅を」


 そうして、ルールーの姿は跡形もなく消え去った。

 あっという間の別れであった。


「……行っちゃいました」

「行っちゃいましたねぇ」


 はあ、とため息をついた二人は仕方が無いので、すごすごと宛がわれた部屋に戻ることにする。



「戻って来たか」

「わあ!」


 リヴィオの方の部屋のドアを開けると、アズウェロがどんと座っていた。

 久しぶりの、大きな熊の姿である。


「良いのか()()()で」

「他の者はノックをするだろう」

「あ、そうか」

「そもそも、ルールーとのあれこれの時に、見ている兵士の方も多いものね」

「まあな」


 にしても、部屋のど真ん中でこの巨体はいささか邪魔である。ソフィとリヴィオがいる場所ないんだもの。傍若無人なアズウェロとて、さすがにそれはわかったのか、ぽんと身体を小さくすると、そのままソフィの肩に着地した。小さいくまさんの姿に戻ったアズウェロは、その身体に似合わない相変わらずの良い声で「それで、どうなった」と首を傾げた。かわいい。


「出発しそこねました」

「私の言った通りではないか」

「むう」


 実はこの神様、「引き止められるに決まっているから、我はもう少し城を散歩している」と抹茶に会いに行く二人と逆方向に歩いて行ったのだ。「出発が決まったら呼んでくれ」と尻尾を揺らしながら。

 アズウェロと契約を結ぶソフィは、魔力を込めて名前を呼ぶだけでアズウェロを呼べるらしい。


「あれ、アズウェロ」


 神様のありがたーい予言通りに、一人と一頭、それから自由気ままな神様との旅がお預けになり、少々悔しいソフィの隣で、リヴィオが声を上げる。


「一人称、戻したのか」

「あ」

「あ?」


 何の話だろう?

 肩のアズウェロは、ソフィと目が合うと硬直する。なに。なんだ。柔らかい身体が、おもちゃみたいに硬くなってんだけども。それを問いただそうと口を開けると、アズウェロはポンと光るので、ソフィは思わず目を閉じた。眩しい! 人の肩で突如発光するだなんてひどい。

 目が、目がぁ!


「逃げましたね」


 くっくと笑うリヴィオの声が、近くなる。

 柔らかで低い、内緒話をするような声に、ソフィの背中はそそそっと撫でられたように粟立った。アズウェロよろしく、身体が硬まったところに、ほっぺに体温。ひい! ほっぺを、ほっぺを撫でられておりますソフィさん。


「大丈夫ですか?」


 ゆっくりとソフィのまぶたを撫でるのは親指だろうか。は? 大丈夫? 大丈夫なわけない。リヴィオのこういう、急な積極性はなんなんだろう。本人はきっと無自覚なので、指摘すれば二度と近づいてくれなさそうな危険があるため、ソフィはそれを口に出せないけれど、理不尽ではないかと思う。いや、理不尽だと思うソフィも理不尽であることは承知しているが、どんどこ上がる体温と跳ねる心臓がやかましいのだから仕方がないではないか。


「な、なんのお話、ですか」


 絞り出した声に、リヴィオは「ああ」となんでもないように言った。くう、理不尽! ソフィが眩しくて震えているとでも思ったのか、リヴィオは大きな手をソフィの目の上に乗せる。硬い手のひらは、リヴィオが剣を振り続けてきた努力の証だろうか。ちょっと良い匂いがするのはなんでだろ。ソフィの心臓がへいへいと飛び出していく準備をし始めてるんだけど。待て心臓よ。


「アズウェロ、船で船長に舐められないように『我』って言い出したみたいなんですよね。威厳がどうとか言ってましたけど、ちょっと可愛いですよね、あいつ」


 くくく、と忍び笑いする声が耳元で響くので、ソフィさんはそれどころじゃなかった。あ、いや可愛いエピソードだなってソフィも思う。思うよ。思うけど、感情の大半がぴーひゃら跳ねまくっているので、落ち着いて整理させてほしいなって思うわけである。

 でも離れたくないし。囁くようなリヴィオの声はとっても良いし。

 舞い上がりつつも悩んだ浮かれ脳みそくんは、えいやと心臓ではなく、ソフィの身体に号令を出した。


「!!」

「!」


 ぎゅっと抱きついて、ソフィはリヴィオの腰に手を回して、震えた。

 え、ほっっ、ほっっそ!!!

 どういうこと? こんなにがっしりしてるのに、背中の筋肉すごいのに、え、腰が、細い。硬いのに、コルセットしてます? ってくらい細い。コルセットしてるからこんなに硬いのか? っていやそんなわけはないので、ソフィは震えた。

 すごい、何がかわかんないけど、すごいわ……!!


「そ、そそそふぃ」


 ソフィの手は、上に行ったり下に行ったりぎゅっとしてみたり、さすさす忙しく動いたのだけれど、上から振ってきた声に静止した。


「!」


 で、ぼふん! とソフィの頭は破裂しそうになる。


「ごごごごごめん、ごめんなさい!!!!」


 人様の身体をさすさすさすさす、とんだ変態ではないか! その証拠に、リヴィオの顔は真っ赤も真っ赤。潰れた苺ちゃんみたいな有り様で、今にも泣きそうな潤んだ瞳は零れ落ちそうで、へんにゃりとした眉毛がもうたまらなくて、ソフィはごくりとつばを飲み込んだ。

 ソフィの心の中、開いてはいけない気がして封印した扉の向こうから、ドンドンとノックの音がする。ソフィは自分も負けず劣らず赤いだろう顔を隠すことなく、リヴィオの胸を押した。


「ふぇっ」


 リヴィオは、幼子のような声を上げた。かわいい。かわいいなあ! そのまま、たたらを踏んだリヴィオが、ぼすりとソファに埋まるので、ソフィはふふふと微笑んだ。

 それから、ソファに膝を乗せる。まあ、はしたない! と怒る人は誰もいない。だってソフィは、どこぞのお嬢様じゃないし。

 リヴィオを跨ぐように両膝をソファに乗せると、「ひゃあ」とリヴィオが鳴いて、きゅっと両足を寄せる。と同時に、目をぎゅっと閉じるそのお顔と言ったら!


 バアン! と盛大に扉が開く音が身体を貫いて、ソフィはうっとりと微笑んだ。


「なんて可愛らしいの、リヴィオ」

「!!!!!!!」


 人を簡単に膝に乗せたリヴィオはどこに行ったんだろうか。ソフィが自分から動いたときにだけ見られる、勇ましい騎士の顔などどこにも見当たらないリヴィオに、ソフィはわくわくきゅんきゅんぎゃんぎゃんした。可愛い。とっても可愛い。恥ずかしいなんて感情は、とっくにソフィの中にはない。少しでも長くこの可愛い生き物を堪能したいと、頬に両手を添える。


「!」


 すっっべすべであった。

 うそ、え? 石鹸何使ってるの? 化粧水何?? って正気に返りそうなくらい、すべすべ。これもウォーリアン家の強さの秘密なんだろうか。皮膚が強い的な。

 ずっと触っていたくなるほど素敵なお肌に惹かれるように、ソフィは顔を寄せる。ちゅ。


「!!!!」


 頬に。まぶたに。額に。鼻の先に。

 触れるたびに揺れるリヴィオの身体がおもしろくてかわいそうで、ソフィはうっとりした。


「なんだか今、リヴィオがわたくしだけのものって、とっても実感しているわ」


 ほうと息をつきながら言うと、リヴィオの目が開かれる。恐る恐る、といったように開かれていく紫の瞳。夜が落ちるような美しさと危うさに、ソフィの口から勝手にため息が漏れた。


「ソフィ」


 紡がれる己の名の、なんと甘美なことか。


「俺は、もうずっと、貴女だけのものですよ」


 真っ赤な顔でちょっぴり涙を浮かべて言う様は、ぞくぞくするくらいに可愛いのに、その言葉はソフィの心をこれ以上ないくらいに満たしてくれる力強さがある。

 世界にただ一人だけの騎士に、ソフィは微笑んだ。


「やっぱり、わたくしたち城を出なきゃ」








もうちょっとさらっと書くつもりだったのですが、コミカライズ11話のリヴィオが可愛すぎたので、ソフィの暴走が止まりませんでした。

あのお顔は反則……!!!!


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― 新着の感想 ―
[一言] こんなにたくさんのいちゃいちゃを一度に見せてもらっていいんですか!!!!!!!!!! ありがとうございます!!!!!!! ごちそうさまです!!!!!!!!!!!!!!!!! おかわりしにまた…
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