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一緒に(実話と創作のミックス)

タクシーで背の高い影と少女を見た部分は、Yさんの実話です。実話を基にしての創作となります

 あれは4年前の秋の事……

 私は、久しぶりに会う友人達と居酒屋でとても楽しい時間を過ごしました。

 結構、その女子会は盛り上がり、終わったのは夜中の2時位、当然終電もなく、肌寒かったのもあって数キロの自宅まで歩く気にもなれず、同じ方向に帰る友達1人とタクシーを捕まえて乗り込みました。

 タクシーの後部座席で、まだしゃべり足りなかったのか、それともお酒の酔いが心地よかったのか、友人との会話を楽しんでいました。

 夜中だけに道も空いていて、赤信号で車が止まるまで順調に進んでいましたが、その信号で私は何か違和感を感じて、横断歩道の方向に目を向けました。

 そこには、横断歩道を渡り始めた黄色い帽子に赤いランドセルの少女の姿がありました。

「こんな時間になんで? 」

 最初はそう思っただけでしたが、少女は渡る為に手を上げている様子ではなく、誰かと手を繋いでいるように斜めに手をゆるりと上げていました。そしてその手の先には薄ぼんやりとした影が……

 私がじっと目を凝らして見ていると、少女の隣りの影が急に濃くなりました。それは、身長が2メートルはあるかという、手足が異常に長い人影でした。

「あれ、何? 」

 私が恐怖に駆られて隣に座る友人にそう聞くと、友人も前を見ました。しかし、彼女には見えていないのか、首を傾げて、何もないよと言ってきます。ひどく酔ってるねと……

 タクシーの運転手さんも、私たちの会話を聞いて、前を確認する仕草をしていましたが、彼にも見えていない様子。

 そう、私にしか見えていない……

 酔っているからと自分に言い聞かせるも、はっきりとそれらは見えています。私は、恐ろしさのあまり眩暈を感じました。

 この世の者じゃない。それもすごく危険な魔物だ……

 私は、小さい頃から時々、他の人には見えないものを見る事がありました。霊感があるとは思っていません。ただ見えるものは見えてしまうのです。私には彼らをどうする事も出来ませんし、見たくて見ている訳でも、見ようとして見える訳でもありません。

 私は、ただ茫然として少女と長身の影を見ていました。横断歩道を歩いて行く謎の2人を……

 その2人がタクシーの前まで来た時に、彼らは立ち止まりました。そしてゆっくりと少女は私を見てきました。少女の口が何かを言うかのように段々と開いて来て……

「一緒に行かない? 」

 いきなり私の左の耳元で女の子の声が……

 私は、びっくりして声の方向に顔を向けました。そこには私の顔にひっつかんばかりの距離で黄色い帽子の少女の正面を向いた顔が……

 私が驚愕して、その横顔を見ていると、少女は目だけをこちらに向けてきて、口元(くちもと)がにっと笑って……

 そこで私の精神が耐えられず、ぷちっと音が聞こえて来るように、記憶が途切れました。

 友人に揺さぶられて、私は目を覚ましました。

「急に寝ちゃって、もう。あんたの家に着いたよ。早く起きて」

 車内から外を見ると、私の住むマンションの前でした。

 あれは夢だったのか?

 メーターを見ると4千円を越えていたので、彼女に5千円を渡し、楽しかったよ、また女子会やろうねと言ってタクシーを降りました。

 友達を乗せたタクシーが見えなくなるまで見送ると、私はマンションのホールに入りエレベーターに乗って、自宅のある5階まで上がりました。

 自宅前まで酔っていたのもあって、ふらふらしながら歩いて行き、ドアの前でハンドバックを探って鍵を出している時、何かの気配を感じて、廊下の右側に目を向けました。その先には黄色い帽子に赤いランドセルの少女が立って、ニッと笑っていました。

 私は、恐怖で半狂乱になり、慌てて出した鍵を鍵穴に差し込もうとしましたが、手が震えて中々入りません。やっと鍵穴に鍵を差した時、少女のいる方向とは反対方向から、カリカリという音がしました。恐る恐るその方向を見ると……

 そこには、手足の長い長身の黒い影が壁や他の部屋のドアを引っ掻きながら近づいてくる姿がありました。

 私は、必死で鍵を開けてドアから室内に入ると、急いでドアを閉めて鍵をかけ、慌てて電気を点けました。

 ロックチェーンをかけた時、自宅のドアを引っ掻くような音が……

 カリカリ…… カリカリ…… カリカリカリカリ……

 私は、絶叫しながら靴を脱ぐのも忘れてダイニングに飛び込むと、戸棚から、まだ開封していない塩の袋を取り出して……

 急に部屋の電気が消えました。私は、ヒィと小さく悲鳴を上げましたが、身体が恐怖で動けなくなりました。

 玄関の方からカリカリカリカリという音が近づいて来ています。恐怖と絶望が私を支配していましたが、無理やり身体に力を入れて塩の袋を頭の上に持って行き、それを破りました。

 ザザーという音と共に頭の上から大量の塩が落ちてきました。私は狂ったように袋の中に塩が無くなっても、最後の塩1粒でもとそれを頭上で振り続けました。

 ふと冷静になってみると音がしなくなっていました。そして電気が再び点いた事に驚いて悲鳴を上げてしまいました。

 私は、身体についた塩を払おうとして、塩が全て真っ黒になっているのに気が付き、その場にへたり込んでしばらくは動けませんでした。

 あれから私には何もありませんし、自宅内でも外でも特に変わった事は起きていません。もちろんあのカリカリという音も聞きません。

 塩は、効かないどころか反対に霊に対して使うのは危険だと聞いた事はありますが、私には効いたようです。

 ただ本当に彼らは、私を一緒に連れて行くのを諦めたのか? 離れて行ったのか?

 ただ分かるのは、私は一生、あのカリカリという音に怯えて暮らすだろうという事だけです。

 私は、絶対に彼らと一緒に行きたくありません。一緒に…… 絶対、一緒に…… 絶対…… あなたも一緒に行きましょうよ……


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