新居の老人(実話怪談)
ここに住み始めて24年になります。結婚を機にここを新居と決めました。
戦後すぐに建った古い一軒家。広島市郊外の一等地にも関わらず家賃がすごく安かったのが決め手でした。
住んですぐに彼と出会う様になりました。70歳位でしょうか? 時々お風呂のドアの所に立っていました。
大家さんに以前に住んでいた方は、亡くなっているのですか? と不躾にも聞いた事があります。
前に住んでいたYさんは、年の頃は70歳位で一人暮らしをしていたのですが、歳を取り過ぎているから一人にするのは心配と、娘さん夫婦が引き取られたそうで、お元気だとの事。
では、Yさんではなく彼以前に住んでいた方だったのでしょうか?
入居当時は、まだ私もクリスチャンではなく、オカルト好きではありましたが、どちらかと言えば科学信奉者で、良く見ていたり聞いていたり体験していた怪異現象も幻覚か幻聴か偶然だろうと思っていましたので、お風呂場前に現れる老人も幻覚と割り切っており、恐怖心もなく挨拶する事も。
ある日の事です。
お風呂に入っていて洗い場で髪を洗っていました。トリートメントも終わり、お湯で頭を流して前の湯船を見るとその老人が……
湯船に浸かっている謎の老人。シュールでした。ですが、幻覚だと言い聞かせながら自分も湯船に。そうしたら老人は消えてしまいました。
あれから何度かその老人とお風呂を一緒させて頂きました。お風呂場前の廊下でも何度かすれ違い……
ここ十数年、私が身体を壊してほぼ寝たきりになってしまって以来、彼の姿を見ていません。
ホッとする気持ちもあれば、淋しい気持ちもあります。もしかしたらクリスチャンに改宗したせいもあるのかもしれませんが、私がクリスチャンになったのは数年前。
もしも彼が幽霊だったのなら、どこに行ってしまったのか? 挨拶しても無言だった彼。でも、どこか優しそうで、その顔や姿は今でも忘れられません。
もしも彼が本当に幽霊だったのなら、天国に行かれたのかもしれませんね。
そう心から願いつつも、また遊びに来てくれたらとも思っています。