煙(実話怪談)
これは、Yさんがまだ高校生の頃の怪奇譚です。
Yさんは、夕暮れ時に駅近くの商店街を家に急いでいました。日はもう沈んできており、辺りは暗くなってきていました。
なので女性であり若かったYさんにとっては、少し遠回りになっても人通りの多いこの道を、その日の帰り道に選んだのだそうです。
駅前の小さなアーケードを通る時、一人のサラリーマンがその傍らでタバコを吸っていました。そう、タバコを吸っていると最初は思いました。しかし……
彼女は異変に気が付き、恐ろしさに身体が固まって一瞬動きが止まってしまいました。
そのサラリーマンと思しき男性は、スーツ姿だからそうYさんは判断したのですが、その上半身のほとんどは煙に覆われており、顔さえ見えない状態で、しかもその煙は、その男の上半身から後ろに約2メートルも、まるで尻尾のように漂っていたのです。
Yさんは、すぐに怖さを堪えて、まるで気が付かなかったかのように男の横をすり抜けて、そこから一番手前の喫茶店に逃げ込みました。
何とかコーヒーを注文するも、震えが止まらなかったのだそうです。一体あれは何だったのか?
Yさんが少し落ち着いて来た頃に、一人のOLが顔面蒼白で喫茶店に飛び込んできました。彼女も先程までのYさん同様に席についても、傍から見ても分かる程震えていました。
きっとあれを見たんだ。この人もあれが見えたんだ。
Yさんは、そう思い、あれが自分だけの見間違いでなかった事を知ったそうです。
あなたの周りには、夕暮れに煙に憑りつかれるように立っている人は、いませんか? あなたには、見えていますか? きっとあなたがそれを見えるように、煙はあなたを見返しているかもしれませんね。