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机上の殺人

 儂は、病気でもう長くない。だからここで告白をしておこうと思う。

 儂は、善人面をした悪人だった。何度も何度も殺人を犯した。

 日本では、いや、海外でもそうだろうが、殺人とは、遺体が見つからなければ事件にはならない。

 彼と会ったのは、戦時中の満州での事だった。迫りくるソ連軍から引き上げ者を守る為に前線に駐屯していた同じ中隊に彼と儂は所属していた。

 その中隊の中で彼と儂だけが生き残り、日本に帰りつく事が出来た。

 彼と儂は、意気投合して帰国してすぐに小さな建設会社を起こした。

 それから30年以上経って会社も大きくなったある日、彼は、もう十分な資産を持てたので引退したいと言い出した。

 儂は、それ自体には異論はなかったが、彼は、自分が持っておった自社株を他人に売ろうとしていた。

 儂には、それが許せなかった。ずっと一緒に育てた会社なのに……

 だから、儂は、遺体が絶対に見つからないようにと、完璧な殺人計画を立てた。

 その日の夜中に、彼をとあるビルの工事現場に呼び出して、鈍器で殴って殺し、凶器もろともビルの基礎になるコンクリの中に沈めた。

 ビルが建てば、遺体も凶器も数十年、自分が生きている間には見つからないだろう。まだ時効があった時代だ。

 しかし、彼は、次の日の朝には、会社に出社してきた。

 儂は、目を疑った。

 そして、それから再び殺人を計画し実行し、コンクリに埋めた。

 だが、彼は必ず次の日には出社してきた。しかも、儂に殺された事を知らないようだった。

 その繰り返しだった。

 儂は、何度も計画を練り、何度も彼を殺して埋めた。

 嘘だと思うなら、この後に埋めたビルや橋などを記しておくので、そこの基礎を壊してみると良い。

 彼は、まだ生きている。

 この告白をしようと思ったのは、ある事を思い出したからだ。

 あの激戦の満州で、儂は彼が何度も撃たれて倒れたのを見た。

 そう、何故それを今まで忘れていたのか?

 覚えていたなら、彼を殺すなど机上の空論だと分かっただろうに……


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