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神楽

私にNASAの友人ボビーがいるのは実話

 私の知り合いから聞いた話です。

 その知り合いというのはロバートという名前で、母の親友の姉の息子になりますが、お父さんは日系二世でサクラメントに住んでいました。

 ロバートは、アメリカ育ちですが母親が広島出身でしたので、小さい頃からちょくちょく日本にやって来ていて、私より1つ上という事もあり、こっちに来た時はよく遊んでいました。

 私は彼の事をボビーと呼んでいました。ロバートの愛称ですがロバートだとボブとかロブとかが愛称としては多いのでしょうか? だけど彼の周りの人はみんなボビーと呼んでいました。

 そんな彼もいつの間にかハーバード大学に入り、NASAに勤めるようになって忙しくなったらしく中々帰って来なかったので、最近までご無沙汰していました。

 彼の父親が亡くなったのを契機に彼の母親が広島に帰って来たというのもあって、最近では、ご無沙汰だった彼もちょくちょく休暇に広島にやって来ます。

 今年の初夏も広島に来て、寝込んでいる私を心配して家まで来てくれました。その時、ボビーに私は、「最近、怪談を書くようになったのだけど、アメリカのネタある?」と聞いてみたのです。

 ボビーは少し考えてから、「これは高校時代の友人が体験した日本のゴーストストーリーかどうか分からない不思議な話なんだけれど」と話し始めてくれました。

 彼の友人、仮にマイクとでもしましょうか。彼とボビーが親しくなったのは、マイクが軍人の子で在日米軍基地に彼の父が勤務していて、高校になってアメリカに帰ったから日本繋がりでという事らしいのですが、そんなマイクが日本にいた時にあった不思議な話です。

 ある秋の日のマイクの父親の休日にマイクの母親が基地内で婦人会の集まりで外出してしまい、暇を持て余したマイクと父親は、一緒に2人だけでドライブに行く事になりました。

 楽しく山道を車で走っていたマイクと彼の父親は、しばらくして道に迷いました。

 当時はカーナビなど無く、不慣れな日本の地図を頼りにどこを走っているのかと探してながらだったのだそうですが、中々分からずどんどん山深い細道へと入り込みました。

 その内、空は曇り始め辺りは霧に包まれて行きました。

ほとんど視界が無くなってきたので、一旦車を停めて良く地図を見ようとマイクの父親が提案しました。そして少し小高い広い場所を見つけたマイクの父親は車を停めました。

 最初にそれに気が付いたのはマイクの父親でした。

 どこからともなく大きなドラムのような音が聞こえてきたそうです。

 マイクの父親は車を降りて耳を澄ませました。その時、その音にマイクも気が付いたそうです。

 マイクも車を降りて父親の側に寄って、音がする方向を眺めましたが霧で何も見えませんでした。

 そのドラムのような音は、どんどん大きくなりやがて地響きを立てるような大音量になったそうです。

 マイクと彼の父親は、その音がする方向に目を凝らしました。すると段々と霧が晴れて来たそうです。そして彼らは目を疑いました。

 目の前の谷の向こうにいたのは、50mあるかという程のエイジアのドラゴンと20mあるかという巨大な赤いゴブリンで互いにダンスする様に戦っていたそうです。

 もっと霧が晴れると他の巨大なゴブリンが並んでいるのが見え、彼らは日本のドラムを激しく叩いていたとの事。

 マイクと彼の父親は怖くなり、慌てて車に戻ろうとした時、隣に人影がある事に気が付きました。それは背の高い鼻の長い赤い人だったそうです。

 赤い人は二人に英語で「怖がらなくて良い。これは日本の伝統で神に祈りを捧げる祭事でカグラというものだ」と語りかけてきました。

 ボビーが言うのには、恐らくマイクが見たその赤い人は、日本で天狗と言われているモンスターだったのではないかとの事。

 その天狗の言葉はとても優しくて、マイクも彼の父親も何故か安心してしまったそうです。

「あれは祈りだ。お前たち人間は愚かでいつまでも戦いをやめない」と天狗は彼らに静かに語り始めました。

 天狗が言うには、世界中の聖なるモンスターが各地で神に「平和な世界に」と今でも祈っているのだとか。

 マイクと彼の父親は、天狗の語る平和への願いと祈りの意味を聞きながら、ずっとゴブリンとエイジアンドラゴンのカグラを見つめていたそうです。

 それはとても勇壮で美しく幻想的で荘厳な祈りの儀式で、マイクも彼の父親もいつの間にか魅了されてしまっていたそうです。

 カグラが終わるとゴブリンたちとエイジアンドラゴンは日本のドラムと共に空の雲に吸い込まれて消えて行きました。そして空が晴れ渡りました。

 マイクと彼の父親は気が付くと泣いていたそうです。すごく切なくて、それでも清々しい気持ちになっていたそうです。

 車を停めた場所からは、苔むした清流が見下ろせ夕日を浴びる秋の山々が遠くまで見える様になっていました。

天狗もいつの間にか、いなくなっていました。

「いつか人間は戦争をやめなければいけない。戦場には正義もヒーローもいない……」とマイクの父はその風景を眺めながらつぶやいたそうです。

 それから彼らは、車に乗って難なく基地まで帰り着けました。

 マイクの父親は、何かを決心したように日本の基地からアメリカに転属になったのを機に軍人を止めて州の議員に立候補して政界に飛び込んだそうです。

 ボビーは、そこまで話すと私に「信じられるか」と聞いて来ました。私は、にわかには信じられない話だねと返しましたが、そんな私にボビーは静かにニッコリと笑いながら、こう言いました。

「マイクだけど、今、上院議員でさ、将来の大統領候補って言われているんだよ」

別件ですがNASAに勤めているボビーにUFOや宇宙人はいるのかとか、NASAは、事実を隠してるのかとか聞いてみましたが、「ないよ、アオイはクレイジーな事を言う」と笑い飛ばされました。


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