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《幸福の街》  作者: あお
1/1

~二人の決意~



あれから数日が経った。


俺はあの時のことを考えないよう、静かに過ごしていた。俺は所詮よそ者だ。俺には関係のないこと…。そう自分に言い聞かせるよう考えながら外の休憩所に向かった。胸ポケットから煙草を出すと、一緒に出したマッチで火をつける。


「なぁ、ソル…こないだのことだけど」

『うわっ!?!?!?』

「あ、すまん」

『…はぁー、お前毎回脅かすなって…なに?こないだって』


背後から急に現れたハンスに驚き、咥えていた煙草を地面に落としそうになった。そして呆れたように言う、本当はなんの話か見当がついているにも関わらず。


「…本当は分かってるんだろ?あの扉の向こうに何があるのか。」


肺いっぱいに吸い込んだ煙をゆっくりと吐き出し、左手に持っていた携帯灰皿で火を消した。俺はそのまま俯きながら話始めた。正直ハンスのあの時の顔が頭に浮かんで顔を見るのが怖かった。


『…誰も教えてくれないんだ。この街の事を聞くと話を逸らす。それが引っかかって扉の話は誰にも出来なかった…誰も何も言わないなんておかしいだろ。ハンスは…何か知ってるのか?』


そう言って顔を上げると、ハンスは俺から目をそらし何かを覚悟するように小さく深呼吸をした。あの時の強張った表情ではなくどこか怯えて見えるハンスに一瞬驚く。


「正直俺も詳しくは知らないし、半信半疑だ。それでも気になってることはある…」

『気になってること…?』

「あぁ…、この街では物心着いた頃に必ずある1つの昔話を聞かされるんだ。」

『昔話…』


なんとなくあの本の事を思い出す。そう考えているとハンスはゆっくりと話を続けた。





ーーー





あの扉はこの街の地下奥深くに繋がっていて、1人の男の子が幽閉されている。

その子は何も知らされず、ただそこにいる。ただ静かに生かされている…


生まれてまもない獣人の子供を1人選び、食事を与え幽閉する。

助けてはいけない、優しくしてもいけない。

その古い言い伝えを守る事で人々の平和は保たれている。





ハンスは話しながらタバコを手に取った。火をつけるとため息を吐くようゆっくりと煙を吐く。


「……正直初めてこの話を聞かされた時は眠れなかった。でも、それ以上は誰も教えてくれないんだよ。ただ一言、あの扉には近づくな……それだけはキツく言われてた。」

『……そんな古い言い伝えをなんで今も…もしそれが本当だったとして、誰も助けようと思わないのか!?ハンス!お前はそんな事で怖気付いたのか?』

「お前は!!…まだ、ここに来て日が浅いからそんなことが言えるんだよ。……少なくとも数人は馬鹿らしい風習だと助けようとしたやつもいたんだ。」


ハンスはそう言いながら、短くなったタバコを携帯灰皿で消し、ふっと顔を上げ真っ直ぐ俺を見つめた。


「…俺にとってソルは、本当に大切な友人だ」

『…なんだよ、急に……』

「だからお前には関わって欲しくない」

『そんな!もうこんな話を聞いたあとだし…俺は、あの扉の奥に行く。この街の治安を守るのが俺たちの仕事だろ。』

「でも、その治安はその獣人を幽閉してるから」

『そんなのわからないだろ!お前までそんな迷信本気にするなよ!』


正直、自分でもなんでここまで必死になるのかわからなかった。ただ、小さな命を犠牲にして掴んだ幸せは本当の幸せと言えるのだろうか。


『ハンス。俺は決めた。何を言われてもその子供が本当に存在するのか確かめる。それでもし、本当に実在するなら必ず助けるよ…!』


俺がはっきりそう言うと、ハンスは だよな と、少し呆れたような笑みを浮かべた。


「お前はそう言うと思ったよ。ただ、はっきり言っておく。消えたヤツらはきっともう生きてない。そして、その事に触れないのがこの街の暗黙のルールだ。」


何かを決心したハンスはそれだけ言うと、俺に背を向け歩き出した。


『え…おい、ハンス!』

「ソル、俺も行く。お前を1人で行かせる訳には行かないだろ、バディなんだから。」


振り向いたハンスの表情は、どこか吹っ切れたように明るかった。きっとハンスもずっと気になっていたんだと思う。誰もが隠してきた秘密をよそ者の俺に打ち明けるほど…


それから数日かけて、俺たちは2人で作戦を立て今夜実行することにした。


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