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「……?」

 和人はわずかに腰を浮かせる。


 かりかりとかすかな音の後、今まで気づきもしなかったゴンドラ内のスピーカーから、とぎれとぎれの案内が聞こえた。

「……原因をただいま調査中です。ご迷惑をおかけして、大変申し訳ありません。いましばらく、お待ちください。係員の指示に従って……現在、観覧車は停止……」


「えっ」

 ようやく、状況が呑み込める。

 香織の方を見下ろすと、彼女は案外と平気な顔をしている。

「止まっちゃった、みたいだね」

 何か言わねば、と焦る心で和人が口を開く。

「だね、故障なのかな」

 ありきたりだ、あまりにもありきたりなことばだ。


 唇をかむ和人の目の前で、香織は静かに、胸元に手を入れた。


 香織は胸元から一枚の紙を取り出し、ゆっくりと広げてみせた。


「……それ、」

 和人はごくりと唾をのむ。その音さえゴンドラ内に響き渡った。

「どこで拾ったの?」


「ミナちゃんがね、上着預かった時、なんか落ちたんだけど、って」

 そう、和人はミナが差し出す手に上着を預け、慌てて洗面所に走っていったのだった。


 香織が差し出したのは、確かに、彼が失くしたと思っていたあのメモだった。


「五時、観覧車。ミナちゃんはシゲノブから電話あってパス。ふたりで乗り込み、7分半後に頂上。そこで告げる……」


 香織は暗記していたらしい、和人はその言葉のまま文字を目で辿る。しかし、その後に気づいて、和人は思わずつぶやいた。

「なんだ、これ?」


 和人が言うはずだった言葉はこうだった。


『俺、実は秋からマカオの支所に異動なんだ。今まで一緒の部署になれて本当にうれしかった、ありがとう。何をやっても冴えない自分に、何だかんだ付き合ってもらって、そして何度も助けてもらって、本当に助かりました。一度ちゃんとお礼をいわなければ、と思って、それで……』


 細かいスケジュールについてはシゲノブから何度も手を入れられていた。

「オマ、そこはやっぱりちゃんとレストランに入るっしょ」

 とか、

「あのマジックショーは視といたほうがいいよ」

 とか。

 しかし、最後の言葉については和人、強い目をしてシゲノブを見据え、

「自分でちゃんと考えるから」

 と、メモを取り上げて、自分で最後まで考えながら書いたのだった。

 それこそ、デート前夜まで。


 しかし、和人が一生懸命ひとりで考えた部分はすべて黒く塗りつぶされ、代わりになにか、細かい文字が書き加えられていた。


 そこには、こうあった。


『愛しています

マカオに一緒に行かないか?』


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