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03

 最後まで悩んだのが、ミナちゃんの存在だった。


 シゲノブには、実は一応の話はしていた。


―― ねえ、俺さ、その日に香織ちゃんとその……遊園地の最後、ふたりきりで話したいことあって、だからさ、お前ミナちゃんとその、先に帰ってくれないかな、方向一緒だし、いいだろ? 


 その後シゲノブが

「ごめん用事入っちゃって」

 と言った時には、ほとんど泣かんばかりにこう拝み倒した。


「だったらその日、ミナちゃんのところに電話できない? 夕方、5時過ぎくらい」

「ああ? 五時過ぎ? まあ用事は済んでると思うけどさ」

 シゲノブは軽くこたえたが、

「30分くらいでいいからさ」のことばに

「30分も? 何話すんだよ!」

 と目を丸くしていた。

 そんなシゲノブに和人はひたすら頭を下げる。

「30分あれば、何とかできると思うんだよ、頼む」


 シゲノブは最初のうちは呆れて笑うだけだったが、ようやく真顔になって

「分かったよ……ほかならぬお前の頼みじゃあ、な」

 ぽんぽん、と和人の肩をたたいた。

「あ、ありがとう」

「泣くなよ」

 

 涙と鼻水を拭いている和人に、シゲノブはやや声のトーンをやわらげた。

「ところでオマエ、デートなんて初めてなんだろ?」

 うん、と顔を上げたところに、だったら綿密に計画スケジュールを立てた方がいいぞ、ともっともらしく忠告したのだった。


「オマエ、オレが電話する5時から5時半には最後にどこに行くんだ?」


―― 観覧車だ。


 和人は顔を上げる。


 とりあえず三人で観覧車に向かう。チケットを買うのは5時少し過ぎ。その時にはミナのところに電話が来ているはずだ。スケジュールでそこだけはきっちりと時間を決めてシゲノブに伝えてある。

 いや、シゲノブから

「そこだけはちゃんと押さえた方がいい」

 とアドバイスを受けたのだ。


 ミナは、いくら開けっぴろげな性格と言っても、さすがにカレシからの個人的な電話は聞かれたくないだろう、たぶん、いやきっと一緒に観覧車には乗らずに下で待っている。


 そして、和人は香織とふたりだけで観覧車に乗る。


 暮れかけた湖畔を眺めながら、とりとめもない話をして、真上で、告げるのだ……




 ミナはすぐに電話に気づいた。

「あ……ごめーん」

 ふたりにあいまいな笑みを向ける。

「電話入っちゃった、アタシ、下で待ってていい?」

 返事する間もなくミナは観覧車の陰に入ってしまった。

 香織が軽く肩をすくめる。

「いいよ、ふたりで乗ろう」


 和人は大きく息を吸い、それからゆっくりと吐き出して、うん、とうなずいた。



 ミナはいない。そして、

 和人と香織はふたり、観覧車に乗っていた。

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